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長時間労働の是正はほんとうに進んでいないのか
坂本貴志

労働力調査(2017年平均)の結果が1月30日に公表された。2017年平均の結果を見ると、就業者全体の週労働時間は38.9時間と前年(38.8時間)からわずかに増加、正規雇用者の週労働時間は45.1時間と前年(44.8時間)から増加した(図表1)。

図表1 週労働時間の推移

出所:総務省「労働力調査」
注:正規雇用者の週労働時間は2013年から公表

多くの先行研究で、非正規労働者の増加により就業者全体の労働時間が減少傾向にある一方、正規雇用者の労働時間が高止まりしていることが指摘されている。今回の労働力調査の結果をみても、特に正規雇用者の労働時間の減少は遅々として進んでいないことが確認される。

政府が働き方改革を進める中、労働時間の縮減が思うように進んでいないのはなぜだろうか。

長時間労働者の多くは労働時間を削減させている
リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を用いて労働時間の変化をより仔細に分析し、実態に迫ってみたい。

2015年と2016年の両方の調査に回答した正規雇用者(転職した人などを除く)をサンプルとして、2015年と2016年の週労働時間の分布の変化をみると、労働時間はむしろやや増える方向に変化している(図表2)。
※ 全国就業実態パネル調査の2017年度の結果は今後公表予定。

図表2 2015年から2016年にかけての週労働時間の分布の変化

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

しかし、2015年の労働時間の区分別に2016年の労働時間を確認すると、異なる様子がみて取れる(図表3)。たとえば、2015年に週80時間以上の長時間労働を行っていた人の多くは、2016年にかけて労働時間を減らしているのである。その一方、2015年に週40~45時間の労働をしていた人のうち20%程度が翌年には労働時間を増やしている(減らした人は10%弱)。つまり、比較的長い時間働いていた人は労働時間を減らし、そうでない人は労働時間を増やす、労働時間の入れ替えとも取れる現象が起きている。

図表3 正規雇用者の労働時間の移り変わり

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:たとえば、2015年の週労働時間が80時間以上(一番上の棒グラフ)だった労働者の2016年の週労働時間の分布をみると、継続して週80時間以上であった人は35%に過ぎず、残り65%は週80時間未満の週労働時間となっている。

この分布をみると、景況の改善で平均的な労働者の労働時間は増えてはいるものの、企業の人事部を中心に長時間労働の是正に取り組んだからこそ、2015年に長時間労働をしていた人の多くが労働時間を減らしたのだという見方もできる。平均労働時間や労働時間の分布が変化していないことを理由に、「働き方改革は掛け声だけで、実態として長時間労働が是正されなかった」と結論付けるのは過ちかもしれない。

もともと労働時間が長かった職種で、労働時間が減った
このような各労働者の労働時間の入れ替えはどうして起こったのか。別の角度から労働時間の変化をみるために、職種別に2015年の週労働時間と2016年にかけての週労働時間の変化を示したものが図表4となる。

図表4 2015年の週労働時間と2016年にかけての週労働時間の変化(職種別)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:全国就業実態パネル調査で調査を行った207職種を47に集約した上で図示している

これをみると、全体的に多くの職種で労働時間が増加しているものの、もともと労働時間が長かった職種では労働時間を減少させている傾向が強い。すなわち、マクロの平均労働時間が減少しないことには、①長時間労働が問題となっている職種を中心に働き方改革が進んだことで労働時間が減少した効果と、②企業業績の改善から多くの職種で労働時間が増えた効果、が相殺しているという背景があるのではないかと考えられる。

たとえば、2015年にもっとも労働時間が長い職種であったドライバー(トラック運転手など)をみると、運輸関連業種の業況が堅調であるにもかかわらず、労働時間はやや減少した。近年、ドライバーの過酷な労働環境が問題視されており、運輸各社が進めている働き方改革の効果が顕在化している可能性がある。そのほか、(飲食店や小売店の)店長なども労働時間が減少している(図表5)。

図表5 もともとの労働時間と1年間の労働時間の変化(職種別)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

 

なお、一部の職種で状況は改善しているものの、変化がみられない職種も多く残る。教員は、土日を含む多大な時間外労働が問題視されているものの、改善の兆候はみられない。応召義務があることなどから労働環境の改善が進みにくい医師も特段変化が見られなかった。また、事務職や営業職などホワイトカラーは企業業績が大きく改善する中でも労働時間の増加は限定的であったが、接客を必要とする職種では労働時間が増加する傾向もみてとれた。

たしかに、働き方改革による長時間労働の是正効果はまだ多くの労働者に均等に波及しているとは言い難い。しかしながら、ホワイトカラーや長時間労働が問題視されている一部の職種を中心に、労働環境が改善する兆候が表れていることも見逃せない事実である。

2017年3月に公表された働き方改革実行計画では労働時間の上限規制が提言され、今後国会で審議される見込みとなっている。また、教師や医師など一部の例外的な労働者についても、労働環境の改善を各省庁で議論している。今後、これらの動きをさらに進展させていくことは長時間労働の是正に必要不可欠である。

もっとも、長時間労働の是正は小手先だけの改革では十分な成果は得られない。労働基準法令の改正とともに、労働基準監督署による監督体制の強化・充実といった、実効性を確保する取組みも必要だ。また、長時間労働にインセンティブを与えている年功賃金の見直しなど、日本型雇用の在り方についてもあわせて考えなければならないだろう。

専門職の労働環境の見直しにも課題は多い。医師の労働時間の削減は、診療所に偏った診療報酬体系の是正や医師の供給量の増加、自己負担割合の引上げを通じた過度な需要の抑制など、需給構造の改革まで踏み込まなければ、根本的な解決は見込めないだろう。教員についても、部活動時間の大幅削減など、サービス水準の大幅な低下を国民は果たして受け入れる用意はあるか。

これらの包括的なアプローチは、各ステークホルダーの合意を必要とするものであり、一朝一夕には進まない。マクロの労働時間が減少するという形で、はっきりと政策の効果が表れるためには、まだまだ乗り越えるべき課題は多い。

坂本貴志


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全国就業実態パネル調査

2018年01月31日