Column

人手不足の中で初任給は上がっているのか
戸田淳仁

大卒求人倍率がここ4年では1.6倍を超えて就職しやすい環境が続いている中、学生の応募を増やすために初任給の金額を引きあげる企業が出始めている。そもそも初任給は新卒採用市場において大きく変化しないと言われていた。その発言が正しいとすると、初任給を引き上げたからと言って学生を集めやすくなるとは限らない。人手不足が深刻になる中で、人手不足に深刻な企業ほど初任給を引き上げているのか、こうした動向について見ていきたい。

人手不足の議論をする前に、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では初任給について調査をしているので、直近の2016年入社まで見ていきたい。直近の2016年入社については大卒男子が約20.6万円、大卒女子が20.0万円となっており、男女ともに前年を上回った。

図表1 大卒者初任給の対前年増減率の推移

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出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

過去の増減率の推移ではバブル期以前は4%を超える水準で推移していたが、1990年代からはプラスマイナス2%とほぼ横ばいが続いている。直近を見ても1990年代以前と比べて大きく上昇をしているとは言えない。

2017年入社については、今年2~3月に実施した当研究所「企業の採用動向と採用見通し調査」では、新卒採用を実施した約3000社に、初任給の増減と金額を聞いているので、その結果を見てみよう。

図表2 大卒者初任給の増減(2017年入社)

出所:リクルートワークス研究所「企業の採用動向と採用見通しに関する調査」
出所:リクルートワークス研究所「企業の採用動向と採用見通しに関する調査」

企業単位では、17.5%が増やすとしているが、7割以上が変わらないとしている。減らすがほとんどであり、一部の企業が初任給を増やしていることがうかがえる。企業規模別、
業種で見るとどうであろうか。

建設・サービス業で初任給を引き上げる企業が多い
図表3でみるように、業種によって初任給を引き上げる企業の割合は大きな違いはみられない。建設業(24.1%)、サービス業(20.9%)は他の業種よりやや高い一方、不動産業(7.5%)は他の業種よりも低い。建設業やサービス業は人手不足が深刻な業界であるが、同程度深刻な医療・福祉や小売業においては、初任給を引き上げる企業割合が高いと言えない。そのため、人手不足だからと言って初任給を引き上げているとは言えず、やはり新卒採用市場において初任給は需給に影響を受けないという点で硬直的だと言わざるを得ない。また、従業員規模別に見ても、初任給を引き上げる企業割合は300人未満が13.6%とほかの規模よりも低いが、300~999人が17.2%、1000~4999人が20.4%、5000人以上が18.9%と規模が大きくなるにつれて初任給を引き上げる傾向にある。

図表3 業種・従業員規模別 大卒者の初任給を引き上げる企業割合(2017年入社)

出所:リクルートワークス研究所「企業の採用動向と採用見通しに関する調査」
出所:リクルートワークス研究所「企業の採用動向と採用見通しに関する調査」

前述したように、人手不足が顕著な業種ほど初任給を引き上げていることは統計的には観察できない。初任給は需給に応じてあまり反応しない点で、初任給の硬直性が見られるといえる。

ほぼ横並びに近い初任給
2017年卒について回答のあった企業のみであるが、初任給の平均をまとめると図表4のような結果になる。

図表4 業種別大卒者初任給(2017年入社)

toda05出所:リクルートワークス研究所「企業の採用動向と採用見通しに関する調査」


図表4は金額の高い順に並べているが、一番高い不動産業(21.4万円)から低い医療・福祉(19.1万円)までわずか2万円の差しかなく、業界を越えても横並びが見られる。

確かに新卒採用市場において、学生はあまり初任給には注目せず、将来的な賃金上昇や働きがいを見て企業を選択すると言われているため、企業としても初任給を引き上げて優秀な人材を確保する必要はなかった。また、企業としても初任給を引き上げることは既存社員の給与をも引き上げることにつながるために、躊躇してしまうこともあるだろう。これまで紹介した統計結果のように、人手不足だからと言って初任給は大きく上昇しているとは言えない状況である。しかし、初任給が人手不足による需給ひっ迫に反応しない状況はいつまで続くだろうか。人手不足により企業にとっても採用競争が激しくなりその中で優秀な人材を確保しないといけない。また、一部の企業は高い初任給を提示することにより脚光を浴び、多くの学生が高い初任給をオファーする企業に就職するようになれば、状況は一気に変わる可能性もある。パート・アルバイトの時給については他社の動向を見ながら決める傾向があるが、新卒についても他社の動向を見ながら初任給を引き上げていく決断が必要であろう。

戸田淳仁


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2017年05月31日