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 Works University
―労働政策講義― Works Institute
リクルートワークス研究所
第10回講義
高齢者就業支援
1 イントロダクション
2 高齢者就業支援
3 定年制の歴史と現状
4 年齢差別禁止という考え方
5 今後の論点
資料編
参考資料
3 定年制の歴史と現状

(1) 日本の高齢者雇用政策と定年制
 定年制とは、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度をいう*4。定年制の歴史は明治時代に遡る。明治20年代初め(1880年代後半)に官吏や官営工場労働者等に導入された後、徐々に民間企業に普及していき、現在では、従業員30人以上の企業の9割以上で定年制が採用されている。
 かつては、「55歳定年」とする企業が大半であったが、1970年代半ば頃からの高齢者雇用促進政策をうけて、60歳定年が主流となった。1970年代における欧州諸国の若年失業対策が、高齢者の早期引退を促し、労働力需給のバランスを図ろうとするものが中心であったのに対し、日本の基本政策は、60歳までの定年延長を基盤として65歳までの継続雇用と、高齢者の再就職を促進しようとするものだった。この基本政策は、1980年代にさらに強化され、1986年の高齢者雇用安定法制定に至り、60歳定年を事業主の努力義務とする規定が盛り込まれた(4条)。同法の趣旨に沿った数々の行政指導により、民間企業における60歳定年が一般化してきた状況をうけて、1990年に高齢者雇用安定法を改正し、60歳〜65歳の間に定年に達した労働者が継続雇用を希望した場合には事業主は65歳まで雇用するように努めなければならないという規定を設けた(4条の2)。1994年の同法改正により、1998年4月からは定年年齢につき60歳を下回らないようにする法的義務が原則として事業主に課せられた(4条)。同法は、高齢者の継続雇用を促進するために、労働大臣が事業主に対して、継続雇用制度の導入・改善に関する計画の作成を指示し、同計画の変更勧告・計画実施に必要な勧告をする権限を与えている(4条の3)。また、高齢者雇用推進者の選任の努力義務(5条)、企業内での継続雇用が困難な場合における、事業主に対する高齢退職者再就職の援助(9条、10条、11条)などを定めている。高齢者雇用安定法とは別に、積極的雇用政策の一環として、雇用保険法にもとづく高齢者雇用継続給付の新設や、雇用安定事業の高齢者雇用施策としての各種助成金制度が、60歳定年の法制化と同時進行で進められた。
 そして、2004年6月5日に成立した改正高齢者雇用安定法により、2006年4月1日から事業主は定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止、のいずれかの措置を講じなければならなくなった(詳細は資料編を参考)。
 定年延長が進むにつれて、定年後の勤務延長や再雇用制度を設ける企業は減少しつつあるとはいえ、定年制のある企業の約7割が現在も同様の制度を設けている。勤務延長や再雇用制度に取って代わろうとしているのが、多様な雇用形態と定年制である。それらの代表的なものとして、早期退職優遇制度、選択定年制、管理職定年制(役職定年制)などである。早期退職優遇制度とは、定年年齢以前に早期に退職した人には退職金や諸手当の割増など優遇措置をとる制度、選択定年制とは、ある一定年齢以上であればいつ辞めても退職金などの不利な扱いをしないという制度、管理職定年制とは、ある一定の年齢で管理職・役職から解かれるもので、その後は外部の会社へ転籍する、または専門職などとして定年まで勤務するという制度である*5
 1999年に策定された第9次雇用対策基本計画(1999年から10年程度)は、65歳定年制の普及と、将来的にはエイジレス社会の構築を目指している。また、2000年以降の年金制度改革は、政府が65歳から70歳までの高齢者層も労働力として位置づけていることを示している。
 しかし、労働意欲、体力、能力は、個人差が大きく、特に年齢を重ねるとともにその差は大きくなっていく。65歳だからまだ働ける、70歳だからもう働けない、と年齢によって労働力を振り分けるのは難しい。そこで、年齢にかかわりなく働ける社会を実現するべきであり、定年制の撤廃、あるいは、アメリカなどをモデルとした年齢差別禁止法の制定を求める声も出ている。厚生労働省はこうした意見をうけて、「年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議」を設置し、目指すべき社会の実現に向けた条件整備のあり方を検討している。同会議は、2002年6月に中間報告を発表し、定年制や新規雇用の年齢制限など現在の雇用システムから、段階的に能力評価中心に転換させる必要があると指摘したうえで、官民が協力しての条件整備を進めるよう求めている。ただし、焦点となっていた年齢差別禁止の制度化については「アメリカのように能力評価システムが確立していない現状では混乱を招きかねない」という意見が大半を占めるため、結論を見送っている(有識者会議2002)。

