Column

「就活のアウトサイダー」、卒業してから就職する大学生は、採用多様化時代の先駆けとなるか
古屋星斗

2019年4月22日、日本経済団体連合会(以下、経団連)が大学側と合意し、多様な新卒採用・就職活動の推進に関する提言を発表した。これは、従来の卒後4月の一括採用に加え、学業やインターンシップの経験を評価し卒業後に選考するなどの複線型の採用を提唱するものである。
日本の産業社会がこれまで保持してきた“新卒一括採用”というシステムは、多様な特色を有するが、そのなかで “卒業前の採用活動”や“内定”、という特徴を有している。この点について歴史的に顧みれば、1950年代の朝鮮戦争による特需により、大学卒業学生への企業の採用需要が著しく増加した事実に遡る。結果として、企業による人材争奪戦のなか、早期選考が顕在化し、それまで卒業後に実施されていた採用選考等のプロセスが前倒しされたことに始まったとされる。このように、“卒業前選考”は戦後間もないころから70年近く維持されてきた、わが国の労働市場を形成してきた大きな仕組みのひとつであると言えよう。

さて、今回の経団連の提言では、こうして長く主流をなしてきた“卒業前選考”ではなく、“卒業後の選考”、つまり「既卒者」の選考について強調する内容となっており、『ジョブ型雇用を念頭に置いた採用』として新卒・既卒に捉われない採用枠組みを提唱している(※1) 。
今回は、「就活のアウトサイダー」であった「既卒者の就活」(※2)の現状を整理するとともに、その状況から“採用多様化時代”に向けた課題を考察する。

 

既卒者の新卒採用は、外国人学生の採用よりも少ない
既卒者の採用の現状について、リクルートワークス研究所が実施している「大卒求人倍率調査」(※3)より分析したい。
まず、採用実績全体に占めるボリュームはどの程度あるのだろうか。実績に占める比率は以下の表のとおりである。既卒者の比率(※4)は2.06%であり、外国人のそれよりも低い状況にある。所属する会社の新人のなかで、外国人は多くはないという実感を持たれる方が大多数であると思うが、既卒者はその外国人よりも希少であることから、日本において卒業前選考・内定がいかに定着しているか想像がつきやすいのではないか。

続いて、業種別、規模別等企業属性別に、「既卒者の人数の割合」(A)と「既卒者を採用した企業の割合」(B)を見てみよう。Aは“どの程度既卒者が採用されているか”、Bは“どの程度の企業で既卒者採用が行われているか”、を視覚化した数値である。

①業種別に見ると業種により傾向に大きな差があることがわかる。理美容関連や自動車・機械等修理業などを含む、その他サービス業が人数(A)も企業(B)比率も高く、裾野広く・ボリューム感もある既卒採用を行っていることがわかる。また情報通信業も同様の傾向がある。この2業種に共通するのは、美容師やITエンジニアなど、何かしらの資格や技能を保持する若手を採用したい傾向が強い点にある。つまり、スキルが既卒の“免罪符”となっている。
人数は少ないが、多くの企業が取り組んでいるのが金融・保険業である。より精緻にみると、労働金庫・信用金庫・信用組合といった小規模な金融業企業において既卒採用を実施している企業の割合が特に高く、一定数の学生を既卒で採用している独自の風土が存在する可能性がある。
逆に、建設業では人数、企業比率ともに著しく低い。建設業は特に人手不足感が激しい業種であるが、新卒採用における既卒採用だけでなく、外国人も女性も採用比率が低い業種でもあり、画一的な採用・人事制度により既卒者を採用することが難しい状況にあると推察される。

②従業員規模別では、中堅・中小企業(1000人未満)が人数の比率は高く、大企業(1000人以上)が採用実施割合は高い。大企業は採用人数自体が多いため、採用実施割合が高くなる(採用した中に一人でも既卒者がいる可能性)のは当然であるが、人数が中堅・中小企業が高くなったことは示唆的である。
つまり、採用難の状況に直面する中堅・中小企業において既卒者の採用は積極的に行われてきたという可能性がある。

