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プロが語る“HRテクノロジー”

プロが語る“HRテクノロジー”
4人のプロが考案したエコシステム

タレント・アクイジションの「4つのエコシステム」を理解する
The Introduction to The World of TA Technology Ecosystem Mapping

「タレント・アクイジション(以下TA)テクノロジーの全体を把握し、そのエコシステム・マップを作成する作業は、舗装された道路を進んでいるように見えて、実はその道が蟻地獄だったと途中で気がつくようなものだ。運が良ければスピードが落ちる程度ですむが、ともすれば、目標地点のはるかかなたで永遠に罠にはまることもあり得る」。インタビューを行ったジェリー・クリスピン氏(CareerXroads 共同代表)はエコシステム作成の難易度の高さについて、そう語った。

エコシムテムの分類方法をみると、ケステンバーム氏は、利用者(企業・個人)X採用プロセスの2つの軸をもとにテクノロジー・サービス会社の“商品名をマッピングする”という形態で分類している。一方、ラグーナス氏、ティンカップ氏、オーラー氏のエコシステムは、HRの機能、属性を分類しているようだ。

以下、「4つのエコシステム」を紹介する。

1) ケステンバーム氏(TTL)の“エコシステム・マップ”

27種類のサービス分類
ケステンバーム氏(TTL)の考案した“エコシステム・マップ”は、実在する約1,500件のHRテクノロジーをもとに、2つの軸から成るマッピングをしている。横軸は、1)ソーシング(候補者の発掘)、2)エンゲージメント(最適な人材を選ぶ)、3)選考、4)採用(採用の事務的なプロセス)というタレント・アクイジション(人材獲得)の4つのステージを表している。縦軸は、4)求職者寄り(個人)のテクノロジーと、5)企業寄りのテクノロジーを表している(2016年10月に改定)。さらにそこから28種類のサービスへと分類している。エコシステムは随時見直し、3カ月に1度程度で更新されている。

図1 ケステンバーム氏(TTL)の“エコシステム・マップ”

 

図1 ケステンバーム氏の“エコシステム・マップ”※クリックすると拡大

開発のきっかけは利用者の「役に立たない」という声から
「テクノロジー・サービス会社の売り文句を信じて買ったが、なんの役にも立たなかった」これは多くのスタッフィング会社のテクノロジー担当者の声だ。企業のHRやスタッフィング会社の担当者が、星の数ほど存在するサービスの中から、どのテクノロジーが自分の会社の役に立つのかを見極めるのは非常に難しい。この問題を解決する為に“エコシステム・マップ”の開発を始めた。“エコシステム・マップ”を見れば、どのテクノロジーが何に役立つか分かるデザインを心がけている。さまざまな企業が抱えている「TAにまつわる問題をテクノロジーで解決したい」という思いからマップを構築した。

「革新性」と「影響力」
“エコシステム・マップ”の27のカテゴリーの中には、「革新性」と「影響力」を持つテクノロジー会社の商品を厳選してマッピングした。「革新性」とは、同じ分野でサービスを提供する他の企業と比較して、ソリューションに独自性を持っていること。「影響力」とは、投資金額の大きさや顧客件数の多さを定義している。マップ上の27のカテゴリーのサイズも「革新性」と「影響力」の度合いを投影した大きさとなっている。

TTLのオフィスでは、カテゴリーについての議論を重ね、常にホワイトボード上の“エコシステム・マップ”に変更を加えている。2016年時点で、TTLが持つデータベースには1,500件を超えるテクノロジー会社の情報が入っているが、新しいテクノロジー会社を発見する度にこのデータベースに情報を蓄積し、さらに27のカテゴリーに分類している。
“エコシステム・マップ”はどう変化していくのか。開発計画では、投資額や収益額でカテゴリーの円の大きさを表すことや、サービス事業者間の関係性を表す。また、人材管理の分野のエコシステムの開発などを予定している。また、このコンテンツは無料で提供し続ける。

