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シニア活用について考える―定年や雇用継続の延長が解だろうか
戸田淳仁

一億総活躍社会を目指すために諸々の政策プランが提示されているが、その1つとして、シニアの活用が掲げられている。2016年6月に発表された一億総活躍プランを見ると、「生涯現役社会を実現するため、雇用継続の延長や定年引上げに向けた環境を整えるとともに、働きたいと願う高齢者の希望を叶えるための就職支援を充実する必要がある。」と明記されている。しかしシニアの活用については、いくつかの難しい課題が複雑に絡み合い、効果的な解決策が見えにくいのが現状だ。このコラムでは改めてシニア活用の現状について概観し、解決の方向性について考えてみたい。

シニアの大きい個人差に対してどう向き合うか
シニア活用について難しいのは、シニアは個人によって状況が異なり、一律の対応ができないことだ。一部のシニアは、引退後の貯蓄が十分であり生涯現役で働く意欲はない一方、働くことで生計を立てていかざるを得ない人もいる。著者の研究(内閣府「経済分析」に掲載予定)では、団塊世代が50代において、生涯現役で働きたいと考える個人は6割にのぼっていたが、大企業に勤める、貯蓄が多い、住宅ローンがないなどの特徴がある人は、生涯現役で働きたいとは思わないという傾向が見られた。企業年金が充実している、引退後のたくわえが十分であると考えている個人は、働き続ける必要がないと思っているのが現状だ。また、生涯現役で働きたいと考える個人においても、その理由は、生計を立てることだけでなく、社会とつながっていたい、仕事を通じて社会に貢献をしたいなど背景は様々である。

また、70代、80代になっても老いを感じないいわゆるアクティブシニアと呼ばれる人もいれば、健康状態が良くなく、働き続けることができない人もいる。先ほど紹介した著者の研究においては、50代時点での仕事から引退したい年齢どおりに実際に働いているか調べた。その結果、生涯現役で働きたいと考えていてもその後健康状態が悪くなり、仕事から引退したという人が少なからず見られた。働きたいという意志だけでなく健康状態もシニアの就業を考えるポイントである。

個人差が大きい中で一律の対応がもたらした結果
シニアの個人差が大きいにもかかわらず定年や雇用延長という一律の年齢を設けることが合理的なのかは疑問だ。これまで政府は高年齢者雇用安定法を改正し、定年の年齢を55歳から60歳に引き上げ(1998年までの段階的引き上げ)、その後は、定年を60歳としても希望者に対して、企業に雇用確保する年齢を65歳に引き上げてきた(2006年、2013年の改正)。

こうした法律によりシニアの就業率が上がった効果を示す研究があるため、一定の評価はできる。しかしその裏側で、企業は人件費を全体的に見直して何とか対応できるようにしてきたのが実態だ。人件費の調整で特筆すべきなのは、やはり60歳の定年後の再雇用・継続雇用であろう。図表に示す男性の平均年収を見ると、これまで言われているように、再雇用や嘱託に切り替え、60代前後で年収が大きく下がっている。50代後半に比べ60代前半の年収がどれだけ落ちているかを見ると、300人未満の中小企業では19%の落ち込みであるのに対し、1000人以上の大企業では33%もの落ち込みで、大企業ほど落ち込み幅が大きい。さらにいうと、65歳を超えたところでは、大企業の年収がさらに落ち込み、中小企業とわずかではあるが逆転している。年収の高い大企業ほど、企業は賃金をコストとみなし、高齢になるほど賃金を大きく落とすことで調整していると言える。

図表 従業員規模・年齢階級別 2015年の平均年収(男性)
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定年・再雇用による人件費調整により、企業の採用・人材活用に深刻な影響を与えていなかったと見ることもできる。シニアの就業率上昇にともない若年者の雇用を奪っているのではないかという疑問があるが、これまでの研究ではそれを示す直接的なエビデンスがないことがその証左だ。だからといって、足元の景気回復期においても賃金があまり大きく上がらないことからも推察されるように、企業の体力はほぼ限界に近い状況であるため、定年や雇用確保の延長を進めていくことは企業の競争力からも厳しいと言わざるを得ない。特に大企業においては40代における従業員の構成比が相対的に大きく、この年齢層の人件費が大きくなることが予想される。一律の定年や雇用確保の延長により、企業に人件費の調整をさらに迫ることになり、立ち行かなくなる可能性もある。

「選択定年制」+「今後の年収・キャリアパターン提示」の可能性
こうしたこともあり、2015年に上梓した報告書『「次世代シニア問題」への処方箋』の中で選択定年制の提案をした。例えば50歳のように早い時期に、今後何歳まで働くか個人が意思決定をし、企業がそれを承認する。55歳で退職したい人については優遇する一方、70歳や75歳など長期で働きたい人については、働きぶりに対して処遇を決めるといった制度である。早期退職制度についてはすでに導入している企業もあるが、一律の定年を決めないことがポイントである。定年制の廃止にあたるので、この制度は現行制度に違反はしない。定年を一律に設けているのではなく、個人の選択に基づくことにより、働く個人も今後のキャリアについて真剣に考えるようになる一方、企業において人件費の増大を抑えることが期待される。

この提案は個人がキャリアを自立的に考えるきっかけにつながることを期待して提案したが、読者の反応として、個人が選択するのは難しいという声があった。今後のキャリアを考えるためには、自分の強みだけでなく、収入が十分かなど他の要素を考えないといけないため、決めきれないのが実態だ。そのため、選択定年制に移行するとともに、企業は今後のキャリアパターンに応じて予測される年収を提示し、そのうえで個人に選択させることが、この問題解決にドライブをかけると考える。現在でも家計の将来シミュレーションはあるが、支出が大きく生活費を見直すことを促すことが多いと聞く。支出だけでなく、今後のキャリアとともに収入がどのようになるかを提示することにより、将来に対して展望が開け、選択が可能になるのではないだろうか。

戸田淳仁


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