研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.3働き方を改革したいなら、学びの効率をあげよう 辰巳哲子

インプットを効率化する方法を考える

先日、あるセミナーの講師をした時に、参加者に以下の質問を投げかけた。
「592ページある『ティール組織』を3時間で理解しなくてはならない。あなたはどんな行動をとりますか?」
社会人(平均年齢30歳)に尋ねると以下のような答えが返ってきた。
「目次を読み、必要そうなところだけ抜粋して集中して読みます」
「まず後書きを読みます。そこから読むべきところのあたりをつけます」
大学生の答えはこうだ。
「『ティール組織』×『要約』でググります(グーグル検索します)」
「YouTubeで音声解説をしているものがないか探します」
「まとめ記事のサイトで読みます」
「詳しい人に(SNSで)聞きます」
このように大学生は、知識の「インプット」については徹底的に効率化・省力化していることがわかる。最近の調査結果を見ても、旧来型の「蓄積型」で「画一的」な学び方にあてはまらない人は54.7%も存在することが明らかになっている。

表1.仕事関連の「学び方」の内訳item_works03_tatsumi02_tasumi_201810.jpg全国就業実態パネル調査2018(注)

学びはインプットからアウトプットへ

ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが今年の4月から慶応義塾大学法学部・通信教育課程に入学した。彼は、ハフィントンポストの独占取材でこんな風に語っている。「僕みたいに中学高校で勉強しなかった人間が、大人になって学びたいと思っても、知識を問うタイプの入試は乗り越えられない。青学の受験で、そう痛感しました」彼は現在44歳。確かに彼が言うとおり、これまで日本の大学では「知識」をいかに蓄積したか(インプット)が重視され、その「知識」をアウトプットする場は主にテストの場面に限られていた。

しかし、こうした状況も2020年の教育改革を境に大きく変わるだろう。これまでは「インプット」が重視されてきた学びだが、今後は大学入試の仕組みなど、制度的にも「アウトプット(活用すること)」が重視されるようになる。そしてこの「アウトプット」こそが、我々の学びを大きく進化させてくれる。

例えば、自分で読書をするだけでなく、それを人に説明したりすることでより理解が深まった経験は誰もが持っていることだろう。こうした「アウトプット型の学び」をする機会は身近なところで増加してきているのに、学校での「勉強」の印象が強いからか、私たちは、学びは「インプット」するものだと思い込んでしまっている。アウトプット型の学びをうまく活用している人は、読後にアマゾンレビューを書き、研修に参加した直後にはそこでの気づきや感想をフェイスブックに投稿して他の参加者とフェイスブック上での意見交換を継続させる。企画ができていないからといって会議のスケジュールをずらしたりすることはせず、未完成のままで企画を持ち込む。新商品を考える時には、ただちに展覧会のブースを予約し、来場者からのフィードバックをもらいながらよりよい企画にしていく。インパクトの大きい石から投じておいて、走りながら細かな修正をする。「アウトプット」によって、他者からのコメントをもらい、他者からのコメントによってさらに自分の学びを深めるサイクルを回しているのだ。

図1.アウトプット型学びのサイクル例item_works03_tatsumi02_tasumi2_2.jpg

大事なのは「試してみる」スキル

テクノロジーの進化がもたらした新たな学び手法の一つは、「試してみる」学びだ。AIの世界的権威であるアロン・ハレヴィ氏も語っている通り、学びを実践する方法は多様化し、「試してみる」ことは昔より格段に手軽でスピーディになっている。
経営学者の名和高司氏は現代の学びについて、「競争優位」に変わる考え方として「学習優位」と表現している。名和氏の定義によると、学習優位とは、「まず実践してみて、市場からフィードバックを得、その結果を踏まえて次の手を打つ。このサイクルを通じて新しい知恵が生まれること」である。仮説・実践・検証という一連のプロセスを伴うサイクルを回すことで学習効率を上げるばかりでなく、学習効果も同時に得られる学び方である。『超・検証力』を書いたヘイコンサルティンググループ元社長の高野研一氏は、過去の成功パターンが通用しなくなった時代では、「自分の仮説が正しいとすれば、こんな調査・実験をやってみれば、こんな事実が得られるはずだ」という検証法を考え、次々と実行に移していくことが必要だとしている。

日本人は、頭の中に英文法やスペルの知識を持っているのに英語を話せない人が多い。しかし、知識を自分の頭の中だけで持ち続ける時代はAI時代の到来と共に終わったのだ。アウトプットしさえすれば、次の議論が始まり、学びを使い、深めることができる時代がはじまった。
よく学ぶ人は「アウトプット」をうまく使うことで学習効率をあげている。人生100年時代 学びの進化モデルにもあるように、アウトプット型の学び習慣を持つ人は、自分に必要な学びを他者から吸収しつづけている。

さて、「アウトプット型の学び」はすぐに試すことができる。今日読んだ本、出会った人々、映画、研修…あなたはそこから何を学びましたか?

注:大学・大学院卒の22歳から59歳までの調査協力者に「昨年1年間(2017年1月~12月)に、自ら進んで、仕事に関連した以下の学び行動をとりましたか。あてはまるものをすべてお選びください。」と尋ねた。

参考資料:
名和高司,学習優位の経営,ダイヤモンド社, 2015.
高野研一,超・検証力~その仮説は本当に成果を出せるのか? ,大和書房, 2017.

辰巳哲子

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