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 Works University
―労働政策講義― Works Institute
リクルートワークス研究所
第15回講義
賃金
1 イントロダクション
2 日本の賃金体系
3 賃金格差
4 アメリカにおける賃金と日本との比較
5 今後の課題
資料編
参考資料
2 日本の賃金体系

(1) 賃金とは
 賃金は、労働者にとってもっとも重要な労働条件の1つである。では、賃金とは何だろう。給与や給料とどう違うのか。手当やボーナスも賃金なのだろうか。労働基準法は賃金に関する規定をいくつか設けているが、11条でその定義を「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定めている。「労働の対償」とは*4、使用者が個々の労働者に対し労働の報酬として支払いを義務づけられるものであり、また逆にいうならば個々の労働者が使用者に対して労働の報酬として支払を請求できるものである 。ただし、会社から支給されるものでも、実費として支払われる旅費、役職員の交際費、作業用品代、そして、制服や作業着などは賃金に含まれない。
賃金の構成
(出所 笹島2001)
 そのほかに、労働基準法は24条で、賃金の支払方法に関して、使用者は、通貨で、労働者に直接、その全額を支払わなければならず、また、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと定めている。これは、(1)通貨払い、(2)直接払い、(3)全額払い、(4)毎月1回以上定期日払いの賃金4原則といわれる。また、4条では男女同一賃金の原則(法4条)を定めている。
基本給の決定要素
1 職務内容
a. 知識・技術・技能の必要度(専門的な知識・技術・技能、資格、教育歴、対人関係の技術・能力等)
b. 熟練・経験の必要度(職務経歴の程度)
c. 責任の程度(意思決定、人事管理、組織管理、予算管理等の責任)
d. 職務遂行の場の物理的条件(騒音、ほこり、ちり、よごれ、危険、屋外の労働等)
2 保有職業能力
現在の職務では発揮されていないが、企業にとって価値のある職業能力(資格、経験、知識・技術・技能など)
3 必要とする生計費
(出所 笹島2001より)
(2)最低賃金
 最低賃金制度とは、最低賃金法にもとづき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとされている制度である。最低賃金額は、(1) 労働者の生計費、(2) 類似の労働者の賃金および(3) 通常の事業の賃金支払い能力を考慮して定められることとなっており、地方最低賃金審議会(公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成)での審議を経て、地方労働局長により決定される。
 最低賃金より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めた場合であっても、それは法律によって無効となり、最低賃金額と同様の定めをしたものとされる(最低賃金法5条1項、2項)。
 最低賃金には、以下のとおり地域別最低賃金と産業別最低賃金および労働協約の拡張適用による地域的最低賃金の3種類がある。
 (1) 地域別最低賃金
 地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、すべての労働者とその使用者に対して適用される。各都道府県ごとに1つずつ、全部で47の最低賃金が定められる。
 (2) 産業別最低賃金
 産業別最低賃金は、特定の産業について、関係労使が基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めるものについて設定されており、各都道府県ごとに全部で249の最低賃金が定められている。
 (3) 労働協約の拡張適用による地域的最低賃金
 一定の地域の同種の労働者および使用者の大部分に賃金の最低額を定めた労働協約が適用されている場合、労使のどちらか一方の申請に基づき、その賃金の最低額がその地域の全ての労働者に拡張して適用される制度である。現在2つの最低賃金が定められている。
 最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金に限られる。具体的には、基本給と諸手当(ただし、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などを除く。営業手当などは含まれる。)が対象となる。逆に、以下の賃金は最低賃金の対象から除外される。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1 カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える期間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当および家族手当

 産業別最低賃金は、都道府県内の一部の産業の一部の使用者および労働者に適用される(18歳未満又は65歳以上の者、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の者、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する者などには適用されない。地域別最低賃金が適用される)。それに対して地域別最低賃金は、都道府県内の全ての使用者および労働者に適用される(パートタイム労働者、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態の別なく適用される)。産業別最低賃金が決定されていない業種や職種は、地域別最低賃金の対象となる。
 しかし、一般の労働者と労働能力などが異なるため、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭める可能性がある下記の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の適用除外が認められている。
(1) 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
(2) 試用期間中の者
(3) 認定職業訓練(事業主等の行う職業訓練の申請を受けて、都道府県知事が認定を行った訓練)を受けている者
(4) 所定労働時間が特に短い者、軽易な業務に従事する者、断続的労働に従事する者
 最低賃金の適用除外許可を受けようとする場合には、使用者は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に最低賃金適用除外許可申請書を提出しなければならない。

(3) 日本の賃金体系の特徴
 冒頭にも述べたように、日本の賃金の特徴に年功賃金がある。年齢や勤続年数をベースに賃金額を決定するという制度である。若い者は安く雇い、年齢が高くなるに従って賃金額をあげ、最後にはかなりの退職金を出す。雇われている側からすれば、途中で辞めれば損であり、長く勤めて後へ行くほど希望がもてる賃金体系である。年功賃金制度のもとでは、定年まで勤続しないで途中で会社を辞めると労働者にとっては損になるため、どうしても「就社」傾向が高くなる。これは、企業にとっては安定した労働力を維持でき、人事労務管理が比較的容易になるというメリットをもたらす一方、雇われる側にとっても将来設計が立てやすいというメリットとなる。
 しかし、少子高齢化、高学歴化、雇用形態の多様化と、社会や労働市場が変化するにつれて、年功序列制度の維持は困難になってきた。その理由は、1つには企業が年功賃金とそれにもとづく長期雇用を保障することがコスト的にできなくなってきたこと、1つには労働者の能力に関係なく賃金が決まるという制度が国際的にも国内的にも受け入れられなくなってきたことにある。
 欧米では、賃金額決定における年齢や勤続年数の評価部分は極めて小さい。もっとも重視されるのは、各労働者のパフォーマンスである。どの産業の、どの規模の会社に何年勤めているかで決まる日本の賃金とは異なり、どの職業に就き、どのような成果をあげているかで賃金が決まる。言い換えれば、欧米の賃金制度は、会社にどのくらい貢献できたかで賃金が決まる制度だといえよう。
 日本においても、これまでのような時間(働いた時間、年齢、勤続年数)を物差しとするスタイルは限界にきており(小嶌1998)、特に若者の「会社離れ」はここ数年顕著になっている。こうした現状に危機感を覚え、賃金体系を成果賃金制度や年俸制*5に変えるところもでてきた。だが、企業のなかには年俸制や成果賃金を賃金切り下げの手段として利用するところもあり、労働者に危機感を与えるケースや、逆に、これらの新しい賃金制度の導入が労働者の志気を弱めてしまう場合がある。特にこれまで終身雇用を半ば約束されていた中高年齢労働者にとっては、年功賃金から成果賃金への転換は、「寝耳に水」の緊急事態となりかねない。したがって、年功賃金に代わる新しい賃金制度の導入は、労働者の充分な理解と信頼を得てから、透明な制度のもとに実行する必要がある。
 学識者の意見においても日本的雇用制度が崩壊するようにいわれることが多い。しかし、長期間の技能形成が必要な部門、個々の労働者の能力を時間をかけて審査する必要がある部門では、「長期雇用」は不可欠であるといわれる(大竹1999)。
 労働者の働きぶりを不完全にしか監督できない部門では、 年功賃金は有力なインセンティブシステムとして機能するが、年功賃金が成立するためには、 企業の倒産確率が低いという条件が必須となる(大竹1999)。
 いずれにしても企業は、一律的な雇用制度から、労働者の職種や雇用形態に応じた弾力的な雇用制度を確立していくことが求められている。
(2006年10月20日再掲載)
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