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1 イントロダクション−日本人は働き過ぎ?
日本人は働き過ぎ。一昔前、欧米諸国よりも労働時間の長いことを理由にこのようにいわれていたことがあった。たしかに、1979年の年間総実労働時間を比較してみると、日本が2,126時間であるのに対して、アメリカは1,834時間、イギリスは1,815時間、オーストラリアは1,904時間、フランスは1,856時間、旧西ドイツは1,758時間と、200時間以上、日本が長いことがわかる(OECD 2006)。しかし、それも過去の話で、その後、日本の労働時間は徐々に短くなり、2005年の年間総実労働時間は1,802時間までに短くなった(厚生労働省「毎月勤労統計調査2005年分(平成17年分)」)。
2004年の欧米の状況を見てみると、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパ勢は、それぞれ、1,669時間、1,443時間、1,441時間と、時短が進んでいるのに対して、オーストラリアは1,816時間、アメリカは1,824時間と、ヨーロッパ諸国よりも時短の進行が緩やかである(OECE2005)。アメリカの労働時間がヨーロッパよりも長いのは、多くの労働者が時間給制で働いているため、労働時間の短縮がそのまま賃金に反映されるからだといわれる。そのため、労働組合も時短運動を積極的に行っていない。
また、アメリカでは、一般的に始業時間が早く、朝の6時や7時から仕事をしている人も少なくない。また、祝祭日の数も日本よりも少ない。日本のゴールデンウィーク、夏期休暇(盆休み)、正月休みのように、会社全体で長期間の休暇を取る習慣はない。かつては長期のクリスマス休暇を売りにする企業もあったが、最近では日数も減っているようである。筆者もアメリカで働いた経験を持つが、日本人よりもアメリカ人の方が働きすぎなのではないかと思ったものだ。
日本の労働時間が短くなったのは、1980年代に「日本人は働き過ぎだ」という批判を受けて、週40時間労働制を導入する一方で、みなし労働時間制、裁量労働制、フレックスタイム制などを導入し、企業と労働者に労働時間の柔軟性を与えたのが大きな要因だろう。表向きには、日本は20年間で大幅な時短に成功したといえる。しかし、極端な労働時間の短縮は競争力や労働生産性を低下させる恐れがあり、またフランスの週35時間労働制の失敗例からみても、これ以上の時短を促進する必要はないだろう。
それよりも問題とされるべきは、サービス残業の蔓延である。厚生労働省などの調査によると、労働者の6人に1人は1日9時間以上働いており、サービス残業は平均で毎月30時間と推計されているが、リストラが加速した結果、セクションによっては、人手不足になる企業も増え、サービス残業は、全体的に増加傾向にあるという(よみうり2001)。社会経済生産性本部の調査によると、サービス残業がゼロになると、約90万人の雇用創出効果があるという(生産性本部1999)。
この問題に対して厚生労働省は、2001年に全国労働局宛に、サービス残業防止のための使用者による労働者の始業・終業時刻把握の徹底を目的とする「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」に関する基準を発している。この通達にもとづき、労働基準監督署の行政指導が強化されれば、多少の改善は見込めるかもしれない。しかし、サービス残業をなくすためにはより積極的な対策が不可欠だ。
東京労働局が2001年に発表した「労働時間・休暇制度調査」結果をみると、企業がどのようにホワイトカラーの残業を管理しているかが垣間見える(東京労働局2001)。東京の企業本社の所定外労働時間の管理とそれに基づく時間外割増賃金の支払管理については、「タイムカードを単純集計して所定外労働を算出する」が6.9%、「タイムカードを元に、事後に管理者が確認して所定外労働時間を算出する」が15.9%など、タイムカードの記録を基に労働時間と割増賃金の支払管理を行っている、いわゆる「タイムカード管理型」の企業本社が、22.8%であった。次に、「所定外労働は管理者が指示した場合のみ行い、時間は管理者が現認する」とするものが、13.6%。この方式に類似しているが、「その都度、事前に申請させ、管理者が承認した時間を所定外労働時間とする」(32.6%)を併せた、いわゆる「事前指示・事前承認型」に分類できる企業本社が46.2%であった。そして、「労働者の自主申告時間をそのまま所定外労働時間とする」(10.6%)、「労働者の自主申告によるが、管理者が必要性等の確認を行っている」(49.4%)を併せた、いわゆる「労働者の自己申告制(型)」に分類できる企業本社が60.0%であった。つまり、多くの企業の本社では、残業については労働者に自己管理させているのである。
このような事情を考えると、「時短促進」「サービス残業廃止」といったキャンペーンを行うだけで、サービス残業がなくなるとはとても思われない。労働時間の短縮を名目的に実現しようと努力した場合、その陰でさらにサービス残業が増える危険性もある。弾力的かつ柔軟的な労働時間制の導入の推進、各種休暇・休業制度の充実と取得率アップのための策も併せて考慮される必要があるだろう。
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| (2006年10月20日再掲載) |
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