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1 イントロダクション−「派遣」という言葉の曖昧さ
日本の派遣労働者数は、227万人(2004年の数字。厚生労働省2006)。この数字は、労働者派遣法にもとづき、各派遣元事業主から厚生労働大臣に毎年提出される労働者派遣事業報告書によるものである。派遣労働者数は、規制緩和の影響もあって増加傾向にあり、今後も増えていくと予測される。数年前、派遣労働者の雇用保険や社会保険の未加入が取りざたされたが、日本人材派遣協会や各派遣元事業主の努力、また、人材派遣健康保険組合の設立*1により、この問題は解決の方向に向かっている。
ところで、「派遣社員」という言葉は、日常的によく使われる言葉である。しかし、この「派遣社員」という言葉は曖昧で、必ずしも労働者派遣法にいうところの派遣労働者を意味しているわけではない。デパートなどの派遣店員、構内請負の会社に雇用される労働者についても「派遣社員」という言葉が使われることがある。デパートなどの派遣店員とは、自社の商品を販売するため、卸側がデパートなどに派遣している販売員のことだが、派遣元に雇用され、派遣元の業務命令により、派遣先事業所(デパートなど)で就業しているので、労働者派遣法上の派遣労働者ではない。また、構内請負会社に雇用され、生産工程などで働いている労働者が、就業場所で「派遣さん」「人材さん」などとひとくくりに呼ばれたりしている。
労働者派遣と請負は、自社以外の事業所を就業場所とする点で似ているが、請負会社に雇用される労働者の場合、指揮命令は請負会社自身が行っているため、労働者派遣にはあたらない(図1、図2、図3)。 |
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| 図1 労働者派遣 |
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| 図2 請負 |
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| 図3 労働者供給事業*2 |
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ただ、実態としては労働者派遣であるのに、請負という形だけをとった「偽装請負」あるいは「違法派遣」と考えられるものも少なくないようだ。そこで、1986年(昭和61年)に労働省(現厚生労働省)は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)を設置している。それによると、ある事業が労働者派遣事業ではなく請負事業であるというためには、次のような基準を満たす必要があると解される。
(1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行っているか
(2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行っているか
(3) 始業、終業、休憩時間、休日休暇等に関する指示その他の管理を自ら行っているか
(4) 残業、休日出勤の指示その他の管理を自ら行っているか
(5) 労働者の服務上の規律に関する事項について指示その他の管理を自ら行っているか
(6) 労働者の配置、変更等の決定を自ら行っているか
(7) 業務処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達、支弁しているか
(8) 業務処理にあたって法律に規定された事業主としてのすべての責任を負っているか
(9) 業務処理に必要な機械、設備、機材または材料を自ら調達しているか(消耗品的な物は除く。また、専門的な技術もしくは経験を必要とする業務はこの限りでない)
2003年に労働者派遣法が改正され(2004年3月1日施行)、製造業務の派遣が解禁となり、また、紹介予定派遣に限って事前面接が認められるようになった。とはいえ、製造業務の派遣については派遣期間が1年に制限されているため、派遣先企業や派遣労働者に混乱を生じさせているほか、依然として港湾運送業務、建設業務、警備業務等における派遣は禁止されたままである。
これまでの法改正で我が国における派遣事業の規制は緩和されつつあるとはいえ、諸外国の法制と比較すると不自然な規制が残っていることは否めない(小嶌・藤川2006)。他方、実際に就労している派遣労働者の保護は十分とはいえず、これらの問題点を早急にクリアしていかなくては現場の混乱は収まらないだろう。
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〈労働者供給事業、労働者派遣事業、請負の関係について〉
