女性役員に聞く昇格の実態株式会社ルネサンス 執行役員 ソフト開発部部長 望月美佐緒氏(後編)

部分最適から全体最適へミッションが拡大し、
会社の中核機能を担うチャレンジを許された

1999年、望月氏に次のミッションが与えられた。スーパーバイザーのチームを束ねるリーダーとして、スタジオ部門で行った標準化を、ジムやプール、テニス、ゴルフスクールへと、事業全体に広げることだった。すべての現場をより良い形に標準化することを求められ、それを実現した。

2001年には、営業サポート部部長代理へと、望月氏のキャリアはまた一つ上の段階に入った。現場で働き、現場の改善に精力を注いできた働き方から、販売促進や品質管理、商品企画等を任され、それまで苦手意識を持っていたPLやBSを理解することを求められた。慣れない仕事に戸惑い、会社を離れることを考えるほど悩んだ時期もあったという。しかし、この経験は後の望月氏のキャリアに大きく寄与することになる。

2003年には、教育部部長に就任した。これまで現場で行ってきた標準化や能力開発のノウハウを、全社の人材育成の仕組みづくりに展開させることを求められた。

「私が2001年頃に『PLやBSが苦手』ということで苦労したので、後進がそういう苦労をせずに済むように、どのタイミングで、どの部署で何を学んでおくべきなのかを考えました」

各人のキャリアにおいて、どの段階で、何を学んでおかなければならないか。あるいはポジションを上げるために絶対条件として何が必要か。そうしたことを総合的かつ明確にシステム化していった。

「経理、人事など、それぞれにテキストを作ってもらい、等級ごとの習熟度をきちんと決め、人事部と共に運用する事が出来ました。」

教育部の創設の際、斎藤社長(現会長)からは、「もっとも問題意識を持ち、考えている人材が事にあたるべき」と言われました。
義憤にかられた望月氏が、一人で始め、先頭にたって進めてきたルネサンスの人材育成システムは、望月氏の手から組織の手に渡っていくタイミングを迎えることになった。

執行役員への登用
そして、事業のコアバリューを磨く機能を担う

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全社の人材育成システムのベースを作りあげた後、2004年には品質管理部部長となり、2005年に執行役員として、ソフト開発部部長に就任した。ソフトとは、ルネサンスのジム・プール・スタジオ等の現場で顧客に提供するプログラムのことを指す。今度は、様々なプログラムの標準化や独自のソフトを開発し、それを全国共通で顧客に提供できる環境づくりが求められた。

バブル崩壊期から2000年代にかけ、フィットネス業界は大きな変化の渦の中にあった。淘汰と業界再編が進むなか、ルネサンスもさまざまな変化を経験した。合併によってルネサンスが管理する施設や従業員が一気に増えることになったのだ。

M&Aによって新たに仲間になったスタッフに対峙すると、なおさら育成システムによる標準化は大きな意味を持った。また、商品管理もより重要になった。買収したクラブが取り扱っていたさまざまなソフトを精査し、取捨選択し、本当にお客様が満足できるものだけを厳選した。ルネサンスが持っていたものよりも、先方の持っていた商品の方が良いと思えば取り入れ、ルネサンス全体に展開した。

新たな競争の段階に入ったこの業界で生き残るためには、さらに独自のソフトの開発を行って集客し、売上向上を図ることが、必須であった。優秀なスタッフと並んで、良質なソフトは集客の要である。そして、良質なソフトは、それを外部販売することも可能で、ライセンス料を得ることができる可能性が広がる。そうした一連の戦略を考え実行するのが、執行役員としての望月氏のミッションになり、それは現在でも続いている。

「例えば、最近開発したソフトで、“シナプソロジー”というプログラムがあります。脳に楽しいコミュニケーションの刺激を与えることで活性化させ、心も体もよりよくしようというものです。今、スポーツクラブに来ているのは人口の3%の運動が好きな方、運動を習慣づけしようという意識のある方だといわれていますが、このような種類のプログラムは運動に興味がなくても脳に興味のある人のやる気を喚起する事が出来ます。運動ではなく脳をフックにすることで身体を動かす楽しさを感じて頂きたいと思っています。」

ルネサンスは新たな取り組みの一つとして、高齢者向けに“元氣ジム”と名付けた、デイサービスの事業も始動した。“シナプソロジー”はそのデイサービスの中の目玉商品でもある。また、そこでの経験をもとにデイサービスを行っている他の企業に販売もしている。
また、業務委託者のトレーナー向けの新たなスキル習得の仕組みを部下が提案してくれたので、“パーソナル・トレーナー”という付加価値のある事業も進めることができるようになった。