また、③中途採用実施企業と非実施企業では、実施企業割合には差がないが、採用人数には差がある。「中途採用を実施した」場合に採用人数比率が低下していることは、「中途採用と既卒者の新卒採用には代替関係がある」可能性がある。
整理すると、既卒採用は、大企業よりも中小企業、地方の金融機関の例などを含め「採用難のため実施するケース」と、中途採用との関係にもみられる「スキルベースで採用されるケース」の2パターンが存在すると推察できる。

 

就活スケジュールが変わると既卒者採用が増える?
さらに、経年でその変化を見てみたい。

まず、人数比(棒グラフ・左軸)・企業割合(折れ線グラフ・右軸)ともに似たトレンドをしていることがわかる。2015年卒から2016年卒で一度急激に上昇し、その後直近の2019年卒に至るまで低下傾向が続いている。これは何故だろうか。
景況感に伴い、2014年卒以降、全体の新卒採用トレンドは需要過剰の傾向が長期にわたり継続している。別の考えられる大きな理由のひとつが、就活スケジュールである。2015年卒まで長きにわたり、12月採用広報解禁・4月選考解禁のスケジュールであったが、2016年卒から3月採用広報解禁・8月選考解禁(2017年卒以降は6月選考解禁に変更)となっている。まさに2015年卒から2016年卒はこの大きな切り替わりのタイミングである。学生や企業が採用スケジュールへの習熟が完全でなかったために、在学生だけでは採用目標が充足できず既卒者の採用比率が増加したのではないか。その後、学生・企業が新スケジュールに慣熟していくにあたり、直近に至るまで比率が低下しているという理解もできる。

 

現状から “多様な就活”をどう作るのか
概観すると既卒者採用は、スケジュールの変化や採用難などの外的環境変化によって生じた短期的ミスマッチを埋める手段か、スキルベースで入職できる特殊な新卒学生にとっての限定的な手段であった。
これまでの新卒採用の歴史のなかで、企業が最適な選択をしてきたとすれば、現状の既卒者採用の状況は“現状に合わせた最適な状態”の発現であるとも考えられる。既卒者採用に象徴される現在の多様な就活の貧弱な状況を鑑みれば、日本の新卒採用をすぐに大きく変えることは極めて難しいと言わざるを得ない。現況の“最適な状態”を脱して、今次の経団連の提言にある、新卒採用が多様化する社会を実現するためには、学生や企業のインセンティブ設計を変化させるような、より根本的な解決策が求められているといえるのではないだろうか。
その方策は、単なる「新卒採用の変革」に閉じる話ではなく、人材の送り側である大学をはじめとする学校での学びや、採用後のキャリアパスを定義する企業の人事システムの有り様に関する議論を避けることはできないだろう。

 

(※1)経団連と大学が共同で実施している、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の「中間とりまとめと共同提言」(2019年4月22日)には、『今後は、日本の長期にわたる雇用慣行となってきた新卒一括採用(メンバーシップ型採用)に加え、ジョブ型雇用を念頭に置いた採用(以下、ジョブ型採用)も含め、学生個人の意志に応じた、複線的で多様な採用形態に、秩序をもって移行すべきである』とされており、『ジョブ型雇用を念頭にに置いた採用』の注釈として『新卒、既卒を問わず、専門スキルを重視した通年での採用、また、留学生や海外留学経験者の採用』と強調している。
(※2)現状、既卒で就職している大学生・大学院生には、主として、海外留学経験のある日本人学生、経済的事情により“就職留年”という選択ができなかった者、卒業後弁護士等の資格取得や公務員を目指し試験勉強をしていたものの民間就職へ転じた者、などが存在すると考えられる
(※3)従業員規模別、業種別(4区分)でウェイトバックしている
(※4)大学生・大学院生の採用に占める割合
(※5) 既卒者を1名以上採用している企業の比率
(※6)サンプル数が十分な業種(各N=100以上)に限定して集計
(※7) 理美容関連、ビルメンテナンス、自動車整備業、機械等修理業など

 

古屋星斗


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2019年05月17日