Column

ダイバーシティではなく、インクルージョンを
所長 大久保幸夫

多様な人がいるだけでは組織はよくならない
安倍政権が熱心だからか、女性を中心とした多様な人材を組織に取り込むダイバーシティに焦点が集まっている。新卒採用では女性比率を高めようとする会社も多く、ちょっとしたバブル状態になっている。
しかし、そういう段階の話はもう卒業したいと思う。
大事なのはダイバーシティではなく、インクルージョンだと思うからだ。

ダイバーシティとは、多様な人が集まっている状態である。企業は多様な人に雇用機会をつくることで一種の社会貢献ができる。一定比率で障がい者を雇用することや、事業所の周辺住民である主婦層を雇用することはCSRの一環として歓迎されることである。しかし、これをもってダイバーシティ「経営」をしているかというと、違うと思う。多様な人が組織にいれば、どうしても意思疎通に時間がかかるようになり、意思決定のスピードも落ちる。つまりコミュニケーションコストが増えるので、経営的には負の要素もあることになる。また、多様な人が従業員にいるにもかかわらず、指導的立場は男性ばかりということになれば、差別的風土を持っているのではないか、機会が均等になっていないのではないか、という風評リスクが生まれる。必ずしも経営的にプラスとなるとは限らない。

やるならば、多様な人材が、ひとりひとりその特性を思う存分発揮して活躍するというインクルージョンの領域にまで達しなければ、本当の意味での価値はないのではないか。残念ながら多くの組織ではインクルージョンは根付いていない。外国人を採用しても、異質さを活かす前に日本人化してしまうのはその典型である。

インクルージョンの本質
ではどうすればインクルージョンになるのか。基本は個々の違いを積極的に評価し、活用することである。IBMは2015年のスローガンに「Be Yourself(自分らしく)」を掲げた。アナと雪の女王の主題歌がインクルージョンを表現していると言われたが、それは「Let It Go~ありのままで~」だった。異質さを同質化してしまうのではなく、あくまでもその特性・個性を活かすようなマネジメントを行うということである。そのためにあらゆる障害を取り除くのだ。トレンドマイクロ社はマネジメント哲学として、「P(業績)=p(潜在能力)-i(障害)」を掲げている。人はそれぞれとても大きな潜在能力を持っているが、周囲の環境やマネジメントの助けなしには才能を開花させることはできない。だから、i(障害)を取り除くことに経営のエネルギーを注ぎ込むのである。

残業できる人が幹部候補だとしたら、仕事と育児を両立したい女性は昇進レースで不戦敗になる。外国人に流暢な日本語を求めたら優秀な人材は日本企業に来てくれない。高齢者に負荷の重い仕事を求めたら持続できない。LGBTの人を差別の目で見たら、自分らしく活躍することはできない。
組織風土とマネジメントを大きく革新しない限りインクルージョンは実現できないのだ。

つまり、インクルージョンを実現するためには、新しく迎え入れる多様な人ではなく、今いる人たちが変わらなければならないということになる。
それがダイバーシティ&インクルージョンの本質だと思う。

大久保 幸夫


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2015年05月20日