「“パーソナル・トレーナー”の売上は順調に拡大して現在10億円規模ですが、今後は125%増を想定しています」

5年前に、PLやBSで苦労をした新任執行役員は、収益創造の中核を担う役割を任されていた。

メンタリティもアクティビティーも
社長の支えがあってこそのものだった

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望月氏が奮起できた理由の一つとして、30代の血気盛んな時期に当時の社長である斎藤氏に言われた言葉があるという。

「30代の初めの頃は、会社に対して納得できないと思うことがものすごくたくさんありました。ある時、自分の上司のやり方について『納得できない』といった旨を斎藤さんに訴えました。すると斎藤さんが、『じゃあ今、君が代わったらみんなが納得できるようにやれるの?』と問われたのです。その言葉で冷静になって考えてみると、当時の自分の力はまだまだ未熟でしたから、とても胸を張って「出来ます」とは言えませんでした。さらに『だったら、君が成長して責任のある地位に就くしか解決の方法はないのだよ』と、静かに言われました」

望月氏はその時、「自分が不条理を解消できる力を身につけて、さまざまなことを変えるしかない」と考えた。

「部下が上司に意見する行為は、ものすごくエネルギーが必要なことです。それなのに言ってくるのは、きっと意味がある。おそらく斎藤さんにはそれが伝わっていたのだと思います。これは当社の大きな特徴です。今の社長の吉田さんもそうですが、私は自分が納得できないと推進力が落ちてしまいます。そんな時吉田社長も忙しい中時間をとって必ず話を聞いてくださいます。もし私に成果と呼べるものがあるとすると、それは大きな『上司の器』に守られていたからできたことなのです」

ちなみに斎藤氏は、そのときの望月氏を諌めただけではなかった。「上司がダメだと言っても本当に必要だと思うことは、何度でも上司の扉をたたき、やることが大切だよ」とも言ったそうだ。この言葉こそが、今でも望月氏の心の中に多くを占める奮起の源泉だと言う。

理想の実現
そして貫き続ける自身の原点

ルネサンスは、かつて望月氏が目指したような会社に限りなく近づいている。優秀なスタッフが次々に育っていることがその証左であるという。

「それぞれの役割を持つスタッフが会社の歴史と共に育っています。優秀だと思う人がすごく増えたと本当に実感します」

今は、よりレベルの高い仕事がしたいと思えば、若手であっても上司の推薦を受けて、昇格試験に挑戦し、自らチャンスを手にすることが可能である。

「ただ以前とは違い、制度や仕組みが整った分、その枠の中で物事を考える人が増えてしまったという事には危機感を持ちます。フィットネス業界は、今大きな変換期を迎えています。この変換期を乗り切るにはただ目の前の仕事をこなすだけでなく、課題を見つけそれに対して自ら行動できる人材、汗をかける人材が必要です。自らがそうあり続けることも大切ですし、部下にあと一歩が足りないと思えば、奮起させるきっかけづくりを様々な関わりを通じてやるように心がけています。これまでの上司の方々はいつも私に対してそうしてくださっていましたから」

役員として多忙な現在も、望月氏は定期的に現場に立っている。商品、サービス、お客様の評価について、現場との接点を持ち続けることでわかることは多い。スタッフの声を聞く機会も、現場にある。
それは、上に立つものは「現場のことを知らなければならない」という想いがあるからだ。
今日も、望月氏は自らの原点を貫き続けている。

TEXT=森裕子・白石久喜 PHOTO=刑部友康

望月美佐緒 プロフィール

株式会社ルネサンス 執行役員 ソフト開発部部長
略歴:
1984 大学卒業後株式会社永新不動産Doスポーツプラザ心斎橋アスレチック課に入社
1987 ヒューマンライク総合学園ヘルス&スポーツ学院専任講師
同年 ルネサンス企画(現ルネサンス)入社
1988 ホテルニューオータニ大阪店 配属
1992 スタジオ部門スーパーバイザー
1997 IDEAプレゼンター
1999 スーパーバイザーチームリーダー IAFCプレゼンター
2001 営業サポート部部長代理 IHRSAプレゼンター
2003 教育部部長 (12月JASDAQ上場)
2004 品質管理部部長
2005 執行役員就任 ソフト開発部部長
2009 新規事業推進チーム兼務
2011 商品開発部部長兼務
2013 執行役員 ソフト開発部部長