“エコシステム・マップ”の評価
インタビューでは、TTLの“エコシステム・マップ”に関して9名のプロフェッショナルの意見を聞いた。
非常に評価が高かったのは、実在する約1,500のサービス事業者を採用プロセスの3段階に分けて分類し、マッピングしたことで、いままでの中で最も分かりやすいエコシステムの構図となったことである。市場の変化も把握しやすい“エコシステム・マップ”は、ジョシュ・バーシン氏が数年前に作成した人材テクノロジーの枠組みを洗練させたものだが、ビジュアルは視覚的に、また内容も分かりやすく、飛躍的に向上したこと。また、雇用以外の非雇用領域にも着目していること、などが挙げられた。

一方、改良すべき点としては、“エコシステム・マップ”は北米中心のものであること、採用プロセスの3段階は視野が狭く(最新版では4段階に増加)、人員計画などの全体視点が欠けていること、主に外部労働市場をベースとした設計であり、社内移動など内部労働市場の視点がないこと、また、分類方法について1社で複数カテゴリーにまたがる商品を扱っており、会社よりも商品の分類が望ましい、カテゴリー内のサービス内容が多岐にわたるものもあり正確な表現ではない、という意見もあった。HRテクノロジーは常に進化中であり、実際の商品名をマッピングするのは難しく、未完成な状態であることは不可避なことだろう。

2) ラグーナス氏のエコシステム

“リクルートメント・マーケティング分野のみ”に特化
ラグーナス氏の考案したエコシステムは、“TAテクノロジーのリクルートメント・マーケティング分野のみ”に特化している。ジョブボードはマーケティング・チャンネルのため対象にしているが、ビデオ面接やアセスメントツールなどは、この分野に属さないため対象外としている。

目的は、TAリーダーやリクルーターが自分の考えで分類できるように手助けをすることである。TAリーダーやリクルーターが、どんな能力を求めているのか自分で理解し、自分でサーチを行い、「能力」を軸として、求人のセレクション・プロセスがスムーズに行えるようにする。

エコシステムの分類軸は「能力」
ラグーナス氏の分類軸は、各テクノロジー商品の「能力」。つまり、“機能”や“特徴”を軸としている。商品の発信しているセールス・メッセージと、製品紹介の内容を分析し、その後マッピングを行っている。

エコシステムは、“リクルートメント・マーケティング・プラットホーム”と呼ばれ、「タレント人材の発見」「タレント人材の気を引く」「タレント人材のエンゲージメント」の3つのグループに大別される。このグループはさらに3つに分類にされ、その分類の階層の下に該当するテクノロジー会社が分類されている。

図2 ラグーナス氏の“リクルートメント・マーケティング・プラットフォーム”

 

ラグーナス氏のエコシステム※クリックすると拡大

具体的には図2の分類となるが、一つ目のグループは、「タレント人材の発見(Talent Discovery)」で、サーチ及びソーシングなど外向きのマーケティングの領域を指す。さらに人材の発見の手法として、「ソーシング、探索、パイプライン」「率先的リクルーティング」「従業員リファラル管理」の3つに分類される、その下層に、テクノロジーが分類されている。

二つ目のグループは、「タレント人材の気を引く(Talent Attraction)」で、雇用主ブランディング、コンテンツ・マーケティング、ソーシャルメディア・マーケティングなどを使って人材を集めることを指す。さらにブランディングの手法として、「雇用主ブランド創造、増幅、管理」「求人情報マーケティング&配信」「ソーシャルネットワーキング&マーケティング」の3つに分類される。その下層に、ジョブボードなどのテクノロジーが分類されている。

三つ目のグループは、「タレント人材とのエンゲージメント(Talent Engagement)」で、CRM、Talent Communities、Talent Networksなどを指す。「候補者との関係の管理」「人材コミュニティー&取り込み」「候補者の体験の管理」の3つに分類され、その下層にジョブボード、CRMの機能を持ったATSなどのテクノロジーが分類されている。

