Column

アクハイアリングという手法が促す採用の進化
田中勝章

アクハイアリングという手法
最近アクハイアリングというキーワードが飛び交っている。買収(Acquisition)と雇用(Hiring)を組み合わせた造語で、人材獲得のために行う企業買収という意味だ。キーワードとしてはここ5年くらいでよく目にするようになった。

「また人事デューディリジェンスの話か」と思われる方もいるかもしれない。概念としては、昔から、チームハンティングという言葉や、M&Aのサブテーマとして同様のことは語られてきた(Works36号、51号、74号など)。最近は先端技術やイノベーティブなネットサービスを持ったスタートアップの存在感が増してきているため、改めて注目されてきているというだけではないのか?

しかし少なくとも現時点のアクハイアリングは、大型のM&Aのイメージとは異なる。たとえばノースカロライナ大学のCoyle准教授ら(2013)(※1)によると、アクハイアリングの多くは創業まもない企業が対象であり、複雑な資産価値評価をあまり行わないことが多い。買い手の企業が採用ではなく買収という形をとるのは、投資家の訴訟リスクへの備えや、起業家のレピュテーション対策(起業を途中で放り出したのではなくEXITしたと言える)の意味が大きいとしている。ここで必要になるのは、従来の採用スキルに加えて、スタートアップ市場のメカニズムや慣習も含むルールの理解と多少の法的観点だろう。

採用担当が持つべき視野
とはいえ、アクハイアリングは形式はあくまで企業買収。これも採用担当の仕事なのだろうか?
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図を見てほしい。これは採用によって成果を上げ競争優位を獲得する形態を、「成果の源泉」と「競争優位を築くまでの期間」という2軸のマトリクスで分類したものである。
通常アクハイアリングは、右下のOSタイプの一形態として実施することが多い。つまりは、自社の競争優位としての価値発揮を短時間で行うことが求められている。

採用および人事は、事業戦略と同様、影響を与える要素が多くメカニズムは複雑だし、時間がたつにつれてそのシステムは変容していく。環境変化が激しい現在、事業戦略の策定も遂行もきわめて短期間で行う必要がある。採用に関してもある領域に関しては、成果が出たときには事業戦略の賞味期限が切れていた、ということでは意味がなくなってしまうのだ。
アクハイアリングは時間を買うための一つの手法である。アクハイアリングを扱うためのスキルは誰がもっているのか、ということではなく、採用担当者は今後、このマトリックスのような視野で採用を設計する必要がある。その時には、既存の枠組みにとらわれないチャレンジが必要になってくるだろう。

ならばそのときにどうするのか。そのチャレンジに向けたヒントの一部を「採用を変える 採用で変える」にまとめている。ぜひ一読してほしい。

内外労働市場のハブとして、その視界で採用と人事をとらえ、事業活動とうまく接続できれば、それはまさに経営に資する重要な活動になる。

今後採用活動は、過去のやり方にとらわれず柔軟な発想と実践が求められる、きわめてイノベーティブな活動の一つになるだろう。

(※1)John F. Coyle & Gregg D. Polsky , 2013, “ACQUI=HIRING”, Duke Law Journal, Vol. 63:281

田中勝章


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2016年05月11日