Column

あいつぐ法改正 「働く」に潜むリスク
中村天江

ブラック企業、待遇格差、雇用差別…「働く」をめぐる問題
ブラック企業、待遇格差、雇用差別、不安定雇用・・・。あなたはこれらと無縁に働くことができているだろうか。程度の差はあれ、何らかの点で、身に覚えのある人も少なくないのではないだろうか。
労働市場の変化や、企業の経営環境が厳しくなるにともない、近年、このような事態に直面する可能性が高まっている。このままでは、安心して働くことができないため、「働く」にかかわる法律の整備があいついでいる。主だったものをあげよう。

<近年、整備された働き方に関する法律>
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この事態が悩ましいのは、これまでの法律では、働き手を保護できない問題が、多発するようになっただけでなく、法律を整備したとしても、法律は、使われなければ、ただの「絵に描いた餅」ということだ。

5割が違法状態で働いたことがある。うち7割は泣き寝入り
実際、私たちは、「働く」に関する法律を、把握していないし、活かしきれていない。例えば、サービス残業や賃金・雇用契約期間の不利益変更は制限されている。でも、万が一、そのような事態に直面しても、何もできない個人は少なくない。仕事をするうえで、違法状態を経験した人は5割を超え、うち73%が泣き寝入りしたとの調査結果さえ存在する(POSSE 2008年調査 今野晴貴『マジで使える労働法』より)。
筆者が参加したNHKの番組(*)でも、労働契約法改正後の、雇用継続の受け皿として期待される限定正社員制度に対して、視聴者の6割以上が不安と回答していた。不安定雇用解消の一助となることが期待される制度にもかかわらず、消極的な反応が半数を超える。この回答には、制度をよく知らないがゆえにそう回答した人も含まれていたのではないだろうか。

「個人を守る法律を、個人が知らない」ことがリスク
かつてのように、同質的に働くことができる、正社員が中心の雇用社会では、労働条件は就業規則で決められ、組合が経営とまとめて交渉してくれた。だから、私たちは、法律についてよく知らなくても、それほど困らなかった。今や、主婦、高齢者という属性、雇用形態、生活と仕事のバランスなど、働き方の多様化があらゆる面で進んでいる。働き方が多様になればなるほど、雇用契約も、望ましい働き方もバラバラになる。そうなると、個別性が高い自身の労働条件は、自分で責任をもたざるをえない。
既に、「働く」環境は、このように変化しつつある。働き方が多様化し、経営を取り巻く環境が厳しさを増している中、労働条件や雇用契約に対し、対峙する知識をもたないことは、とても危うい。

「ルールを制す」ことが、安心して働くための第一歩
このように、「私たちを守る法律を、私たちが知らない」という不可思議な現実を、そのままにしておくと、雇用リスクが増大してしまう。それを避けるためには、ひとりひとりが、自分にかかわる法律にもっと敏感でありたい。
思い出してほしい。日本のお家芸でもある、柔道やスキージャンプで、国際大会の試合ルールが変更になったことがある。それまでどれだけ上位入賞していたとしても、新ルールに適応できなければ、苦戦を強いられる。試合は、実力ではなく、ルールを制した者が勝つのだ。
法律は働くためのルールだ。ルールに通じ、ルールを活かすことが、「安心して働く」という試合に勝つための近道だ。

(*)日本放送協会 2015年10月24日NHKスペシャル「私たちのこれから #雇用激変」

 

中村天江


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