エコシステムの管理の難しさに挑戦する
ラグーナス氏は、上記の3つのグループそれぞれの下層にさらに16項目が設定されていると説明したが、図2は、代表的なもののみを表示してある。ラグーナス氏は、「これらの項目に分類されているサービス事業者の数は膨大で、さらに動きが激しい市場のため、項目や分類は常時更新している」という。「オリジナルのエコシステムを所有している、データベースを所有している、ということ自体に価値がある」と述べ、エコシステムの管理の難しさとそれに挑戦することの重要さを強調している。

統合能力は不可欠
ラグーナス氏は「統合能力」に注目している。これは、リクルーティング・テクノロジーと、人的資源管理(HCM)テクノロジー全体の将来のためには不可欠と考えている。
「最も良いサービスと見なされるには、エコシステムに入っている様々な製品やサービスにプラグインできなければならない。影響力を最大限に発揮するには、エコシステム内の全てのツールがお互いに接続できるように作られていなければならない」という。

3) ティンカップ氏のエコシスステム

「分類すると、毎日新しい製品が誕生していることが分かる」
ティンカップ氏は、「人的資本管理(HCM)ソフトウエアのマーケットは日々変化しており、エコシステムのマップの作成をとても困難なものにしている」という。ティンカップ氏は、試行錯誤の末、4つのソフトウエアの分類項目に落ち着いた。その4つとは、1)給与計算・人事管理、2)人材戦略・計画、3)ソーシング・リクルーティング、4)人材マネジメント・開発である。さらに、この下層に10項目のソフトウエアタイプを設定した。また、作成を進めるにあたり、「製品名、企業のサイズに関する複雑さ、グローバルvs.ローカル(国内)などをどう考慮し、反映させるべきか」という問題も浮上した。

図3 ティンカップ氏のエコシステム・マップ

 

図3 ティンカップ氏のエコシステム・マップ※クリックすると拡大

さらに、TAにフォーカスしてみると、10項目のソフトウエアタイプは、三番目の「ソーシング・リクルーティング」の下層にある、①候補者アセスメント・試験、②アプリカントトラッキング、③候補者の人材プールと管理(CRM)、④求人サイト、⑤ソーシング・テクノロジー、⑥ビデオ面接、⑦採用オペレーション、⑧従業員リファラル、⑨候補者スクリーニング、⑩非正規労働者管理、である。ティンカップ氏は、混沌とした状況を可能な限り(自分自身にとっても)理解しやすいように、この10項目を設定したという。この分類は、企業が自社の状況に合うソリューションを選ぶ際にも役立つよう配慮されている。

人事担当者はどのテクノロジーを購入すればよいのか
ティンカップ氏は、2016年、ロンドンでワークショップを開いた。参加したHR担当者は200名。「会社で初めてのHR責任者になり、自由に予算を任されたら何を買うか?どう始めるか?」と質問された参加者は困惑したという。通常は、会社にすでに人事関連のソフトウエアがあり、前任者から引き継ぐが、その時点では、なぜその製品が選ばれて使われているか、理由は知らない。ましてやデータ欠陥や、どのようにビッグ・データを利用するか、統合されているシステムはあるのか、などはわからないだろう。

ティンカップ氏は、新たにHR責任者として着任した際に何を始めるか、その決定に役立つモデルを構築しようとしている。「例えば、製品を2つ選ぶ際に、まず会社のイニシアチブは何かと考える。何を成し得なければならないのか。何人採用しなければならないのか。その段階では、計画の継続について考える必要はない。フォーカスすべきはソーシングの方法や、採用の方法、トレーニングの方法、従業員を維持する方法などである」という。

キーワードは“統合性”
HRテクノロジーの製品を一つひとつ理解して選ぶには膨大な時間、費用、労力が必要である。現存するテクノロジーの中では、単体の製品の方が高機能であることが多い。しかし、企業の多くは自社が保有する人事システムとの“統合性”を重視しており、テクノロジー製品を選ぶ際には、自社の人事システムにプラグインできる製品を選ぶという。企業は、最高の製品を使いたい、統合性については問わないという場合のみ、その項目(リクルーティングプロセスにおいて)に最も優れた製品を選び、使用することができる。

