Column

人事は働くを「科学する」ことができるのか
城倉亮

「数字を突きつけられると違いますね。自分のことなのに気づけていませんでした」
リクルートワークス研究所のあるプロジェクトへの参加者のコメントだ。
私たちは、昨年度から「ピープル・アナリティクスを活用した生産性向上」プロジェクトに取り組んでいる。このプロジェクトの一環として、複数の企業に協力をいただき、行動のデータ化を試みた。社員の方々に名札型のセンサーデバイスを着用してもらい、1週間分の出社から退社までの行動やコミュニケーションを数値化したのだ。その分析過程で明らかになったことの1つが、「私たちは自分たちの行動を思った以上にわかっていない」という事実だ。
本コラムでは、注目されるようになってきた人事部門のデータ活用を、さらに発展させる新たなデータの可能性を検討したい。

現在の曖昧な人事データ
人事の仕事は、これまでベテランの人事パーソンによる「経験と勘と度胸」に頼って行われてきたと言える。しかし近年では、定量的なデータを活用して採用や配置、育成などに取り組む「エビデンスベース」の人事が求められるようになっている。
ただし、いま人事部門が保有しているデータは、その客観性に疑問符が付くものも少なくない。例えば、社員それぞれのコンピテンシーや態度に関する評価、社員満足度調査などは「数値データ」として、さまざまな人事施策を展開するうえで参考にされている。だが、これらのデータは、いずれも個人の主観に基づき評価されたもの、言ってみれば「曖昧」な判断に基づくものなのだ。
人々の主観に基づいたデータを利用して「定量的」に分析を行っても、もともとの判断が曖昧であるがゆえに、本当の意味での課題を抽出できているか、また、その課題に本当に合致した施策を講じられているかは定かではない。

だが、ここにきて、テクノロジーの進化によって、これまで主観でしか語られてこなかったさまざまな行動の量や他者とのコミュニケーションのありようを客観的に測定できるようになった。
センサー等のテクノロジーで測定した客観的なデータと個人の主観評価には、実際にはどれほどのギャップがあるのか。

新しいデータ活用の可能性
私たちのプロジェクトでは、事前に参加者に自身の行動を振り返ってもらうアンケートを実施しておいて、実際に計測したデータとの比較を行った。そのアンケートの設問の1つに「自分は会話の中で話す時間が長いか、聞く時間が長いか」を尋ねたものがある。この回答結果とデバイスによる計測データを比較したところ、3分の1の参加者は、アンケートとデータが一致しなかったのだ。つまり、例えば、自分では「話を聞くほうだ」と思っていても、データ上では会話中の「話している時間が長い」タイプに分類される、というわけだ。会話における「話す」「聞く」という単純な行為ですら、このような結果であるのだから、より複雑なシーンにおける自分の行動に対する自己認知と実際の行動にどれほど差が生じるかは推して知るべし、である。このような「ずれた」自己認知に基づいて私たちはさまざまなアンケートや行動に関する調査に回答している。そのように集めたデータに基づき、人事部門は施策を展開してしまっていないだろうか。

これからの人事の役割とは
センサーを始めとするテクノロジーの進化によって、これまで取得できなかったさまざまな「主観に基づかない」データが収集可能になってきている。人事や上司がこれらのデータを活用することで、これまで以上に社員一人ひとりにあった働き方を提供できる可能性が広がっている。
もちろん、自己評価や他者評価でしか見えない部分もある。これまで蓄積してきたそれらのデータを、これまで以上に活用することも重要であろう。
しかし、人事部門のデータ活用が注目されるようになったからこそ、多様なデータを収集し、それらのデータから導き出される事実を人事施策のために活かす可能性を模索するべきではないか。
働き方改革が叫ばれる昨今、時間当たりの生産性をより高めていくことが求められている。これまでの伝統的な人事データの活用に加え、新たなデータも積極的に活用し、働く個人と企業の双方がwin-winな働き方を提案していくことが、これからの人事部門に求められる役割だ。

 

城倉亮


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2017年09月27日