Column

米国における「リケジョ」あるいは「STEM Women」をめぐる動き
石原直子

企業における女性活用や女性リーダー育成について考えていると、メーカーなどの「理系職種」比率の高い企業では、そもそも女性の採用数が歴史的に少なく、女性比率が10%ほどでしかないことに気づく。こうした企業では、母数が少ないため、女性のリーダーを育てるにも、女性の活用を進めるにも、限界があると感じているというのもよくわかる話だ。

日本では大学で理工系学部に進学したり、ITやエンジニアリング関係の職種に就く女性のことを「リケジョ」と呼ぶことが徐々に定着しつつある。この「リケジョ」をどう増やすか、というのは、女性活用を考えるにあたって避けては通れないテーマである。同じようにアメリカでも、ここのところ理工系の女性には注目が集まっている。

“STEM”ということばがある。これはScience、Technology、Engineering、 Mathematicsの頭文字をとった言葉で、科学技術・工学・理数といったいわゆる「理系」を表す概念である。アメリカではオバマ大統領の就任以来、STEM教育の重点化を優先課題として取り上げている。2015年度(2014年10月~2015年9月)の連邦予算では29億ドル(3400億円)をSTEM教育に投じるとし、そのことについて、ホワイトハウスから“Preparing Americans with 21st Century Skills”と題した声明も発表された。2016年度予算では、さらに積み増した31億ドル(3700億円)が計上されている。

こうした国をあげての取り組みの成果や、近年のIT産業の興隆を受けて、アメリカにおけるSTEM教育熱は高まりつつある。小学生の子供のサマーキャンプなどでもSTEMを売りにしているものが増えており、子供向けのプログラミング言語を学ぶ、ロボットを作って動かすなどのプログラムを含んだキャンプには人気が集中しているという。

アメリカの労働市場における
STEM Women

そして、アメリカでは理工系女性をSTEM Womenと呼ぶようになってきた。米商務省は2011年にWomen in STEMと題するレポートを発表した。レポートでは、アメリカのイノベーションと国際的な競争力を維持発展させるためには、理工系労働力が不可欠であるとしたうえで、STEM関連の仕事に就いている女性、STEMの学位を持っている女性が不足している、と総括している。以下にレポートの詳細を紹介しよう。

アメリカの労働者のうち女性は48%で約半数を占める。大卒労働者に限れば女性比率は49%である。しかし、STEM関連職種に限定すると、女性は24%でしかない。そしてこの比率は過去10年変わっていない。

また、STEM関連学部を卒業した就業者の人数は男性が670万人、女性が250万人だが、修めた学問の内訳をみると、女性の57%は物理または生命科学分野であり、工学が18%、コンピューターサイエンスが14%である。男性では工学が48%、物理または生命科学分野が31%、コンピューターサイエンスが15%となっているのとは、かなり異なる傾向が表れた。

さらに、STEM関連学部を卒業した女性で、STEM関連職種に就いているのは26%に過ぎない。男性では40%となった(ただし、STEM関連職種にヘルスケア関連職種は含まれず、STEM関連学部卒で女性就業者の19%はヘルスケア関連職種に就いている)。

一方で、STEM関連職種に就いている女性は、それ以外の女性に比べて33%給与が高い。これは、男性のSTEM関連職種の就業者がそうでない就業者に比べて得られるプレミアム(増収)よりも高い比率であり、したがって、STEM関連職種では、男女間の給与ギャップはそうでない職種に比べて小さくなっている。ちなみに、非STEM関連職では男女間の給与ギャップは21%、STEM関連職では14%になっている。

レポートは、男性に比べ女性のSTEM関連職種就業者が少ない理由には、女性のロールモデルの欠如、ジェンダーに関するステレオタイプな見方が残っていること、STEM分野においてファミリーフレンドリーな柔軟性があまり整備されていないこと、などが含まれるだろうとしている。

STEM Womenをサポートする
さまざまな取り組み

こうしたSTEMあるいはSTEM Womenへの関心の高まりを受けて、STEM領域の振興を推進し情報発信を行っている団体のひとつ、STEMconnectorは政府や州政府、教育機関、非営利団体との協力のもと、2013年から3年の間に100万人のSTEM分野の女性メンターを組織化し、STEM領域で学ぶ女子学生やSTEM関連職種に就く若い女性と接続する活動に着手すると発表した。

企業も、STEM Womenのサポートに乗り出している。たとえば、ロッキード&マーチンでは、女性技術者協会(Society of Women Engineers)と組んで、“Girls Exploring Science, Technology, Engineering and Math (GESTEM)”というイベントを毎年開催している。中高生の女子学生に対して、理系女性のキャリアのロールモデルや理系の仕事に関する情報提供をおこなうもので、ロッキード&マーチンの女性技術者や科学者がボランティアで参加している。
また、IBMは今年から、シリコンバレーで20人の女性起業家にメンターをつけたり、IBMのサービスの利用権利を与えて支援をするプログラムを開始したという。

日本では、2013年時点で理系専攻の学生における女性比率は、19%、工学系に限れば12%に過ぎない。しかし、これからのイノベーションや国際競争力の源泉になっていくのがSTEM分野であるというのは、日本においても同様のはずである。理工系に進学し、理工系職種に就く女性を増やそうとする試みは、日本でもこれから活性化していくことになるだろう。

(参考)
・オバマ大統領による2015年度予算におけるSTEM教育に関する声明
・米商務省によるレポート“Women in STEM”
Society of Women Engineersのサイト

石原直子


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2015年06月03日