「供給契約に基づいて労働者を他人に使用させることを事業とする労働者供給事業」は、職安法44条により禁止されている。戦前の日本においては、悪質な人夫供給業者などが、就職をあっせんする代わりに労働者から賃金の一部をピンハネするような行為が頻繁に行われていた。戦後すぐに制定された職安法は、このような事態が発生しないよう、使用者と労働者の間に中間業者が介在する労働者供給事業を禁止した。ただし、労働組合等が、労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる(職安法45条)。他方、民法の業務処理請負契約にもとづく他企業労働者の利用は、労働者供給の受入れとは異なるとして、これを許容している。しかし、労働者供給契約ではなく業務処理請負契約の形式をとっている場合であっても、労働者を提供しこれを他人に使用させる者は次の4要件を満たさなければ、労働者供給事業を行う者として取り扱ってきた(職安法施行規則4条)。
| (1) |
| 作業の完成について事業主としての財政上、法律上のすべての責任を負うこと。 |
| (2) |
| 作業に従事する労働者を指揮監督すること。 |
| (3) |
| 作業に従事する労働者に対し使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること。 |
| (4) |
| 自ら提供する機械、設備、機材もしくはその作業に必要な材料・資材を使用し、または企画もしくは専門的な技術・経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。 |
ところが、1970年代に入り、多くの産業で、労働者を他人に使用させ、料金を得る派遣事業が広がった。これは職安法44条で禁止されている「労働者の供給」にあたると指摘されたが、政府は、現実に数多くの労働者が派遣就労し、雇用慣行となりつつある状態を重視して、これらの労働者を保護し、かつ、事業規制を導入して派遣事業の適正化を図る必要があると判断。労働者派遣事業を職安法により禁止される労働者供給事業から切り離して合法化する、「労働者派遣法」を1985年7月に制定した(1986年7月施行、1999年12月1日改正法施行)。1985年制定の労働者派遣法とそれに伴う職安法の改正によって、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる」労働者派遣が、「労働者供給」の適用範囲から例外的に除外された。
また、親子企業や関連企業間では、自己の雇用する労働者をその雇用関係は維持しつつ他企業との雇用関係に入らせる「出向」と呼ばれる人事異動が行われている。
こうして、現行法上は、他企業労働者の労働力利用の主要形態は、労働者を提供する企業と受け入れる企業間の、(1) 業務処理請負、(2) 労働者派遣、(3) 出向、という3つの類型の契約によって可能とされている。(以上、菅野2005参照)
〈欧米と比較した日本の労働者派遣の特徴〉
(1) 沿革
労働者派遣事業は、1960年代にアメリカで始まった人材ビジネスである。企業が一時的に("temporary"に)人員を必要とする場合に、自ら求人活動や候補者の選考をするよりも、他の企業から労働者を貸してもらった方が便利であるという点に目を付けた者が、これをビジネスとして行うようになったのが、労働者派遣事業の始まりである。アメリカの労働者派遣が、「一時的かつ臨時的な」労働力の貸し出しを行うことを原則とするのに対して、日本の労働者派遣は、「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」と「特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務」に限定して、労働者供給事業の例外として認められたものであり、一時的・臨時的な就労形態という性格は弱い。欧米のようなtemporary work ではなく、dispatched workであった。
(2) 規制
日本の労働者派遣法は、派遣事業と常用型に限られる特定派遣事業と、登録型を中心とする一般派遣事業に分け、前者については届出制、後者については許可制を導入している。1986年の労働者派遣法施行当時、労働者派遣事業は、専門的業務とされる13業務についてのみ認められていたが、1996年に26業務にまで拡大され、ようやく1999年の法改正によりネガティブ方式が採用されるに至った。しかし、ネガティブリストとはいっても、その範囲はきわめて広く、港湾運送、建設、警備の各業務から、医療関係業務(政令による)、製造業務(改正法附則により当分の間禁止)、公認会計士や弁護士などの業務(通達による)にまで至っている。新規対象業務についても派遣期間の上限を1年に制限しているほか、欧米において、派遣労働者の就労機会を拡大する方式として評価されている紹介予定派遣(いわゆる temp to perm)についても、数々の制限を設けており、かねてから使い勝手の悪さが指摘されている。他方、アメリカやイギリスでは派遣事業に関する規制がほとんどなく、派遣禁止業務、派遣期間の制限もない。ヨーロッパには、建設(ドイツ)や危険業務(スペイン、イタリア)について派遣を禁止する国もあるが、日本のような広範なネガティブリストを持つ国はない。(以上、藤川2001参照)
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| (2006年10月20日再掲載) |
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