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 Works University
―労働政策講義― Works Institute
リクルートワークス研究所
第7回講義
外国人労働者問題
1 イントロダクション
2 外国人労働者受け入れの意義と問題点
3 諸外国の取組と誤算
4 国際人材交流の可能性と展望
資料編
参考資料
3 諸外国の取組と誤算

(1) 受入れ制度と調整手段
 先進国の多くは、外国人労働者や移民を積極的に受け入れているが、その受入れ制度、調整手段はさまざまである。たとえば、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、スイスなどでは、労働市場において調達可能でないことを審査して証明した場合に受け入れる方法(労働市場テスト制)を基本的に採用し、部分的に、全体の受入れ人数の上限を設定しておくという数量割当制によって管理している。このほかに、各企業における外国人労働者の構成割合に上限を設定し、外国人を雇用するごとに、雇用主から税金を徴収するという雇用率・雇用税制(シンガポール、マレーシア等)、判断に必要な要素をポイント化して一定以上のポイントを得た者を受け入れるというポイント制(カナダ、オーストラリア)などがある。
 多くの国が採用している労働市場テストであるが、入国管理行政と労働行政にまたがった審査が必要な上、事務手続きが煩雑となりかねないという欠点があるため、欧州各国では、特定の職種や資格に属する人材は自動的に就労を許可する旨を事前に両行政間で取り決める、あるいは、受入れ企業がその他の人材では代替できない旨の証明を行った場合は労働市場テストを省略するというように簡便化している(井口2001)。数量割当は、状況を見ながら数量を上下することができるという利点を持つが、関係業界の思惑に左右される危険性もある。年齢、技能、職歴、学歴等をポイント化して判断するというポイント制は、入国要件に関する透明性が高く、注目されている。
 次に、各国の外国人労働者政策(移民政策)の問題点について検討する。

(2) 各国の取組
 ヨーロッパの国々は、陸続きに国境があるため、古くから人の移動が盛んであったが、最近はEU域内の地域統合が進んでおり、円滑な労働移動の促進が図られている。たとえば、域内においては、自分がEU加盟国の国民であるということを証明するもの(パスポート等)を提示するだけで、他のEU加盟国に自由に出入国し、滞在許可証を発行してもらうことができる。もちろん、合法的に働くことも可能だ。
 また、ドイツ、フランス、オランダ、イギリスなどは、旧植民地からの移民も協定などに基づき大量に受け入れている。しかし、フランスなどでは、失業率が高くなると、「外国人がフランス人の仕事を奪っている」という批判がなされ、最近では、外国人の就労に関して規制が強化されている。
 かつては、柔軟な移民政策を採用していたイタリアも、規制を強化しつつある。もともと、移民送出し国であったイタリアが移民受入れ国へと変わったのは1970年代。当初は、一時的に滞在する「腰掛け労働者」が多かったが、徐々に定住を目的とする者が増え、闇労働市場における外国人労働者の存在も顕在化するようになった。1998年に政府は移民問題解決のために1998年40号法を制定し、移民の基本的人権の認知、移民の就労・社会サービス利用支援、外国人のアイデンティティ保護などを奨励したが、量的コントールは成功しなかった(佐藤2001)。そこで、政府は、不法移民を厳しく規制する姿勢を打ち出し、2002年7月、新移民法の制定に踏み切った。これは、不法移民、不法就労、テロリスト対策を念頭に置いたもので、EU域外の外国人に指紋押捺を義務づけている。また、オーストリアにおいても、外国人労働者の就労規制を強化する新移民法が成立している(2002年)。
 一方、アメリカ、カナダ、オーストラリアにおいても、人口規模を確保するために、積極的に定住移民を受け入れる政策を採用してきた。しかし、これらの国は、移民の量に重点を置いてきたために、移民の質(言語力や職業能力)をコントロールするのに苦労している(アメリカについて詳細後述)。この「質」の問題を解決するために、カナダやオーストラリアでは、移民の語学力、職業能力、経験、学歴などをベースにしたポイント制を採用し、移民を選別している。これにより、ある程度の質は維持されているとも言われ(井口2001)、ポイント制の評価が高まっており、イギリスにおいても、2002年から、特に高度な技術・経験を有する労働者の受入れ促進のための制度としてポイント制を導入している(外国人雇用問題研究会2002)。
 シンガポールは、労働力人口の5分の1が外国人労働者であると言われるが、雇用率・雇用税制というユニークな制度に基づき、シンガポール経済に貢献し、国際競争力向上に資するような優秀な人材を積極的に受け入れる一方、シンガポール人が就きたがらない職業に従事する未熟練労働者については必要最低限となるよう数量調整を行いつつ受け入れている(外国人雇用問題研究会2002)。雇用税は、外国人労働者の需給を政府が管理することを目標として導入された制度であり、外国人を雇用する者が外国人を雇用する毎に一定額の税金を払う仕組みである。雇用率は、外国人労働者の受入れ数を制限することを目的としており、当該企業労働者に占める外国人労働者の割合に上限を設定している。
 しかし、近年、建設部門の外国人労働者依存度が高いことを懸念し、政府は、1998年にプロジェクトのタイプと規模に応じた採用枠(Man Year Entitlement, MYE)を導入し、毎年MYEを基準にして採用枠を縮小している(マレーシアを除く)。
 このように各国とも、多様な方法により外国人労働者の受入れを規制しつつも、積極的に受け入れているが、その量的・質的コントールには苦労しているのがわかる。次に、世界最大の移民国家として知られるアメリカと、最近IT技術者の取込に熱心なドイツの例を紹介する。

