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3 賃金格差
日本にはさまざまな賃金格差が存在する。とりわけ、議論されるのは、男女間、パートタイムとフルタイム(正社員)間、企業規模間などにおける賃金格差である。ここでは、それぞれの賃金格差の問題点と代表的な見解を紹介する。
(1) 男女間の賃金格差
女性の賃金が低いのは、これまで定着していた「夫が稼得労働を行い、妻が家庭内労働を行う」という役割分担意識と、女性労働力を単なる補助的労働力としてしか見てこなかった企業姿勢に原因がある。1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以来、そうした役割分担的発想は乏しくなりつつあるが、現在でも完全になくなったわけではない。女性は結婚や出産を機に退職することがあるため、長期的な視野で業務を任せる社員として女性を雇わない(管理職に登用できない)という企業行動は、いうまでもなく男性労働者を中心に発達してきた年功賃金にもとづく長期雇用制度が根底にある。しかし、少子高齢化により、女性労働力の確保は不可欠であり、女性の労働市場参入あるいは再参入を促進するためには、男女間賃金格差を解消する必要がある。
統計をみると、所定内給与における男女間の賃金格差は、年々縮小傾向にある。男性の所定内給与額100に対する女性の割合をみると、1985年には59.6%だったのが2004年には67.6%にまで伸びている。(厚生労働省『賃金構造基本統計調査』より)。この格差は、職務(職種、職階)、勤続年数、学歴構成が 男女間で異なることなどによるところが大きいと考えられるが、近年、女性の勤続年数の伸長により、勤続年数の違いが 格差に与える影響は徐々に縮小している一方、職階の違いが格差に与える影響はほとんど変わっていない。なお、我が国の男女間賃金格差は、管理職への登用が少ないなど女性の能力発揮の場が十分でないこと等を反映し、欧州諸国と比べると大きい*6。
仮に、女性就業者の勤続年数や学歴の構成が男性就業者と同じだとした場合の男女の賃金を比較すると、格差はさらに小さくなり、女性の賃金は男性の約8割の水準となる。これは、多くの企業で勤続年数とともに賃金が上昇するしくみがとられている中で、女性の場合には、結婚後に、出産、育児等を契機に就業を中断するなど職業キャリア形成が継続的に行えない場合が多いことが、男女間賃金格差の一因となっていることを示している。企業のなかには恣意的に女性の賃金率を低く抑えているところもあるが、多くの場合、そのような制度は憲法の平等原則に反し、民法の公序良俗規定に違反する*7、あるいは男女同一賃金原則を定めた労基法4条に違反する*8ものである。
男女間の賃金格差は、男女雇用機会均等法や労基法の改正といった法制面の整備、女性の高学歴化や職種・雇用形態の多様化が進み、国際的に受け入れられない男女間賃金格差を容認する企業への不信感が広がることによって、今後もさらに縮小していくと期待できるだろう。 |
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| 年間賃金における男女間格差の推移 |
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| (出所 連合2006) |
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(2) フルタイムとパートタイム間の賃金格差
正社員が減少する一方、パートタイム労働者が増加している。厚生労働省によると2005年のパートタイム労働者数は1266万人で、雇用者総数の約4分の1に達している(厚労省パート2006)*9。
数が増える一方で、パートタイム労働者の多様化も進んでいる。たとえば、パートタイム労働者の管理職、専門職、基幹職への登用である。しかし、パートタイム労働者の処遇は、フルタイムの正社員と異なった取扱いになっている場合がほとんどである。賃金水準はもとより、賞与や退職金の有無、福利厚生利用の可・不可といった点で、区別がなされている(以上、佐藤2002)。こうした現状はパートタイム労働者の労働意欲や能力開発意欲の維持を難しいものとし、パートの雇用拡大を難しくする要因になりかねない。この問題を回避するためには、正社員とは別枠でパートタイム労働者を処遇するのではなく、正社員とパートタイム労働者を同一枠組みのなかで処遇する必要がある(佐藤2002)。
厚生労働省では、2001年3月より「パートタイム労働研究会」を設置し、今後のパートタイム労働のあり方について検討していたが、2002年7月に最終報告を発表した。
そのなかで同研究会は、年功賃金制度から能力・成果主義賃金制度へと徐々に変わりつつあるなか、企業はパートタイム労働者を含めた「働きに応じた処遇」制度を構築することが求められていると述べているが、合理的な理由があり、処遇決定方式を合わせられない場合には、処遇格差は合理的範囲内で認められてもよいとする考えを示している。また、ヨーロッパの同一(価値)労働同一賃金の考えは、日本の土壌にそぐわない可能性があるため、日本独自の「均衡処遇ルール」を確立することが望ましいとしている。そして、現行の税・社会保険制度が、パートタイム労働者の低賃金を助長し、能力発揮への妨げにもなっていることから、就業調整行動が起こりにくい税・社会保険制度への転換が必要だと訴えている。
