Column

なぜ採用を変革するのは難しいのか?
田中勝章

イノベーション人材を採れとは言われるけれども
ずいぶん長いこと言われ続け、すでに慢性的な課題として定着しているイノベーション人材不足。だが経営や現場から要望され、採用に工夫を重ねていると、幸運にもわが社にイノベーションを「起こしてくれるかもしれない」という人に出会うことがある。何とかして口説き落としたいところだが、ここで途方に暮れてしまうという経験をした人事担当者は少なからずいるだろう。その理由は主に次の2つではないだろうか?
1)  入社にあたって魅力的な条件を提示できない(そのため採用できない)
2)  具体的な短期ミッションが設定できずに中途半端な配属になる(その結果候補者に失望をもたらし、定着しない)
自社が外資系だったらきっと違ったはず…という思いが心をよぎった方もいるだろう。
これらは既存の人事制度と整合性が取りにくいために起こる事態だ。

採用変革は人事システム変革
上記の例は人材マネジメントのいたるところで起こりうる事態だが、人事のなかで比較的独立した活動と考えられる採用においてもよく表れる問題だ。

日本企業の多くが採用している人事制度は、長期持続成長を描く戦略を事業運営の中心に置き、比較的穏やかな環境変化の中で人が成長できた時代にその原型ができている。その制度は長期的に企業に在籍することにインセンティブが働くように全体が有機的に構成されているため、部分的に何かを変えようとしても影響が全体に及んでしまうため、変えにくい。
そのため、短期的なミッションに対して報酬を高く設定するといったことができないのだ。

事業戦略の実現が採用の目的であるならば、刻々と変わる事業戦略に合わせて採用を変えていかなければならないが、既存の人事制度が強固なシステムとして存在するために、戦略に合わせることができないといったジレンマに陥ってしまう。

採用は人事システムの一部である、というのは人事全体の視界を持っている者であれば当然すぎる感覚であろうが、アカデミズムにおいて人事システムの観点から採用活動を研究しているものは少ない。Gully&Phillips2015はそのことに言及している数少ない研究の一つであるが、それでも「その他の人事諸施策を考慮する必要がある」といったレベルにとどまっている。

tanaka01※Phillips and Gully(2015)をもとにワークス研究所が一部改

採用は、入社前のいわば「社内人事制度が適用される前の人」を対象にしているし、採用活動自体が学事日程などの社外要因の影響を受けるので、他の人事施策と分けて考えてしまいがちだが、人事システム全体に強く影響を及ぼすことを認識する必要がある。そしてその傾向は、日本において特に顕著なのだ。

ならば人事制度そのものを変革すればよいのではないか、という話になるかもしれないが、これはなかなか難しい。全体の整合性を保ったまま変革しようとすれば、制度自体を0から作り直すほどの大仕事になってしまうのである。

ならばどうするのか。「一点突破」だ。

「一点突破」設計時のキモ
イノベーション人材、グローバルリーダー、etc. 表現は異なれど、要は少数選抜組のことだ。彼/彼女らにだけ適用される人事制度を創っていくのである。

「何をいまさら」そういう声も上がりそうである。
おそらく少なくない数の企業が、実際に導入したり、導入を検討したことがあるだろう。
しかし、「選抜の基準の妥当性」や、「非選抜従業員のモチベーション低下」がネックになり、導入を見直した企業が多いのではないか。

それに対するキーワードは2つだ。
1つは「選抜組に適用する人事制度の整合性」。もう1つは「選択制」である。

上記で述べてきたように、人事制度を「一部の人に対して」変えたとしても、その一部の人に対する「その他の人事制度との整合性は全体で」取らなくてはいけない。人事制度とはそういうものなのである。対象を限定したとしても、採用はやはり人材マネジメントシステムの一部である。事業戦略から要請される要件と入社後の開発、評価、報酬などとの両方の整合性を取ることが欠かせない。

もう1つの「選択制」がより重要だ。物事を変えるとき、意思は時として能力以上に重要になる。機会は平等にあり、その道は険しいものであるが、意欲と能力に富んだ者にとっては己を伸ばす魅力的な機会に映る。そのような役割と制度を作ることができるかどうか。

採用の時点から意思を問い、期待する活躍にふさわしい機会と制度を用意する。
採用設計は人事システムの視界を持って取り組む重要な仕事なのである。

田中勝章


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2016年01月20日