(3)アメリカ場合*8
 (1) アメリカの移民政策
 もともとアメリカは移民国家であった。建国から1870年代までは、積極的に移民を受け入れた。1880年代になって、建国当初400万人足らずだった人口が5,000万人を超えたため、連邦議会は無制限に移民を受け入れるのを改め、鉄道建設の労働力として受け入れていた中国人の移民を停止するとともに、「犯罪者、精神異常者、精神障害者、働けず公共の負担になる者」の入国を拒否する移民法を制定した。その後、反移民運動が活発化したこともあり、アメリカの移民は減少し、1960年代にジョンソン政権が新移民法を制定するまで、移民制限の時代が続くこととなった。1965年制定の新移民法にもとづき、アメリカは「離散家族の統合」の原則で定住移民を受け入れるようになった。1986年の改正移民法は、不法就労者を雇用した使用者に対する罰則や、一定要件を満たす場合の不法移民の合法化措置導入を盛り込んだものであった。また、1990年の移民・国籍法で移民受け入れ枠として「雇用目的」の移民を創設して熟練労働者の受け入れ拡大を図る一方、非移民については専門職業に関するビザ細分化を行い、未熟練労働者の受け入れ枠を縮小した(井口2001)。1994年には、NAFTAの批准に伴い、米加自由貿易協定に伴う専門職労働者のビザに替えて、NAFTA専用に専門職のビザが導入された。なお、1996年には「不法移民改革および移民責任法」が施行され、不法移民抑制のために国境警備を強化し、過去に10年以下の期間、アメリカ国内に不法に滞在した者には今後、入国許可を行わないとした(以上、前掲井口)。
 このように見ると、最近のアメリカは専門職種についてのみ受け入れを拡大する政策を導入しているようだ。2001年度から始まったH1-Bビザ(専門職としてアメリカ国内で就労する場合に発行される)の拡充で、この傾向は強まっているといえる。また、2006年5月、上院議会はH1-Bビザ発給数を拡大する法案を可決したが、この法案が成立すれば現行の年間6万5,000件から11万5,000件に増えることになる。

 (2) アメリカの移民問題
 アメリカは長い間移民問題に頭を悩まされている。非移民については専門職に限って受け入れを行い、質的コントロールを試みているが、近隣諸国からの不法入国は後を絶たず、現在、少なくとも400万人の外国人がアメリカに不法に滞在していると見積もられ、カリフォルニア州だけで、年間20億ドルが不法移民の子どもの教育に費やされているという(自治体国際化協会1997)。一部の州は税金や社会保障料を支払っていない不法移民に対しても、アメリカ人や合法移民と同様の社会給付を行っていたが、アメリカ人の反発が強いために、給付の停止を検討しているところや、すでに停止しているところもある。
 また、アメリカ人に占めるヒスパニック系やアジア系の割合は増えつつあり、英語を話せないアメリカ人が数多く存在することも問題となっている。
 さらに、受入れ枠を拡大したH1-Bビザであるが、2000年以降のIT不況のために、H1-ビザにより入国した技術者がレイオフされ、出国を余儀なくされたというケースも少なくないようだ。つまり、アメリカは、外国人技術者の取込には成功したものの、経済予測と労働市場コントロールに失敗し、海を渡ってやってきた外国人労働者がそのリスクを負わされたわけだ。

人種別アメリカの人口構成(2000年および2004年)
人種 人口
(2004年7月1日)
人口
(2000年センサス)
人口合計 293,622,764 100.00% 281,421,906 100.00%
単一人種        
白人 235,990,895 80.4 211,460,626 75.1
黒人 37,521,497 12.8 34,658,190 12.3
アメリカインディアンおよびアラスカ原住民 2,824,505 1 2,475,956 0.9
アジア 12,337,650 4.2 10,242,998 3.6
ハワイアンおよび他の太平洋島原住民 505,394 0.2 398,835 0.1
2種以上の混血 4,442,823 1.5 6,826,228 2.4
その他 不明 不明 15,359,073 5.5
ヒスパニックおよびラテン 41,329,556 14.1 35,305,818 12.5
(出所:U.S. Census Bureau, Census 2000 Brief, March 2001, and National Population Estimates.)

