Column

フレキシブル・ワーク先進国の働き方改革
村田弘美

8月3日、第3次安倍再改造内閣が発表された。五輪相とともに注目されたのが、働き方改革担当大臣の新設である。働き方改革については、ワーク・ライフ・バランス(以下WLB)をはじめ、長時間労働の是正や同一労働同一賃金、女性活躍推進、高齢者雇用などがさまざまな場面で問われ、先進的な企業がその取り組みに着手しているが、これをさらに日本全体で加速させる目論見だろう。

「働き方を変える」企業
201608_mura01弊所のコラム「フレキシブル・ワーク最前線 ~新しい働き方が組織を変える~」では、場所や時間にとらわれない、新しい柔軟な働き方に取り組む日本企業の事例を取り上げている。フレキシブル・ワークは10年前からウォッチしているが、現場の取材は実に面白い。各社の試行錯誤や苦労を積み重ねて得た成果だ。旧来との違いは、テクノロジーの活用と対象の拡大、そして富士ゼロックス社やアキ工作社のように「働き方を変える」ことが、収益や労働生産性の向上につながること。これはデータ検証の結果であり、業務量は変わっていない。企業訪問件数や量はむしろ増えている。また、プロフェッショナルとして働き方を変えた個人を活用するクラウドワークス社やNTTコム チェオ社では、家族の転勤に左右されない働き方や年齢にかかわりなく実力を発揮できる場を提供している。働き方の改革をいかに効果的に取り入れるか、経営者や人事プロフェッショナルの腕の見せどころでもある。

フレキシブル・ワーク先進国の働き方を改革する施策
グローバルセンターでは、フレキシブル・ワーク先進国の英国、フランス、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ベルギー、米国の7カ国を中心に、新しい働き方を支援する政策と、約70社の企業の萌芽事例研究を進めているが、こちらも上記に劣ることなく大変ユニークで興味深い。企業事例は次の機会とし、本コラムはその土台の政策と最近の傾向を一部紹介する。

“学期間労働時間制”や“孫のための休暇”も(英国)
英国は、2000年のWLBキャンペーン以降、就労・家族法(2006年)、児童および家族法(2014年)で施策をブラッシュアップし、母親、父親に最大級の支援を与え、2017年にはさらに保育を支援する法律の導入を見込んでいる。国を挙げた施策は成果を上げ、2013年の時点で97%の企業が1種類以上のフレキシブル・ワークを導入し、定着している(英国政府WLB調査)。その種類も年々変化し、最近では“学期間労働時間制”を取り入れる企業が増えている。また、孫の育児のための勤務時間短縮や休暇の取得も増え始めた。

大企業は“QWL施策”に対応(フランス)
フランスは、週35時間労働制が有名だが、その後相次ぐ法改正で骨抜きの状態となり、国際競争力を弱めたと言われた。しかし、その後企業毎の労使交渉で見直される(オーブリI法)。雇用の安定化に関する法(2013年)、クオリティ・オブ・ワーキング・ライフ(QWL)、職業上の平等の向上の労使合意(2013年)により、企業は託児所の設置、オフィスの就労人数の制限、テレワークの従業員がインターネット接続を切る権利などさまざまなQWLに取り組んでいる。また、2017年に“就労活動特別口座”の導入を予定している。社会保険や労務上の権利をポイント化し、自分の口座に貯蓄する。ポイントは研修、起業支援、転職支援、育児・転居支援、サバティカル、家族関連の休暇、社会活動休暇、パート移行時の収入補填、年金、休暇の貯蓄などに柔軟に利用できるという。

“1日6時間勤務制”の企業が増加(スウェーデン)
スウェーデンは、育児休暇制度が高度化しているが、現在は労働時間の短縮が議論されている。労働時間は主に団体協約で定められており、フレキシブル・ワークは一般的で、既に週30時間労働の企業もある。
2013年には企業の約半数が、8割以上の従業員にフレックスタイム制を導入している(欧州企業調査)。
労働時間法(2014年)で、従業員は午前7時から9時の間に始業し、午後3時から5時の間に退社できる権利を有し、早朝勤務も多い。最近の傾向では、Toyota Centre社、Brath社など“1日6時間勤務制”に移行する企業が増えた。従業員の満足度や生産性の向上もあり、最近は欧州内の企業にも広がっている。

多彩なフレキシブル・ワーク制度の活用(ドイツ)
ドイツでは、フレキシブル・ワークの数多くの法定モデルが提示されている。6カ月以上在職している従業員は労働時間を短縮できる権利を要する。法律も整備されており、企業は、労働時間の短縮、交代勤務、フレックスタイム、ジョブ・シェアリング、短期交代労働、部分退職(段階的退職)、無定形労働(労働時間、場所を自由に選択する)、信頼労働時間制度(労働量は一定で、労働時間、場所、期間を設定する)、在宅勤務、労働時間口座、期間幅モデル、モジュラー制度、生産時間制、サバティカル、フルタイム・セレクト休暇などの中から適切なモデルを活用し柔軟化を図っている(図表)。

図表 ドイツのフレキシブル・ワーキングの例
201608_mura02

“週4日勤務制”へのチャレンジ(ベルギー)
ベルギーはEUで唯一、労働時間の上限を週38時間に定めている。キャリアの中断を短縮する“タイム・クレジット”など、有給休暇制度は11種類もある。WLBの問題では、現在、通勤時間の短縮が議論されている。その解決策としてテレワークを雇用契約に組み込むことを義務付けている。経済省は新たに労働者の所得を減らすことなく旧来の週5日勤務制から、週4日勤務制を実験的に導入した。労働時間に関しては保守的であるが、フレキシブル・ワークに関しては、企業の人気を高める要因につながるため、さらなる拡大を見込んでいる。

テクノロジーの進化により「パソコンの端末が職場」という労働者も多い時代。全てではないが、従業員が1つの就業規則やワークルールで働くことが窮屈になっている。本来の職の性質、従業員の特性に合った最適な働き方はどのようなものか。経営や人事がそれぞれの立場で、仕事の質を上げるために知恵を絞る時期が来ているのではないだろうか。

村田弘美


[関連コンテンツ]
「一億総活躍」社会の新しい働き方を考える
Works No74 フレキシブル・ワーク ―臨機応変・伸縮自在な働きかた-
欧州におけるフレキシブル・ワーク ―臨機応変・伸縮自在な働きかたの推進-

 

2016年08月24日