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4 アメリカにおける賃金と日本との比較
(1) アメリカにおける賃金
アメリカでは、公正労働基準法(Fair Labor Standards Act of 1938)において、最低賃金および時間外労働時間の賃金割増率が定められている。公正労働基準法はすべての企業に適用されるわけでなく、年商50万ドル以上で、かつ、州際事業を行う企業に適用されるほか、病院、介護施設、学校、公的機関に適用される。また、管理職、専門職、外勤販売員などは公正労働基準法の適用を一部除外される*11。現在の連邦最低賃金は5.15ドルだが、これよりも高い最低賃金を設定している州もあり、そのような州では州規定の最低賃金が優先して適用される。
アメリカの賃金制度は管理職や専門職に適用される年俸制とそれ以外の労働者に適用される時間賃金制とに大きく分けることができる。ブルーカラーに多く適用されている時間賃金制は職務給をベースとする。各職業と業務に応じて、ジョブ・ディスクリプションを設定し、その評価に応じて1時間当たりの賃金額が決定する。労働者の技能や技術が高ければ、それにプラスアルファーされる形となる。時間賃金制が適用される労働者には公正労働基準法にもとづき、週40時間を超えて働いた場合に、40時間を超えた時間について50%の時間外労働手当が支払われる。
一方、ホワイトカラーに多く適用される月給制または年俸制も職務給を基本とする。ジョブ・ディスクリプションを設定するのはブルーカラーと同じで、それの評価と各労働者のスキル、経験、能力を加味して、月給額や年俸額が決まる。管理職の場合には、さらに業績目標が設定されるケースが多い。ホワイトカラーについては、時間外労働手当は基本的には支払われない。
アメリカでは、賞与制度は確立しておらず、賞与を支給する企業は少ない。また、賞与の金額も通常はクリスマス期に数百ドルから給料の1ヶ月分前後と高くない。業績がよい場合には特別賞与が支給されることもある。また、退職金制度も一般的に普及していない。
アメリカで、労働者が企業を評価する場合、賃金額よりも付加給付の内容を重視することが多い。付加給付とは、健康保険、401k、ストック購入、ストックオプション、退職金、企業年金、生命保険、有給休暇、有給傷病休暇など、賃金以外の金銭的労働条件を総称したものである。業績の高い企業のストック購入プランに加入していると、時には千万単位や億単位の収入を得ることもあり、労働者はより優れた付加給付を求めて、転職する。企業にとっては、どのような付加給付を備えているかが、質の高い労働者獲得に大きな影響を与える。
(2)アメリカの賃金格差
アメリカにおいても男女間の賃金格差は存在する。しかし、それは性別による差別が原因ではなく、学歴や経験の差が賃金格差になっていると論じられることが多い。実際、アメリカの学歴による賃金格差は、日本よりも大きく、特に90年代以降拡大している。これはさまざまな要因が考えられるが、たとえば、ITバブルの好景気時に企業が能力の高いIT労働者を獲得するために高額の報酬を厭わなかった反面、かつては失業していたノースキルやロースキルの者が季節労働者や派遣労働者となって低賃金職に就いたため、高い賃金層が増える一方で、低い賃金層も増えたのではないかと考えられている。
アメリカでは公民権法第7編(Civil Rights Act of 1964)をはじめとする雇用差別禁止法により、人種、皮膚の色、宗教、性別(妊娠を含む)、出身国にもとづく差別は、採用段階、賃金、解雇などあらゆる雇用側面において禁止されている。しかし、学歴、職業経験、スキルは、その人の職業能力を判断するうえで重要であると考えられており、学歴にもとづく差別は認められている。もっとも、高学歴の者が必ずしも学歴の低い者よりも賃金が高いというわけではなく、各労働者の能力、経験、業績がより重要な判断材料となっている。
アメリカではフルタイムとパートタイム間の賃金格差は名目上存在しない。というのは、アメリカでは同じジョブ・ディスクリプションで、同じ勤続期間であれば、パートであれフルであれ、時間給は同じであるのが原則だからだ。しかし、付加給付面においては、パートタイム労働者がフルタイム労働者に比べて、不利な状況にある。
男女間の賃金格差があるのは、冒頭に述べた学歴や経験による差が1つの理由であるが、その他の理由として、女性職の存在があげられる。一般的に基幹職といわれる医師や管理職には男性が多い一方、補助職といわれる看護師や秘書には女性が多いため、職種別ではなく労働者全体で比較すると、女性の方が賃金が低くなるという指摘である。最近では、男性職には女性が、女性職にも男性が就くようになってきたが、依然としてこの傾向は続いている。
また、企業規模間の賃金格差も全体ではみられるが、職種別でみた格差は比較的小さいようだ。
(3) 日米比較
