Column

イントロダクション 白石久喜

もはや国策とせざるを得ない女性の登用

これまでも多くの日本企業が、女性を管理職や役員という企業内リーダーとして登用する意向を明言し、そのための施策を幾度も行ってきました。しかし、その実態はいまだ芳しいものではありません。 例えば、リクルートワークス研究所が2013年に行った人材マネジメント調査2013では、課長職相当に占める女性の割合は、2.69%(メーカー2.20%、非メーカー3.40%)で、部長職0.81%、執行役員相当以上では0.71%という惨憺たる結果になっています。 またアメリカの調査・コンサルティング会社GMIレーティングス(GMI Ratings)が2013年4月に発表したWomen on Boards Survey においても、日本企業の女性役員(取締役・執行役員)比率は1.1%と、世界最低水準でした。この数値は、先進国の平均11.8%、新興国の平均7.4%をも大きく下回るもので、調査対象45カ国中44位と不名誉な順位を日本にもたらしています。 2013年4月の成長戦略スピーチにおいて、安倍首相は、日本の産業社会において最も活用しきれていない人材は女性であるという問題意識の下に、社会政策の文脈に留まることなく、女性の活躍こそが、国家の成長戦略の中核をなすものであると強く主張しました。 やや大げさに聞こえるかもしれませんが、企業内での女性の活用・登用は、成長のための重要な要件であることは自明でしょう。そして今や、一企業の問題としてではなく、国策であるくらいの認識が必要であると考えています。

女性登用後進国日本

2006年以降、世界経済フォーラム(*1)が毎年公表している、ジェンダー・ギャップ指数という数値があります。これは、経済参加、教育、健康、政治参加の四つの分野における男女の格差を指数化したもので、直近の2013年報告によると、日本のそれは0.6498というスコアでした。これをランキングしたところ、調査対象136カ国(2013年の調査対象)中105位で、OECD加盟国(*2)の中では111位の韓国に次ぎ低く、また2012年の135カ国中101番目から、順位も後退しています。 さらに、この0.6498という指数の構成をみると、日本は健康、そして教育の分野では高いスコアを獲得できていますが、経済参加、政治参加の分野で著しく低いスコア、つまり男女格差が大きいとなっており、全体スコアを押し下げる要因となっています。 報告書(The Global Gender Gap Report 2013)によれば、国の競争力において、女性のエンパワーメントが人材の有効な活用となり、ジェンダーの不平等を是正することが経済発展につながると主張されており、日本に対して、女性の教育に投資をしたものの、女性の経済参加の障壁を取り除いていないために投資の成果が得られていないとの批判が展開されています。つまり投資を回収する努力を怠っており、宝の持ち腐れだと指摘されているのです。

女性登用最後のチャンス

さて、日本の人口は2012年をピークに減少の局面に入り、少子高齢化と合わせて労働力人口も減少しています。日本にとっても、産業社会にとっても、女性労働力の活用の延長線上に基幹化(つまり女性の登用)を実現することは避けることのできない重要な課題です。にもかかわらず、2003年に提示された202030の目標(「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」と政府が掲げたもの)は、10年を経た今もなお、達成の見込みは薄いといわざるを得ません。少なくとも今のまま手をこまねいていても、状況はかわりません。 こと産業社会において、主役は、大卒、男子、正社員であるという暗黙の空気を感じている人は少なくありません。この支配的な空気感と相まって、長らく、女性をリーダーとして育成・登用するという視点を持って来なかった企業にとって、女性リーダー育成は確かに困難なことなのでしょう。 しかし、このような状況の中でも、わずかながら、一(イチ)従業員から始まり、取締役や執行役員にまで登用された数少ない女性が存在し、ほんの少しずつ増えていることも事実です(本当にほんの少しずつなのです)。この事実、未来の光は見い出せないものでしょうか。人口が減少する社会も、世界最速で高齢化している社会も、私たちにとって未知の社会で、様々な変化を強いられることでしょう。しかし、そこで受け身の変化に甘んじている必要はなく、むしろ変化に乗じて自らパラダイムすら動かすくらいのアクションが許されているのです。つまり、現代は、「女性登用のチャンス」とのマインドセットを可能にする時代なのです。

