Column

人事部門は本当に不要なのか?
清瀬一善

人事部門への期待の高まりと失望
「日本企業における人事部門の位置づけは、この10年ほどの間に随分高まってきたように感じる。経営から人事部門への期待を肌で感じるからだ」先日、ある企業の人事責任者の方とディスカッションをしていた際に出てきた言葉だ。私も同感である。グローバル展開、新規事業開発、事業再編等々、経営課題の多くを解決するためには「組織・人材」面での対応が必須になっているからだ。
一方で、人事部門に対して失望を感じる経営者の声もよく聞かれる。「人事は現状維持を優先し、大胆なチャレンジを嫌う」「社長が痛みを伴う構造改革を指示しても、人事はNoばかり言う」といった内容だ。
人事部門への期待が高まっている一方で、失望を生んでいるという状態は、どうも日本企業に限った問題ではないようだ。ハーバード大の元教授であるラム・チャランが2014年にハーバードビジネスレビューに寄稿した論文「It’s Time to Split HR(邦題:人事部門をなくそう)」によれば、世界中の企業のCEOが、人事部門の最高責任者(CHRO)に、CFOと同じように経営参謀としての役割を期待するようになっているものの、そのパフォーマンスに失望しているという。チャランのこの主張を裏付けるデータがある。PWCが実施したGlobal CEO Survey2014によれば、人事部門は、CEOの部門別満足度ランキングのワースト3である。(ちなみに、満足度1位はファイナンス部門で、最下位はR&D部門である)

ビジネスパートナー制が解決策になるのか?
この現状を打開するために、チャランは、人事部門を、リーダーシップ開発・組織開発に特化した組織と、アドミニストレーション業務に特化した組織の二つに分割し、それぞれの専門業務に集中することを提案している。特に強調しているのが、リーダーシップ開発・組織開発に特化した組織においては、事業部門もしくは財務部門の出身者をトップに据えるべきだと主張している点だ。従来型の人事実務のエキスパートではなく、よりビジネスの現場に近い人材が、次世代リーダーの育成や組織開発に従事すべきということなのであろう。
我が国においても、「勝てる」人事になるためには、外資系企業のようにビジネスパートナー※制を導入するが重要だという議論が従前よりある。たしかに、ビジネスパートナー制の方が、ビジネスニーズと人材マネジメントを結び付けて考えやすくなるだろう。ただし、形だけ取り入れてもおそらくうまくいかない。2000年代に入っていくつかの日本企業がビジネスパートナー制を導入したが、必ずしも成功しているとは言えない状況にあるからだ。ビジネスパートナー制度を導入する際には、以下の2点に取り組むべきではないかと考える。

1. ビジョン・ポリシーは共有するが、権限委譲を進めること
本社人事が権限を握ったままでは、ビジネスパートナーは思い切った意思決定ができなくなるが、権限委譲を進めると、全社的な整合性が損なわれてしまうという懸念がある。重要なのは、言い古された言葉ではあるが、権限委譲の前提条件として、「人材ビジョン」や「人事ポリシー」を全社で共有することではないだろうか。

2.人事プロフェッショナルがビジネスパートナーとなること
ビジネスパートナーは、事業責任者の経営参謀となる必要がある。いくら人事実務に詳しくても、ビジネスを理解できていない人事パーソンは、事業責任者から信頼を勝ち取ることは難しい。ビジネスパートナーが事業部出身者である必要はないが、担当する事業のビジネスを理解した上で、人事面から会社の成長に貢献し続ける「人事プロフェッショナル」であることが求められるようになるだろう。

人材が最大の経営資源である我が国においては、人事が強くなることが、競争力を高める源泉となる。組織論のみに終始することなく、「人事プロフェッショナル」の育成にも力を入れることが望まれる。

※ビジネスパートナーとは、ミシガン大学教授のデビッド・ウルリッチ教授が1990年代に提唱した概念で、戦略の実現に貢献する人事を意味する。外資系企業では多く導入されており、事業部門ごとに人事に関わる全ての役割(採用、教育、移動・配置、組織開発、サクセッションプランニングまで)を担うビジネスパートナーが配置され、事業部門責任者の参謀として各事業部門の戦略実現に貢献している。

清瀬一善

 


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2015年10月14日