日本とアメリカの賃金データを比較してみると、日本の方が4割程度高い。1999年の通産省『総合人材ニーズ調査』とアメリカ労働統計局の"Current Population Survey 1999"から次のような分析がなされている(土肥2000)。
1999年の日米のビジネスパーソンの年収比較では、全体ではアメリカ100(391万円)に対して、日本(541万円)が138となり、日本の方がおよそ4割弱年収が高い結果となっている。職種別では総じて「技術・エンジニア系」の年収は、アメリカより日本の方が低く、反対に「事務系ホワイトカラー・現業職系」では、日本はアメリカの1.1〜1.5倍以上の水準となっている。これらの職種群に関しては日本の年収の高さが際立っている。
また、それぞれの国ごとの職種間における賃金格差については、アメリカはトップの「電気・電子・機械設計」755万円に対し、最下位の「食料品関連」は285万円で、格差はおよそ2.6倍。日本では、集計対象とした職種のすべてが400万〜500万円台に集中しており、トップと最下位の賃金格差は、トップの"「ソフトウエア開発」563万円に対し、最下位の「広告・出版・マスコミ・クリエイティブ」が441万円。格差はおよそ1.3倍にとどまっている。
その職業やポジションごとに求められる役割や、能力・評価基準が比較的明確な、職務給制度が幅広く導入されているアメリカに比べ、日本は最近になって能力・成果主義賃金制度が浸透しつつあるとはいえ、賃金事情はまだまだ硬直化しているのが実情のようだ。こうした差異のない賃金体系と、これまでの日本における結果の平等を求める思考とは決して無縁とはいえない(土肥2000)。
今後は、日本においても賃金の職種間格差に加え、同一職種内格差も徐々に広がりをみせていくと思われる。賃金格差が拡大すればよいというわけではないが、的確な評価基準に基づいた適正な賃金格差の存在もまた、柔軟な労働市場を形成するうえでは、必要不可欠な要素となるのである(土肥2000)。 |
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| 賃金の日米比較 |
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| 職種※1 |
週給(US$) |
購買力平価 |
日本の年収(万円)※3 |
アメリカを100としたとき |
| 換算年収(万円)※2 |
| 労働者計※4 |
549 |
391 |
541 |
138 |
| 電気・電子・機械設計 |
1,060 |
755 |
497 |
66 |
| プログラマー |
898 |
640 |
450 |
70 |
| 研究開発 |
1,041 |
742 |
524 |
71 |
| 医療関連 |
861 |
614 |
450 |
73 |
| ソフトウェア開発 |
1,008 |
718 |
563 |
78 |
| 広告・出版・マスコミ・クリエイティブ |
686 |
489 |
441 |
90 |
| 施工管理・現場監督 |
720 |
513 |
499 |
97 |
| 営業職 |
650 |
463 |
455 |
98 |
| 機械・電気関連職 |
625 |
446 |
450 |
101 |
| 経理担当事務 |
678 |
483 |
538 |
111 |
| 総務人事 |
595 |
424 |
482 |
114 |
| 購買担当 |
643 |
458 |
558 |
122 |
| 事務管理職 |
603 |
430 |
540 |
126 |
| 一般事務 |
433 |
309 |
481 |
156 |
| 食料品関連 |
400 |
285 |
448 |
157 |
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※1 Bureau of The Census "CURRENT POPULATION SURVEY 1999"
『総合的人材ニーズ調査』(通産省)での職種分類に、 "CURRENT POPULATION SURVEY 1999" の職種をあてはめた。複数該当するものがある場合は、職種の人数の重み付けをして新たに平均を算出。
※2 購買力平価(対ニューヨーク)1ドル=137円(『物価レポート'99』経企庁)とし、52週分で換算。
※3 『総合的人材ニーズ調査』(通産省/1999年)の職種別賃金の月額給与中位数を18カ月分で換算。
月額給与は、『人材ニーズ調査』における「アンケート調査」に回答した全国76,804社(本社事業所)に対して行われた「追加聞き取り調査」による"当該職種の募集時賃金"の集計結果(有効回収数は5,056社)。
※4 アメリカは16歳以上、日本は労働省『平成11年賃金センサス(速報)』より引用。 |
| (出所 土肥2000) |
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