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 Works University
―労働政策講義― Works Institute
リクルートワークス研究所
第16回講義
解雇・労働争議
1 イントロダクション
2 有期労働契約と解雇
3 団体交渉と労働紛争
4 欧米における解雇法制と労使紛争処理システム
5 今後の動向
資料編
参考資料
1 イントロダクション―労働関係の終了

 労働関係が終了するのは、3つの場合がある。労働者から退職を申し出るときと、会社から労働契約の解除を言い渡すとき、そして、有期労働契約の場合において期間満了とともに自動的に労働契約が終了するときである。
 労働者から退職を申し出る場合、通常は「依願退職」という形式をとる。期間の定めのない契約においては、労働者は2週間の予告期間をおけば、いつでも契約を解約できる(民627条1項)。期間の定めのある契約の場合は、やむをえない事情がある場合のみ解約できるが、それによって会社側に損害を与えたときには賠償責任を負うことになる(民628条)。
 一方、使用者から労働契約を解除する場合、すなわち解雇の場合は、かなり事情が異なる。
 民法では、雇用期間に定めがなければ各当事者はいつでも解約の申込みをすることができ、この場合には雇用は解約の申込みから2週間後に終了すると規定されている(627条1項)。この規定は「解雇退職の自由」を定めたものである。労働者からの労働契約の解約については、この原則が適用されるが、使用者からの労働契約の解約については、労使間の不平等性を考慮して、労働基準法をはじめとする特別法に定められるさまざまな解雇規制が民法に優先して適用される。後に述べるように、労働基準法、雇用機会均等法、労組法などが解雇規制を設けている。
 したがって、民法においては建前として「解雇自由」を謳っているが、この原則は労働基準法等の解雇規制に影響され、実際には解雇は制限されている、というのが実情である。
 ところが、解雇について労基法は、業務上災害により休業した期間と産前産後の休業期間およびその後30日間における解雇制限や、30日前の解雇予告または予告手当の支払義務に関する定めをおくだけである。そのため、会社を解雇され、それを不服とする労働者が解雇の無効を訴えて裁判を起こすというケースが頻発した。裁判所は、数々の裁判例を通じて、いくつかのルールを構築し、その「独自のルール」にもとづき、その解雇が不当であるか否かを判断した。
 この「独自のルール」とは、1つは、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」*1という「解雇権濫用法理」である。「客観的に合理的な理由のない解雇」に当たるのは、理由らしい理由が見あたらず恣意的に行われた解雇である。そして、「社会通念上相当性のない解雇」とは、当該解雇をめぐる諸般の事情に照らすと解雇に処するのは過酷に過ぎるという場合である。
 もう1つの法理は、企業が経営状況が悪化したときに行う余剰人員の解雇、いわゆる整理解雇に関するもので、(1) 人員整理の必要性、(2) 配置転換等による解雇回避の努力、(3) 解雇対象者選定の合理性、(4) 労使協議の実施等、解雇手続きの妥当性の「四要件」のことをいう。
 この「四要件は」、もともと1970年代のオイルショックによって引き起こされた不況の中で行われた大量の雇用調整の時期に大企業が行った雇用調整の慣行ともとに、裁判所が「整理解雇法理」として形成したものである。この4つの要件を満たさないと、解雇権の濫用としてその解雇は無効となる。労働基準法に「このような場合に、使用者は労働者を解雇してもいいですよ」というルールがなかったために、このような要件が作られたのであるが、今では解雇権濫用法理が、もはや判例上確立した感がある。裁判所は個々の整理解雇の事例について「四要件」をもとに検討するわけだが、実際は整理解雇を含む解雇を容易には認めない傾向にある(小嶌2002)。
 ところで、解雇には次のような種類がある。
(1)普通解雇
(2)の懲戒解雇や(3)の整理解雇にあたらないケース。当該労働者を解雇するに合理的な理由が必要である。また、1ヶ月間の猶予期間を置くか、すぐに解雇する場合には平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要がある。社内規程に退職金の定めがある場合は、退職金を支払う必要もある。
