Column

「一億総活躍」社会の新しい働き方を考える
村田弘美

「一億総活躍」社会と、1人が2倍活躍する社会
11月28日、政府による『一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策』がとりまとめられた。国民全員が活躍できる社会のために、1)少子高齢化という日本の構造的問題に、正面から取り組むことで歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する、2)日本人の誰もが生きがいを持って、充実した生活を送ることができるようにするには、何に取り組めばよいのか。労働分野では、「生産性革命」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」「生涯現役社会」などが掲げられているが、国のプランに対する反響は、どうも捗々しくないようだ。10月21日から11月6日にかけて、厚労省が行った一億総活躍社会の実現に向けた意見募集(パブリックコメント)の総件数は395件(306人)。1億人に対しての施策に対して306人しか向き合う人がいないという寂しい現状であった。周知の仕組みにも問題があるかも知れないが、国の将来を考える大事な場面である、五輪のエンブレムではないが、学生、若年・高齢者、女性・男性など社会の一人ひとりが真摯に向き合って考える機会が必要ではないだろうか。押し付けられた政策では、誰も動かない。

欧州を訪れると、必ずといってよいほど話題になるのが、国の規模だ。ロシアは1億人を超えるが、以下、ドイツ、英国、フランス、スペインは6千万人台という規模にとどまる。例えば、デンマーク(人口約566万人)では、「デンマークは人口が少ないので、国を強くするには、人的資源を豊かにする。国民一人ひとりが二倍のスキル、能力を持てるように努力している」という意見をよく聞く。これは政府の人間ではなく、個人が発したことばだ。「だから国や企業は、教育や職業訓練に投資をしている。ITは苦手とは言っていられない状況」だという。また、スウェーデン(人口約975万人)取材では、「自国の規模、マーケットは小さい。国内にとどまらず近隣諸国をはじめ、グローカル、グローバルを舞台に勝負する」という。スカンディナヴィアはヴァイキングの故地であり、オリジナリティや美しいデザインといった強みを磨き攻め込むという。このように国の喫緊の課題に対して個人が自分自身は何をすべきかを認識し行動しているようだ。

シニア(50+)の新しい働き方を考える ~5つの改革
「一億総活躍」を実現する上では、中高年・シニア層がいかに活躍できるかがカギを握る。目玉の1つは「生涯現役社会」であるが、日本企業の多くは定年制を取り入れている。定年制の歴史は明治時代に始まった制度だが、昭和60年代までは「55歳定年制」の企業も多く、現在は継続雇用で65歳定年延長や定年制を廃止する企業も増えつつある。今後、医療分野が進化し(さらに年金財政がひっ迫)すると、将来的には成人から約50年間も働き続ける「70歳現役社会」も視野に入ってくるだろう。
欧米主要国の高齢者雇用施策では、「50+(プラス)」と50歳からが対象だ。引退年齢が高くないせいもあるが、日本のような超高齢者社会ではなおさら「50歳から将来に備えておく」ことが必要だ。時間のスピードは誰にも平等だが、加齢のスピードは、個体により異なる。しだいに視力、聴力、記憶力、筋力、体力、 バランス力などが衰えてくる。しかし現代の高齢者は、一昔前の高齢者とは異なるため、生涯現役のために何をすべきか過去にない新しい発想の施策を考えるべきだろう。現在の50代、60代の労働者はITスキルなども高い者がおり、一括りにはできない。また、家事を家電製品が代替しているかの如く、テクノロジーの進化により、いまやコンピューターやそのものが労働を代替し、ホワイトカラーの職場はパソコンのデスクトップといってもよい。ここで、生涯現役のために50代以降のフレキシブルワークとして、「働く場所」「働く時間」「休暇制度」「報酬制度」「人材プール」などの見直しを提起したい。

1つめは「働く場所」の改革、在宅勤務。モバイル機器などのさまざまなデバイスや、スカイプや会議システム、アプリを駆使すれば仕事の多くを滞りなく実行できる。日々の仕事内容によって、職場と自宅とをデュアルにしてもよいだろう。勿論、通勤の労力も過少化する。

2つめは「働く時間」の改革。就業時間は企業の就業規則によって定めたものに過ぎない。例えば、シニア向けの就業時間の制定をし、短時間勤務など仕事の性質に合わせた労働時間を定めればよい。徐々に労働時間を短くするスライド制も有効だろう。図表のように、英国では子供や孫に合わせた労働時間や、段階的な定年制、自己管理勤務などさまざまな制度が存在する。

3つめは「休暇制度」の改革。隔日勤務、週4日勤務、週3日勤務など、仕事内容に合わせて必要な労働時間の決定をする。

4つめは「報酬制度」の改革。基本はノーワークノーペイの法則で仕事内容(働く時間、休暇制度)により決定する。仕事内容は同じで賃金だけ下げるのではなく、根本的な報酬制度の見直しが必要である。働き方によっては、社会保険制度の改革が必要になる可能性も生じるだろう。

5つめは「人材プール」の設立。働く時間、休暇制度との併用もあるが、引退前後の数年間は、所属企業の人材プールとなって、他の職場も含めサポートする仕組みである。豊富な経験が社内の労働力の調整弁として機能する、またインターンシップ生などの師として活躍してもらうなどポスト開発が必要となる。

勿論、人と対面して技術を発揮する職などもあり、上記の提起だけで中高年・シニア層の働き方がすべて変えられるわけではなく、従来の各施策との併用が必要である。例えば、欧米企業では受付にベテラン社員を置くこともある。シニアにも細く長く活躍してもらう「一億総活躍」社会のために、誰をどこに再配置するか、職域開発を含めた最適化を考える時期にきている。

英国のフレキシブル・ワーキング
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村田弘美


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2015年12月10日