Column

「転職=即戦力」?個人力と組織力のあいだ
中村天江

地方創生の切り札として、都会で経験を積んだ人材の地方へのUターンやIターンが期待されている。優秀な人材が新しい職場に移れば、活躍してくれるはず、という期待が、そこにはある。
仕事にやりがいを求める個人にとって、新しい職場で、自身の能力を活かし、成果をあげられるかはとても重要だ。

「転職=即戦力」なのか?
転職には、一般に、即戦力というイメージがある。この「優秀な人が転職してくれば、すぐに活躍してくれるはず」というストレートモデルは、理想的ではあるが、現実は必ずしもそうならない。
欧米のようにジョブ型ではなく、メンバーシップ型といわれる組織風土をもつ日本企業では、企業特殊的な技能なくして、仕事ができるようにはならないからだ。そのためには、職場の人間関係をつくり直し、その企業ならではの仕事の進め方を学ぶ必要がある。
実際、われわれが行った「UターンIターンと就労」研究プロジェクトでは、都会から地方へ移住した11.8%が、転職後、一時的な満足度の低下を経験している。
異文化適応をともなう海外赴任で古くから観察されてきた、満足度がへこむこの「U字カーブ」が、国内の転職でも観察されたのがプロジェクトの発見のひとつだ。背景には、方言やマーケットといった地域特性の違いに、人間関係や仕事の進め方といった組織文化の違いが重なり、地域間転職でも、海外赴任に似た、異文化適応が必要になることがある。

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「個人の満足」と「組織への貢献」のギャップ
入社後、転職者は、満足度が下がり、鬱々としたものを抱える。だが、これは転職者の内側で起きていることで、外からは、入社後、活躍していないゼロの状態が続いているようにみえるだけだ。ここに、「個人の満足」と「組織への貢献」のギャップがある。
転職者が、どれだけ優秀で、豊富な経験や知識をもっていたとしても、経験や知識の全てが、転職先で求められているとは限らない。転職先には転職先の、仕事の進め方や、過去の経緯があり、そのコンテクストにのっとって初めて、個人がもつ経験や知識は、組織の力に転化される。
そのため、転職者にも、受入れ組織にも、転職者が有す経験や知識を、組織の成果に転化する取り組みが求められる。

「Learning(学習)」と「Unlearning(学習棄却)」
個人力を組織力に転化していく過程で鍵となるのが、経験や知識を「活かす」ことに加え、知識や仕事の進め方を新たに「学び」、時に過去のやり方を封印する「アンラーニング(学習棄却)」だ。
転職は即戦力というイメージが強いがゆえに、経験や知識を「活かす」ことに重きをおきがちだ。しかし、現実には、その企業ならではの仕事の進め方を覚え、人的ネットワークを構築しなおす必要がある。また、不用意な「以前の仕事では…」という知識の過度な披瀝は、反発を招く可能性も高い。転職者は、新しい職場で通用すること、しないことを見極め、足りないことは新たに学ぶ。「全てをそのまま活かす」のではなく、「学び」「活かし」「捨てる」という心構えで、新天地に挑むのが肝要だ。
そして、この裏表として、受入れ企業の経営者や上司は、転職者が、新たに学び、必要に応じてアンラーニングできるよう、人を紹介したり、内省を促したり、仕事をしやすい環境を整えることが重要だ。

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個人の経験や知識を、組織の成果に昇華できて初めて、個人にとっても、企業にとっても、よい転職といえる。メンバーシップ型の企業では、地域の移動をともなわない転職でも、このようなことは十分起こり得る。円滑な労働移動を実現するためには、個人力を組織力のあいだを埋める、そんな取組みが強く期待される。

中村天江


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2016年03月23日