(2) 継続雇用の促進と在職老齢年金
 定年延長と平行して60歳台前半層については継続雇用の促進が進められている。しかし、60歳台前半層では、体力、就業意欲、就業能力における個人差が大きくなっているため、企業の労務管理・調整コストが高くなってしまう。そこで、企業が60歳台前半層を雇用しやすいように設けられたのが、高齢者を雇用する事業主を対象にした各種助成金制度である(助成金の種類については前章を参照)。これらの助成金を活用することで企業は、高齢者の継続雇用にかかる費用を削減することが可能となる。
 一方、高齢者の就業意欲を阻害しないことを目的としたのが、在職老齢年金である。これは、60歳台前半層の被保険者に賃金を補填する意味で減額した年金給付を行う制度であり、働くことによる収入が増えても年金の減額率が上昇して収入と年金の合計額が増えない仕組みになっている。かつては、勤労収入が増えすぎると収入と年金の合計額が減少するといういわゆる逆転現象が起こり、これが高齢者の就業意欲を阻害するという指摘がなされていたが、1989年の改正によりこの点が改善され、さらに1994年の改正で、抜本的に年金額の減額調整の方法を変え、年金の減額率が勤労収入によって連続的に定まるようにし、勤労収入が多いほど年金給付額と勤労収入の合計が多くなるようになった(三谷2001)。また、所得補填策としては、60歳台前半層の雇用者で、賃金が60歳到達時の85%未満に低下した被保険者に対して、賃金水準に応じて決まる一定割合の給付が行われるという高齢者雇用継続給付金制度がある。これらの高齢者雇用対策は、事業所レベルでは一定の効果があるといわれている(三谷2001)。

日本の高齢者雇用対策の変遷
60歳までの定年延長政策(60歳定年の努力義務化(1986年)、義務化(1998年))
定年後65歳までの継続雇用促進策(65歳まで継続雇用の努力義務化(1990年)、継続雇用制度の導入・改善計画作成の指示、計画変更や適正な実施の勧告(1994年)、高齢者雇用促進のための各種助成金(1998年他))
60歳台前半層に対する所得補填策(在職老齢年金の改正(1989年、1994年)、高年齢者雇用継続給付金の創設)
高齢者に対する多様な就業機会の確保(高年齢者職業経験活用センターの設立(1996年)、シルバー人材センターの拡充)
中高年齢者の再就職の促進(2004年)
多様な就業機会の確保(2004年)
65歳までの雇用の確保の義務(65歳までの段階的な定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止)(2006年)

欧米諸国と日本における高齢労働者の現状比較
  日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス
一般的定年年齢 65歳まで段階的引上げ
62歳(06年4月1日)
63歳(07年4月1日)
64歳(10年4月1日)
65歳(13年4月1日)
なし 65歳 なし 60歳
2006年4月1日施行の改正高齢者雇用安定法により、事業主は(1) 定年の引上げ(段階的に65歳まで)、(2) 継続雇用制度の導入、(3) 定年の定めの廃止のいずれかの措置をとらなければならない。また労働者の募集及び採用について、やむを得ない理由により上限年齢を定める場合には求職者に対して理由を提示しなければならない。 年齢を理由とする採用,解雇,昇進,訓練,報酬又は雇用条件に関する差別は禁止(雇用における年齢差別禁止法)。対象労働者40歳以上。 労働協約により規定されることが一般的。年齢のみを理由とする解雇は違法,ただし65歳以上又は同一企業内の同一職種における通常退職年齢に達した者は不公正解雇(合理的理由のない解雇)の適用除外(雇用保護法)。 年齢を理由とする解雇は違法(雇用保護法及び判例)年金受給を理由とする解雇は違法(退職手当法)。実際には、早期引退の傾向が強く、年金受給開始前に退職することがほとんど。 企業内規により規定されることが一般的。勤続年数の長い者ほど解雇予告期間が長い(労働法典)。実際には、早期引退の傾向が強く、年金受給開始前に退職することがほとんど。
年金支給開始年齢 60歳(特別支給の老齢厚生年金,男性) 65歳(62歳から繰上受給可能) 男性65歳,女性60歳 65歳(62歳から繰上受給可能) 60歳
1994年改正により,2001年から段階的に引き上げ,2013年に65歳に。なお,老齢基礎年金は65歳(60歳から繰上受給可能) 1983年改正により2000年から段階的に引き上げ,2027年に67歳に。 1994年改正により,女性についても段階的に引き上げ,2020年に65歳に。 1988年改正前は60歳からの稼得不能年金等特例的支給制度あり。 高齢者の早期退職の促進,若年者の雇用確保のため1983年度に65歳から60歳へ引下げ短時間労働に移行した場合の在職老齢年金制度あり。
  男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
労働力率
(55歳〜64歳)
(%)
83.1 50.8 69.0 57.0 68.1 49.1 43.8 43.2 47.1 40.2
失業率
(55歳〜64歳)
(%)
5.0 2.7 3.3 3.3 3.4 1.8 12.6 13.0 7.1 6.4
*注:労働力率および失業率の数字は2005年のもの。 出所 OECD "Employment Outlook 2006"
(2006年10月20日再掲載)
1 イントロダクション
2 高齢者就業支援
3 定年制の歴史と現状
4 年齢差別禁止という考え方
5 今後の論点
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