ティンカップ氏は「企業の判断基準は、1)各項目において、最も優秀な機能の製品を選ぶか、2)自社のシステムと接続可能な統合性に優れた製品を選ぶのか。現時点は、“統合性”を重視すると、優秀な機能の製品を選ぶことができないことが問題で、HR責任者のジレンマになっている」という。

4) オーラー氏のエコシステム

オーラー氏は2002年に初めてTAテクノロジーの分類に着手し、その後も変化し続けるTAテクノロジー業界の相関図を更新し続けている。
表頭には、リクルーティングプロセス、表側には、リクルーティングに関わる人を軸に置き、テクノロジーをマッピングしている。項目が領域を広げて、他の項目とオーバーラップしているため、一線上に置き、候補者との関係性のタイプに特定して検証しているという。候補者との関係性のタイプとは、ガイダンス段階、見込み段階、応募者段階、採用段階のソリューションである(図4)。

オーラー氏は「この分類法により、さらに多くの異なるタイプの製品を加えてマップを広げていくことが可能になった」という。オーラー氏は2015年のHRテクノロジー・カンファレンスでは、この分類法の主要モデルを発表し、2016年にはさらに3項目を加えたという。

図4 オーラー氏のエコシステム

 

図4 オーラー氏のエコシステム※クリックすると拡大

4つのエコシステムの特徴

インタビューを行ったクリスピン氏は、「マット・チャーニー氏によると、2015年5月時点で、HR関連のテクノロジー商品は14万件。ラグーナス氏とティンカップ氏も数万件はあるという。ケステンバーム氏は、自身のエコシステムでも約1,500社をベースにして分類している」と、エコシステムにおける対象サービスの多さについて語る。

ティンカップ氏は、「サイト運営会社は、エコシステムの枠組みに合うように商品開発をしているのではなく、顧客の要望に合わせて会社の運営方針を決め、それぞれが複数の商品を開発している。結果、状況を複雑化してしまった」とサービス内容が必ずしも分類にそぐわない状況であることに言及している。

クリスピン氏は、「エコシステムの要素には属性がある。ラグーナス氏、ティンカップ氏、オーラー氏のエコシステムは、区分の数が多く、カテゴリーの定義も大きく異なるが、ケステンバーム氏(TTL)のエコシステムは、採用プロセスを軸にして“Source”、“Engage”、“Select”、“Hire”という4つに区分して、さらに28項目のカテゴリーに分類した。インタビューでは、この分類に違和感を覚えるという答えは少なかった」という。一方、ラグーナス氏とティンカップ氏はケステンバーム氏(TTL)の分類について、「他の商品との相性、価格比較、地域性の規模(ローカルか、広い地域か、グローバルか)などを無視した分類法は不十分だ」と指摘している。

また、エコシステムの活用度についてクリスピン氏は、「ケステンバーム氏(TTL)のエコシステムは、最も透明性が高く入手しやすい。オーラー氏のエコシステムは、多くのリクルーティング関係者の役に立ち、他の研究者の参考になる可能性を持つ、最も包括的なアプローチである。私自身は、エコシステムは、候補者、リクルーター、部署のリーダーやバイヤー、そして投資家などの関係者に向けてどうカテゴリー分類しているか、その存在意義が明記されるべきだと考えている。つまり、エコシステムが誰の視点に立って考案されたものか、誰が使うためにデザインされたものかという説明があれば、役に立つと思われる」と分析する。また、「興味深いのは、インタビュー対象者のほとんどが、『近い将来、“ウェブ・ラーニング”“AI”“ウェブ・トレーニング”がすべての分類とカテゴリーに影響を及ぼす』と答えたことである」という。また、リファラルについては顕著に成長すると多くが回答していたが、他のカテゴリーについては意見が分かれたという。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)
鴨志田ひかり(客員研究員)

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2017年05月29日