一般労働者とパートタイム労働者の賃金格差は拡大傾向にあるが、政府は2007年にパート労働法を改正し、パートタイム労働者の処遇を改善する方針だ*10。 |
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| 短時間雇用者数・割合の推移−非農林業− |
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女性パートタイム労働者と女性一般労働者の賃金格差の推移 (1時間当たり所定内給与額の比較)
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| (出所 厚労省パート2006) |
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(3) 企業規模間の賃金格差
日本では、欧米と異なり、職種別賃金体系が発達していない。その代わりに各産業の大企業における賃金制度や賃上げ率が同じ産業の中小企業に少なからぬ影響を与え、産業別・規模別の賃金体系が成り立っているようにみえる。
企業規模別の平均賃金の動向について、厚生労働省の賃金構造基本統計調査と中小企業庁の中小企業白書からみてみよう。従業者1,000人以上の大企業の賃金を100としたときの100〜999人規模、および10〜99人規模の中小企業の賃金水準は、決まって支給する現金給与額、年間賞与その他特別給与額ともに、小さい規模の企業ほど相対的に賃金水準が低い。また、決まって支給する現金給与額よりも年間賞与その他特別給与額の方がこの傾向は強い。長期的動向を見ると、1957年度(昭和32年度)経済白書において「企業規模別の賃金格差が極めて大きいことが我が国特有の現象」と指摘されて以降、格差は大きく縮小に向かったが、1963年の中小企業基本法制定以後に限ると、おおむね安定的に推移している。ただし賞与等を含めた1時間当たりの平均賃金に換算すると100人以上の企業と10〜99人企業との間の賃金格差は1986年以降縮小傾向にあったが(中小企業白書1999)、1995年から拡大傾向に転じ、その傾向は2004年も進行中だ(連合2006)。
では、なぜ企業規模で賃金に差があるのだろうか。学説は、企業規模間の賃金格差は、労働者の「質」、「能力」の違いによると説明することが多かった(樋口・玄田1999)。大企業では技術革新の速度が速く、それに対応できる(カン・センスの良さ、適応力、仕事への意欲・取り組み方などの)生来的な労働者の質が重要であると考えられてきた。しかし、大企業と中小企業では、企業内で行われる職場訓練の機会の違いが見られ、それにより労働者の熟練度に相違が生じ、規模間の賃金格差に反映されるという仮説も考えられる。すなわち、労働者が生来的に持つ能力差の他に、企業内部の熟練形成の仕組みの違いが、大企業と中小企業の間の賃金格差を生み出していると説明することもできる(樋口・玄田1999)。また、中小企業の従業員は、大企業の正社員に比べ使用者に対する交渉力が弱いため、賃金の景気感応度が相対的に大きくなっているのに加えて、バブル崩壊後の景気低迷に伴う労働需要の弱さが、中小企業従業員の賃金上昇率を相対的に低く抑えてきたからだとも説明される(山田2000)。
企業の規模が大きければ大きいほどスケールメリットを享受することができ、それが従業員の労働条件にも反映される。学校卒業者が大企業への就職を希望するのも、安定した雇用と恵まれた労働条件に惹かれるからだ。しかし、年功賃金にもとづく長期雇用制度では、大企業に就職した者が勝ち組、それ以外は負け組となり、転職やリストラによって勝ち組が負け組に変わることはあっても、負け組が勝ち組へ変わることはめったいない。しかし、労働者が職場において習得した技能や技術が、別の職場では正当に評価されず、労働条件が悪くなるのであれば、現在の制度は労働者の向上心を損なうものである。また、優秀な中小企業の従業員が、優秀でない大企業の従業員よりも、賃金が低いというのも納得がいかない。
ヨーロッパでは、伝統的な産業別協約にもとづく職種別賃金制度が発達しており、同じ職業に従事していて、能力に差がなければ、企業規模にかかわらず、賃金はほとんど変わらない。日本が職種別賃金を導入するかどうかはともかく、流動的な労働市場を形成するには、正確な職業分類とそれに対する評価、そして、年功賃金から能力・成果主義賃金への移行が欠かせないだろう。
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| (2006年10月20日再掲載) |
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