(2)懲戒解雇
労働者の非違行為が著しい場合に懲戒処分の極刑としてなされる解雇。解雇予告の必要も、退職金を支払う必要もない。
(3)整理解雇
企業の雇用調整として行われる手段。裁判例で確立した「整理解雇の四要件」をもとにその正当性が判断される(ただし、裁判になった場合のみ)。

 いずれの場合においても、解雇には合理的な理由が必要であることは変わりない。
 また、企業は、不況時の人員削減の際や、女性労働者の結婚退職や出産退職を促す際などに、特定の労働者に対して退職を勧奨することがあるが、その場合には労働者の意思を尊重する態様で行う必要がある。上司の執拗な退職勧奨を受けて労働者が退職願いを出した場合に、後にそれを取り消すことができるかが問題となるケースもある。
 民法第96条第1項は、「強迫ニ因ル意思表示ハ之ヲ取リ消スコトヲ得」と規定している。したがって、労使間で合意退職(依願退職)が成立した場合であっても、もし労働者側の退職の意思表示(退職願の提出)が使用者側の強迫に因るものであるとすれば、当該労働者がこれを取り消すことは可能であり、退職の意思表示が取り消されると合意退職も当然に効力を失うこととなる。
 強迫は、「違法に害悪を示して畏怖を生ぜしめる行為」であり、害悪の告知は、違法性のあることを必要とするが、脅かす行為が違法となるかどうかは、その手段と目的とを相関的に考察して決定しなければならない。退職願を提出しなければ解雇する旨を告げ、退職願の提出を促した行為が強迫に当たるか否かを判断した判例はいくつかあるが、強迫に当たらないとしたものが多い。逆に、強迫に当たるものとしては、喫煙禁止の寮内で喫煙したことを理由に高圧的に数回にわたり退職勧奨したことが強迫に当たるとされた判例がある(ニシムラ事件 大阪地判昭61・10・17労判486号83頁)。退職勧奨する場合の強迫(退職しなければ、解雇するということを付言するかどうかは別として)については、退職勧奨の仕方が問題になると思われる。長時間にわたり一室において執拗に行われた退職勧奨を強迫に該当するとした判例もある。
 最高裁判所は、転籍や退職の勧奨行為は、限度を超えれば違法な権利侵害となり、損害賠償の支払い義務を生じると判示すると同時に、退職勧奨が不法行為となり得る「5項目の判断基準」を示している(下関商業高校事件 最一小昭55・7・10)。
(1) 出頭を命ずる職務命令が繰り返される
(2) はっきりと退職する意思がない労働者に、新たな退職条件を提示するなどの特段の事情がないのに執ように勧奨を続ける
(3) 退職勧奨の回数や期間などが、退職を求める事情の説明および優遇措置など条件の交渉に通常必要な限度にとどまらず、多数回、長期間にわたる
(4) 労働者に精神的苦痛を与えるなど自由な意思決定を妨げるような言動がある
(5) 労働者が希望する立会人を認めたか否か、勧奨者(会社側)の数、優遇措置の有無などについて問題がある
 以上の点を総合的に勘案し、全体として労働者の自由な意思決定が妨げられる状況にあったか否かで、その勧奨行為の適法、違法かが判断される。
解雇の種類
解雇の種類 内容 解雇予告・手当 裁判所のルール
普通解雇 懲戒解雇や整理解雇でないもの。
合理的な理由が必要。
客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と是認することができない場合には権利の濫用として無効になる。
懲戒解雇 労働者に非違行為があった場合に、懲戒処分として行われるもの。
懲戒解雇の前置措置として、出勤停止や自宅待機などが行われるのが通常。
合理的な理由が必要。
不要 客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と是認することができない場合には権利の濫用として無効になる。
整理解雇 企業の雇用調整・人員削減の手段として最終的段階で行われるもの。 整理解雇の四要件
(1) 人員整理の必要性
(2) 配置転換等による解雇回避の努力
(3) 解雇対象者選定の合理性
(4) 労使協議の実施等、解雇手続きの妥当性
(2006年10月20日再掲載)
1 イントロダクション
2 有期労働契約と解雇
3 団体交渉と労働紛争
4 欧米における解雇法制と労使紛争処理システム
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