Column

多様な働き方に向き合うマネジャーが必要とする力
奥本 英宏

働きやすさは企業業績につながらない!?
世界50カ国以上で「働きがい」の調査・分析をおこなっているGPTW(Great Place to Work® Institute)Japan による興味深い研究があります。労働環境や福利厚生、ワークライフバランスといった「働きやすさ」につながる項目スコアを縦軸に、仕事への誇りや意味づけ、経営・管理者層への信頼、連帯感や一体感といった「やりがい」につながる項目スコアを横軸にとったマトリクス分析です。そこに調査企業198社をプロットして企業業績との関係を調べたところ、「働きやすさ」だけを追求している企業の業績伸長は、あまり期待できないことが明らかになりました。

図表1 「働きやすさ」と「やりがい」による「働きがい」マトリクス


出所:Great Place to Work® Institute Japan

最も高い業績の伸びを示したのは「働きやすさ」と「やりがい」に溢れた『A.いきいき職場』。これはみなさんの想定通りだと思います。次に高い業績を示したのは「働きやすさ」に欠ける『B.ばりばり職場』でした。そして、「働きやすさ」だけが優れる『C.ぬるま湯職場』はどうかと言うと、「働きやすさ」も「やりがい」にも欠ける『D.しょんぼり職場』と同程度の相対的に低い業績伸長だったのです。

現在、多くの企業が「生産性向上」と「従業員満足」の2つをテーマに働き方改革に取り組んでいます。しかし、働く時間と場所を選択できる環境を整え、有給休暇取得を促進しても従業員の仕事の満足やモチベーションが大きく高まることはありません。約50年前、フレデリック・ハーズバーグは、作業条件や給与・制度などの「衛生要因」の改善は不満足の解消に留まり、達成や承認、仕事そのものの「動機づけ要因」が従業員の高い満足とパフォーマンスにつながることを発見しましたが、やはりこの二つの要因は別ものなのです。

 

働き方改革によって困難になるメンバーの動機づけ
実際、働き方改革は従業員の満足につながっていないとする調査データがあります。リクルートワークス研究所が昨年12月に発行した『Works145号~出直しの働き方改革~』に掲載したデロイト・トーマツコンサルティングのデータでは、働き方改革の効果をモニタリングしている企業の61%が、「働き方改革によって従業員の満足は得られなかった」と回答しているのです。

また、昨年ワークス研究所が実施した『Works人材マネジメント調査2017』では、「管理職(課長担当職)への課題認識」という問いにおいて、他の項目に5ポイント以上の差をつけて「部下の動機づけスキル」が選択されました。4位「コーチングスキル」の躍進も、働く場所や時間の自由度が高まる中、部下のモチベーション向上や仕事への動機づけに苦労する現場の実情を表していると考えています。

図表2 課長相当職の管理職の能力・スキルについて、特に課題と感じているもの

出所:リクルートワークス研究所「Works人材マネジメント調査2017」

 

多様なモチベーションに向き合うマネジャー
職務特性に関する研究では、仕事の意義を理解し、結果に対する責任を負うことで成長する一連のサイクルが、仕事へのやる気と満足度を高めると言われています。モチベーション向上サイクルの起点は仕事の意味づけや意義づけにあるのです。これまでも多くの企業が、魅力的なビジョンや自己申告を取り入れた人事制度、キャリア開発など、仕事の意義づけや意味づけを高める施策に取り組んできました。ただ、そうした全体施策や一律の仕組みに乗っかっているだけでは、課題への対応が難しくなっています。

ワークライフバランス意識の高まりによって、メンバーのライフへの関心は高まっています。役割で規定されるワーク以上に、一人ひとりのライフは多様さに溢れ、その多様な価値観を考慮せずにワークを設計することは難しくなりつつあります。

現在、一人ひとりのメンバーの価値観と仕事、あるいは職場、会社とのあいだに、イントラパーソナル(個人の内面的)な意味づけを起こしていくことが求められています。個人の組織からの自律意識が強まる中、ワークとライフを合わせたアイデンティティの確立を求めようとするこの機会をマネジャーは無駄にしてはなりません。

 

多様な関係性の発想から意味づけが始まる
そうした一人ひとりの仕事の意味づけをマネジャーが支援していくためには、マネジャー自身がメンバーの多様で複雑なライフとワークの関係をデザインする力が必要となります。しかし、日本のビジネスパーソンはモノカルチャーで、過去の固定的な価値観からなかなか抜け出せないと言われます。一律の人事マネジメントやルールの運用に慣れてきたマネジャーは、ワークとライフの関係を柔軟に発想していくことに慣れていないようです。

では、どのように力を高めていけば良いのでしょう。一つのアプローチとして、物事を多様に関係づける力を鍛えることから始めてはどうかと考えています。
例えば、認知心理学者のクロヴィッツは、850語の基本英語の中に2つのアイテムを結びつける関係語が42語あることを発見して「関係性アルゴリズム」を考案しました。ある問題を解決するために、“Take one thing 〔  〕another thing”(ある事を、他の事とある関係にする)という構文を用いて、関係語を多様にあてはめてみるという試みです。

図表3 関係性アルゴリズム - 42の関係語


Crovitz.H.F

 

“work 〔or〕 life”だけではなく、”work 〔and〕 life”、さらには“work 〔among〕 life”、in、through、as、fromなど、関係づける言葉は多様です。そこから生まれる新しい視点がメンバーとの対話を豊かにし、固有の価値観と仕事をつなぐ一歩になるかもしれません。

1960年代にリーダーシップやマネジメント研究の基礎を築いたカッツ&カーンは、組織デザインの不完全性、環境諸条件の変化、組織内部のダイナミクス、組織成員の人間性といった、不完全性と予測不可能性が存在するからこそ、リーダーシップやマネジメントが求められると喝破しました。マネジメントの本質は、そもそもが複雑で多様な事象の関係性をデザインするためにあると発想していたのです。

今後、各企業では「働き方改革」をイノベーションへとつなぐ試みが進みます。多様性を創造性へと変えていくヒントも、こうしたマネジャーの発想の柔軟性を高めることから生れてくるのではないでしょうか。

 

奥本 英宏


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