Column

日本の生産性向上の鍵を握る はかどるAI、はかないAI
藤井薫

勘と経験と度胸(KKD)よりKDD
エビデンスベースドが世界を制する
勘と経験と度胸で大口をたたく。権威をかざし、根拠なき意思決定を強要する。Hippo(High Paid Person’s Opinion)。貴方の傍にそんな高給取りのビッグマウスなカバ(Hippo)はいないだろうか? 勘と経験と度胸。そんなKKD的ビッグマウスが跋扈していた時代に、ITパワーをたずさえ、キラ星のように登場してきたのが、「Knowledge Discovery in DB」(KDD)だ。今日のData Analytics & AI狂想曲の基底に、このKDDの秘力がある。

クイズ、チェス、将棋、囲碁、東大入試、料理レシピ、お掃除、自動運転、金融取引、Web広告、医療診断、絵画、小説、楽曲…。あらゆるジャンルで、データから新たな知の発見と推論を行い、人類の知性たる名人を打ち負かし、深化し続けるData Analytics & AI。その行く末に、驚愕と礼賛と危惧をないまぜにして、人類は乱舞しているのだ。

しかし、歴史は待ってくれない。テクノロジーの持つProgressive特性が、時間を猛然と前進させる。 「We will move from mobile first to an AI first world.」(モバイルファーストからAIファーストへ) Googleの CEO Sundar Pichai氏が、今年4月の「This year’s Founders’ Letter」で語った言葉は、今後の産業のパラダイムシフトとともに、AIの時代の到来を全人類に印象付けた。当然、その影響はHRMの世界にも広く浸潤つつあることは前回書いた。(ピープル・アナリティクスは、職場深化の「間術」か

KKDよりKDD。証拠ある意思決定こそ大事。エビデンス・ベースドが人事を制する。ビッグマウスよりビッグデータ。大きいものに巻かれがちの事大主義的私たち。今、古いビッグな知性から、新たなビッグな知性にどう向き合うか。その知性が試されているのだ。

話を国・産業レベルに転じても、この新たな知性への期待は高まるばかりだ。ご存知の通り、少子高齢化の急速な進展に伴い、今後労働力不足が避けがたい日本においては、生産性の向上は喫緊の課題である。いまやGDPの約70%を占有するサービス産業の生産性の向上にも、新しいビッグな知性の利活用が期待されている。

飲食、小売り、観光、物流、介護・・・。いずれも国際比較においても、生産性が低く、逆に伸びシロもある領域だ。無形性(サービス品質が目に見えない)、同時同場性(需要と供給の交換が、相対の現場で生成消費される)、地域中小規模性(構成企業の多くが地元中小企業)。そうした産業特性が、低い生産性、人事で言えば、低い採用力・低い定着率・低い才能開花率の元凶とも言われている。その解決に、“新しいビッグな知性”の利活用が期待されているのだ。

可視化しないと始まらない
可感化しないと取りこぼす
可視化→最適化→自動化(マン・マシン共進化)。新しい知性Data Analytics &AIの駆動の一歩目は、可視化から始まる。自明ではあるが、エビデンス・ベースドHRMも、データの可視化(収集取得と構造化と意味の抽出)から始まる。

職務経歴データ、志望動機データ、採用要件データ、採用合否データ、配置配属データ、教育研修データ、職場行動データ、コミュニケーションデータ、バイタル(生体)データ、主観データ、能力発揮データ、評価データ、社内外ソーシャル・グラフデータ、エンバイロメント・フィットデータ、経営インパクトデータ……。
換言すれば、エビデンス・ベースドHRMは、“はかる”ことから始まるのである。
そこで筆者が今後重要になってくると思うのが、この“はか”るなのである。

図る、計る、量る。捗(はかど)る。
かように、“はか”は多義性があるのだ。
「はかが行く」の「はか」は、古くは米などの収穫予想量を言い、そこから、物の量や大きさを数値化する計る、測るや、計画を立てる意も生まれたという。
「はかどる」の「はか」は、計量・計画など、数値で測れて思い通りになること。「はかどらない」は、数値で測れず思い通りにならないこと。そんな含意もある。

もちろん、「はかどらない」より「はかどる」にこしたことはない。しかし、「はかどらない」を排除してばかりいると、「はかない」声や発見を「計画を邪魔するものと見なして、忌み嫌う心情が個人や組織に生まれるのがリスクになる。自然が、人間の思い通りにならないのと同様、不確実性の高い今後の事業運営も、計画した思い通りにならない。どちらも「はかどらない」し、「はかない」のである。

「はかる」は大事だが、「はかどる」ことばかり考えていると「はかない」新たな知の発見、すなわち、「Knowledge Discovery in DB」(KDD)を見過ごしてしまう。はかないとエビデンス・ベースでないが、はか(どら)ないに粘り向き合わないと、はかない新たな知の発見に辿り着かない。
「加減」「具合」「塩梅」「そこそこ」「ころあい」「そのへん」。「匙(さじ)加減」「お加減いかが?」
無形性の高いサービス経済社会や事業は、メジャラブルによる計測計量生産性と、インメジャラブルによる気配感応性の両立が不可欠なのである。

可視化と可感化。
不連続で予想外だが巨大な豊穣を与えてくれる。その想い通りに行かない微かに動く儚(はかな)さ。まるで自然や子供がもつはかなさにじっくり向き合い感じる事。
はかどる(測る・量る・捗る)AIと、はかない(捗らない・儚い)AI(愛)。
サービス経済化する日本の生産性向上の鍵は、二つのAIに向き合う事から始まる。

藤井薫


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2016年08月18日