何に学ぶのか。リファレンスは自ら作る

さて、数少ない日本の女性トップリーダーたちは、いかにして役員(レベル)のポジションを得ることができたのでしょうか。組織は意図することなく、結果としてたまたまそうなっただけかもしれません。しかし、彼女たちが登用の階段を登っていったプロセスすべてを偶然と決めてしまうことはあまりに愚かです。そのプロセスで、組織はどのように彼女らをマネジメントし、プロモーションし、そして成長を支援してきたのか。これらの事実を真摯に受け止めることで、確たる方法論を持たない日本企業が、そこからの示唆を得ることができるのではないでしょうか。 筆者は2013年の自身の研究の過程で、現役の女性役員11人にインタビューを行うことができました。先の文脈に沿えば、様々な偶然が重なった奇跡の11人の物語といえます。せっかくの物語なのに、論文には収まりきれなかったので、今回「女性役員に聞く昇格の実態」と題して、実名掲載を許された6人の物語を連載することになりました。彼女たちにご自身の職業人人生を振り返ってもらい、組織の中でどのように昇格しえたのかそのプロセスの話を語ってもらい、その中から特に“何が評価されて昇格したのか”というポイントに焦点を当てています。企業にとっては意図せざる結果であったとしても、そこにはいくつかの明確な共通点がありました。そしてその共通点こそが、女性を役員に登用するために必要不可欠なマネジメントのメソッドであるという結論を見出しています。しかし、ここでの掲載は控えさせていただきましょう。リーダーとして女性役員を本気で生み出したいと努力している企業の方であれば、6人の物語から必ず見出して、すぐに実践していただけると信じています。 そしてこの連載は、働く女性にも読んでもらいたいと思っています。リーダーという生き方の魅力を知って欲しいし、できればリーダーを目指して働いて欲しいと願っています。この連載は、日本社会で女性がリーダーになるための方法を直接的に示唆しているものではありませんが、日本社会の仕組みを裏側から分析しているものでもあります。多分、役に立つと思います。 ロザベス・モス・カンター(*3)は、少数派が多数派の支配権を崩す影響力を持つのは、少数派が35%を超えてからだといいます。公的統計での現状(*4)は、課長の女性比率が7.9%で、部長の女性比率が4.9%です。まだまだ長い道のりですが、この数値が10%を超え、20%を超え、やがて35%を超え、少数派ではなくなる日が必ず来るはずです。そこには誰も見たことのない景色が広がっていることでしょう。この連載が、その景色のための第一歩のお役に立てることを心から願っています。

白石久喜氏 プロフィール

thumb_index_woman_00l1990年株式会社リクルート入社、2001年よりリクルートワークス研究所にて、定量分析を中心として、リーダーシップ、イノベーション、グローバル等をキーワードに人材マネジメント研究に取り組む。現在は、一般社団法人社会人材学舎で理事・研究員を務めている。

 

 

(注釈)
*1 世界経済フォーラム(World Economic Forum)/ビジネス、政治、アカデミア、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界・地域・産業のアジェンダを形成し、世界情勢の改善に取り組む独立した国際機関として、ジュネーブに本部を置き、スイスの非営利財団の形態を有している。スイスのダボスで開催される年次総会が特によく知られており,通称ダボス会議と言う。総会では約2,500 名の選ばれた知識人やジャーナリスト、多国籍企業経営者や国際的な政治指導者などのトップリーダーが一堂に会し、健康や環境まで含めた世界が直面する重大な問題について議論する場となっている。
*2 OECD加盟国/日本は1964zq年に加盟し、現在34ヵ国が加盟している。
*3 ロザベス・モス・カンター/ハーバードビジネススクール経営管理学教授で、「企業の中の男と女」(生産性出版、1995)の著者である。
*4 公的統計での現状/内閣府男女共同参画局が、役職別管理職に占める女性割合として使っているのは「賃金構造基本統計調査(通称:賃金センサス)」のデータで、本文に表記した数値は、平成24年度の調査より算出したものである。

2005年以降、この問題に取り組んできた石原直子によるレポート「提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」と併せてご覧下さい。

2014年08月08日