AIのお手並み拝見教える力

AIは教師の代わりができるのか

教師の負担軽減や人件費削減などを目的に、教育現場でのAI活用が進んでいる。最近では、教師のサポートとして英語の授業にロボットを導入する学校も出てきた。生徒が話しかけると、発音や文法をチェックしてくれたり、英会話の練習相手として、人間と同じようにおしゃべりを続けることができるという。
英語学習ロボット『Musio(ミュージオ)』を開発するAKAの生松研都氏は、「会話が続くのは、実際の生徒との会話をディープラーニングで学習しているから」と説明する。具体的にはユーザーの発話を聞き取り、テキスト化してデータを蓄積しておき、独自開発したAIエンジンによって、無数のデータセットのなかから最も人間らしい返答を選び出すのだ。
たとえば「ピザが食べたい」と話しかけると、「どうしたの?お腹減ったの?」などと友達のように言葉を返してくれる。さらに、独自の感情エンジンが搭載されており、ユーザーの言葉に反応して表情を変えるなどの工夫が凝らされている。

「安全な空間」で安心して失敗できる

人間のコミュニケーションスタイルを学習したロボットの登場は、生徒たちの学ぶ姿勢にも影響を与えているという。同社の唐見愛氏は、「ロボットを相手にすることで、英語で話すことのモチベーションが高まる」と、その効果を指摘する。
ロボットの利点は、1つには、先生に教えられるというより、友達と会話するような感覚で楽しく学べることだ。
もともと、人前で英語を話すことを「恥ずかしい」と感じている生徒は少なくない。授業中に先生に指名され、皆の前で発音を注意されたり、答えを間違えて友達に笑われたりすると、英語が苦手な生徒ほど、ますます抵抗感を覚えてしまうものだ。しかし、マンツーマンで話すのであれば、恥ずかしさもやわらぐ。しかも、相手は愛らしいロボットなので、思わず話しかけたくなるという効果も生んでいる。
さらに重要なのは、ロボットは叱ったり、馬鹿にしたりしないことだ。答えを間違えても、急かさずにヒントを出してくれて、"Try again!"と優しく背中を押してくれる。いわば「安全な空間」で、生徒たちは失敗を怖がることなく、安心して学習できるのだ。
また、ロボットを活用することで、会話の練習量が増えることも大きなメリットといえる。先生1人では数十人の生徒の会話や発音を逐一チェックできないが、生徒1人にロボット1台あれば、生徒は自分のペース・自分のレベルで、発話の練習ができる。個別の学習履歴を残せるので、学びの進捗や習熟度の管理もしやすい。こうした環境が整うと、生徒は自ら積極的に英語を話すようになる。

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「指導する」のではなく「支援する」存在に

「コミュニケーションロボットは、従来の先生のように教壇の上から生徒を指導するのではなく、横に寄り添って共に上達を目指すパートナーのような存在。『教える』のではなく、『学びを支援する』役割を担っているのです」(唐見氏)
実は今、こうした教育のあり方が改めて注目されている。2020年には、学習指導要領が大幅に改訂され、日本の教育が大きく変わるといわれている。新学習指導要領では英語教育に限らず、「主体的・対話的で深い学び」を取り入れた授業が求められ、生徒の主体的・能動的な学習がより重視されるようになる。それを支援することは、教師の重要な役割となる。
一般に、小中学校の教師はAIに代替されにくい職業といわれてきた。それは、知識を教えるだけでなく、支援という役割が求められるからだ。
しかし、今やAIが、個人のレベルに合わせて繰り返し学習させたり、モチベーションを高める声かけをしたりするなど、学習の楽しさを伝えることができるようになってきた。AIの進歩によって、生徒を指導し、正解に導くという従来型の教師は姿を消し、生徒一人ひとりに寄り添い、共答えを見つけていく「支援者」が増え、理想の学びに近づいていく可能性が広がっている。

Text=瀬戸友子 Photo=平山諭 Illustration=山下アキ

生松研都(おいまつけんと)氏
Oimatsu Kento AKA マーケティングマネージャー
唐見(とうみ)愛 氏
Toumi Ai AKA セールスマネージャー