(4) ドイツの場合
 ドイツも日本と同じく深刻な少子高齢化問題に直面している。ドイツが連邦と州の共同で実施した第9回「2050年までの人口予測調査」によると、ドイツの人口は、このままで推移すれば、現在の8,200万人から2050年までに5,900万人に減少するという(田中2001)。人口の減少は労働市場に重大な影響を及ぼすことから、移民政策の見直しが迫られている。国連が実施した「人口維持のための移民受け入れ」のモデル計算によれば、ドイツの場合、64歳以上人口の15〜64歳の年齢層に対する比率を現状で維持するためには、年間約340万人の移民の受け入れが必要という結果が出ている(前掲田中2001)。
 ドイツは、欧州の中で最も多くの移民を受け入れている国で、1959年から1998年までの40年間に国内に流入した移民の数は約3,000万人に達している。うち約2,100万人は流出したが残りの約900万人はそのままドイツ国内に留まっている(前掲田中2001)。
 しかし、ドイツで働く外国人労働者の多くは低賃金のサービス業に従事しており、なかでもドイツに流入したトルコ人は400万人を超えているが、タクシー運転手などロースキルで、賃金の低い職業に甘んじている者が少なくない。
 このように外国人労働者とドイツ人との賃金格差が社会問題となる一方、ドイツはIT(情報技術)労働者不足という問題も抱えている。
 そこで、シュレーダー首相は、2000年にITを専門とする労働者の確保をめざした独自の「グリーンカード計画」を発表した。これにもとづき、政府は、同年7月に2万人のIT専門労働者に特別労働許可証を発行して受け入れるグリーンカード制度を導入、2001年8月までの1年間にインド、中・東欧諸国などから8,600人のIT技術者を受け入れた。しかし、目標の2万人には程遠く、政府は優秀な技術者を確保するための新たな政策を迫られた。
 なぜ、ドイツに外国からIT技術者が来ないのか。これは、1つには言葉の問題、そして、もう1つは、ドイツ労働市場の硬直性の問題*9があると考えられる(Kettmann2001)。IT技術者の大量送り出し国となっているインドだが、技術者に人気のある国はドイツではなくアメリカである。インドの公用語はヒンディー語だが、英語は準公用語であり、教育を受けた者の多くは流ちょうな英語を話す。アメリカの労働市場はドイツと比べると自由かつ柔軟で、能力や技術の高いIT労働者であれば、高給を手にすることができる。そのため、技術者のほとんどは、言葉に苦労せずに高給を得ることができるアメリカに行くことを選ぶのだ。
 抜本的な対応を迫られ、連邦議会は新移民法の制定を打ち出し、移民法案が2002年3月2日に可決、同年3月22日に連邦参議院でも可決した(海外労働時報2002)。
 同法案は、(1)難民認定審査を迅速化し、滞在許可条件を緩和する、(2)一定の要件を満たす外国人労働者に無期限の滞在・労働許可を附与する、(3)ドイツ語のできない外国人に基礎ドイツ語の習得やドイツ文化の学習を義務づける、(4)移民が呼び寄せられる子どもの年齢制限を16歳以下から12歳以下に引き下げる、という4点を柱とする(毎日新聞2002年3月20日付)。
 同法案は両院を通過したものの、バーデンビュルテンベルク、バイエルン、ヘッセン、ザールラント、ザクセンおよびチューリンゲン州の各州政府が憲法に違反するものとして連邦憲法裁判所に違憲提訴し、同裁判所は2002年12月18日に違憲判決を下した(田中2002)。その後、2004年7月に新移民法が2004年7月に連邦参議院で可決し、8月に成立し、2005年1月に発効した。その内容は基本的には違憲と判断された旧法案の内容を引き継いだものだが、(1) 従来5種類あった在留許可の種類を期限付きの滞在許可と期限のない定住許可の2種類に整理し、(2) 移民のドイツ社会への統合を促進するために統合コースおよび統合プログラムの規定を設けた(田中2004)。
 アメリカの同時多発テロ以降、ドイツを始めとする一部の欧州諸国では外国人に対する不信感が強まっており、世論は外国人の流入に難色を示している。しかし、ドイツが近い将来労働力不足に陥ることは確実で、国外から労働力を確保しなければならない現実がある。今後、ドイツがこのジレンマにどのような結論を出すか、注目されるところだ。
(2006年10月20日再掲載)
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