HR Technology Trends米国の人事209名に聞いた「HRテクノロジー利用実態調査」の結果

複合パッケージか、新しいリクルーティング単一商品か

新しい技術やアイデアによって日々商品やサービスが増え続けているが、人事責任者は実際にはどのような「HRテクノロジー」を利用しているのだろうか。
TrustRadius社が実施した、採用ソフトウェアの評価に関する調査では、大手企業は「SmartSearch」「iCIMS」「ORACLE・Taleo」、中小企業は「Hyrell」「iApplicants」「CATS」の評価が高かった(2015)。

タレントマネジメント関連のサービスにおいてはリクルーティングが中心的だ。これらの基本的な機能は、採用プロセスの業務の割り当てやアラート、求人広告の作成、自社のウェブサイト・ソーシャルメディア・ジョブボードへの掲載、レジュメの管理、候補者の検索、応募者の追跡、身元調査、候補者の評価などの共有、レポーティングなどである。このような基本機能から、パフォーマンス管理、オンボーディング、後継者(候補)の人事管理などへと機能はますます拡張している。上記のような大手のソフトウェア会社は、タレントマネジメントやERP(Enterprise Resources Planning)の複合商品が多い。

一方、リクルーティングに特化した事業者は新しいリクルーティング機能を構築している。近年のリクルーティング手法では、大量のレジュメからキーワード解析する高次のテクノロジーの利用や、消極的な候補者を見つけ関係構築するもの、ソーシャルデータからのソーシングを超えたデータ駆動型のアプローチ、また、ビッグデータ利用の方向性へと向いており、それに合った優れたテクノロジーへの投資が必要となっている。

HRテクノロジーの利用は、良質なタレントを的確に効率よく

リクルートワークス研究所が米国の人事責任者209名を対象に実施した「HRテクノロジーに関する調査2016」は、HRテクノロジーの認知とその利用状況について訊いている。人事責任者がHRテクノロジーを利用する理由をみると「コスト削減」よりも、「良質なタレント」を「的確に効率よく」求めたいという意識が強いようである。

はじめに、人事システムは何を利用しているのかを聞いたところ、最も多かった回答は「IBM Kenexa(38.3%)」。次いで「Oracle Taleo(36.8%)」「Workday(34.0%)」「SAP HCM /Success Factors(30.6%)」という結果であった(図表1)。3割を超えるのは定番とされるサービス事業者が占めているものの、やや分散化の傾向もみられる。

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「HRテクノロジー」の認知度

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次に、このコラムで紹介してきた「HRテクノロジー」ついても同様に訊いた。一つ目は、その領域の商品サービスの存在を知っているのか否か。二つ目は実際に利用した経験があるかである。米国の人事責任者はその領域のプロフェッショナルが多いこともあり、企業向けの24のサービス分野については総じて認知度が高い。認知度の上位5位は9割を超えており、「Social Networks(93.8%)」「Job Boards(92.8%)」「Employer Reviews(90.9%)」「Referral Tools(90.4%)」「Skill Assessment(90.0%)」はほとんどの人事責任者が知っているといってよい。

最も認知度の高い「Social Networks」はFacebookやLinkedInのように社会インフラにもなっているが、近年は人と人とのつながりをリクルーティングサービスにも転用する商品へと変化しており、ソーシングでの利用はもはや常識となっている。さまざまある「HRテクノロジー」もソーシャルネットワークとの接続を利点としたものが多い。次いで認知度の高い「Job Boards」は、MonsterやCareerBuilderのようなメガジョブサイトと専門職に特化したニッチサイトが共存しており、求人を載せる、履歴書データベースの検索も一般的である。「Referral Tools」は日本では馴染みがないが、グローバル企業の採用経路として従業員の友人知人の紹介は、ダイバーシティの観点や、従業員と同じような人材の質の確保という利点からも利用する企業は多い。

HRテクノロジーの利用状況

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「HRテクノロジー」の利用で6割を超えたのは5分野であった。合わせて利用した理由をみると、「Job Boards(67.0%)」では、"良質なタレントが発掘できる" "タレントの発掘がスピーディにできる"ことが挙げられた。「Social Networks(66.0%)」では"タレントの専門性や評価が分かる" "良質なタレントが発掘できる" "広い領域から適切な人材を選別しショートリストが作成できる"という理由が挙げられた。

Recommendation and Reference(65.1%)」では、"応募者の履歴書の真偽を確かめることができる" "信用調査の結果は採用の判断基準としている"という理由であった。日本では応募者の情報をそのまま信用し、候補者の身元照会や信用調査、学歴や職歴の確認、犯罪調査、薬物検査をすることは多くないが、米国では一般的に利用されている。近年はテクノロジー上でソーシャルメディアの書き込みなどから判断するような調査も多くなっているという。

Referral Tools(63.6%)」は"良質なタレントが発掘できる" "ダイバーシティに配慮したソーシングができる" "採用業務が効率化できる"という理由が多い。「Employer Reviews(61.2%)」は、従業員や元従業員などが匿名で給与、福利厚生、マネジメントの質、会社の強み弱み、企業風土、従業員などを評価するものだが、日本よりも詳細かつ広範に行われており、企業側も上手に活用することで、ブランディングへの効果や、採用、従業員のエンゲージに繋がりやすいという。

また、米国では新卒採用は少ないように思われるが、新卒採用に特化した商品サービスのインターンシップやジョブボード、CRMの「College Recruiting(59.8%)」の専門サービスの利用も多く、特記しておく。近年では特に有名大学や特定の学部や学科に所属しているタレント候補発掘のために利用する企業も多いようである。一方、「Freelance Management Systems(45.0%)」のような外部人材の管理や、専門に特化した人材のショートリスト作成など比較的新しいサービスもある「e-Staffing(45.9%)」は、知っている人は有効に活用しているが認知度も利用率もさほど高くなく、これは回答者の業務の違いによるものか、デジタルデバイドの差とみるべきかの判断はできかねる。

「HRテクノロジー」の認知を高めるには

新しいテクノロジーは次々に生まれている。EREやSHRMが開催する人事関連の有識者や専門家向けのコンファランスでは、サービス事業者が常に新商品を紹介し、ビジネス誌や専門誌に商品広告が載っているが、どのような商品があるか全体像をつかむのは非常に難しい。人事専門家に行ったインタビューでも、ウォッチは難しいという。TTLをはじめとする「採用テクノロジーマップ」のような情報整理はいくつかあり、自社にあったものを見つけ出す参考になるだろう。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

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