Column

採用側と候補者側の、意識と行動の乖離

2019年春のソースコンが、シアトルで開催された。テーマは「偉大なソーサーへの道」で、ベテランソーサーが得た教訓や工夫を共有するセッションが目立った。従来のソースコンは、検索スキルの向上や新しいツールの使い方といった技術面に焦点を置くセッションが主体だが、今回はソーサーの心構えや内省を動機づける内容が中心的だった。また、LGBTQの人材採用や南アフリカのソーシング事情など、ダイバーシティに関する講演も複数あった。

タレントコミュニティとSNS:経営者は力を注ぐが候補者の利用率は低い

基調講演では、求人・求職活動において、採用側と候補者側の意識や行動に差があり、スキルギャップだけではない人材採用難の一因を明らかにした。Randstad Sourcerightのジェイソン・ロバーツ氏は、会場のソーサーにその場でオンライン投票を実施しながら、同社の年次調査”Talent Trends”の最新結果と照らし合わせた。

Talent Trendsは、翌年の人事と採用のトレンドを把握するためのグローバル調査で、企業のエグゼクティブまたは人事リーダー(以下経営者)とプロフェッショナル(以下就業者)を対象にオンライン調査を実施している。

経営者、就業者、ソーサーの3者間の意識が大きく異なった項目は、「タレントコミュニティ(※1)」の重要度である。経営者の73%が「具体的なタレントコミュニティを構築している」というが、「タレントコミュニティに参加している」就業者は40%であった。さらに、ソーサーに聞いたリアルタイム投票では、タレントコミュニティ経由で採用に至った割合は、10%以下であったという回答が6割を占めた(内訳は、「1~10%」が4割、「0%」が2割)。採用につながることがほとんどないタレントコミュニティに力を注いでいることで、人材採用が成功しない可能性がある。ただし、関係構築には時間がかかるため、この結果は注意して見る必要がある。また、採用率は低くても、定着率が高い、有能な従業員になる確率が高いといったプラスの効果があれば、タレントコミュニティに投資する価値があると経営者は考えているかもしれない。

採用・求職活動でのSNS利用にも、経営者と就業者で大きな開きがあった。経営者の8割が採用戦略でFacebookとTwitterを重視する一方、求職活動でこの2つを利用する就業者は2割弱(※2)。積極的な求職者へ求人情報を届ける手段としては、非常に非効率的であることがわかる。

ソーサーはAIの進歩を恐れていない

「採用業界でワクワクしていることは」に対する
ソーサーの自由記述回答

加えて、ソーサーと経営者、就業者の間で隔たりが大きかったのは、「採用活動にテクノロジーを利用すると、人間らしさが失われるか」という設問に対する回答である。経営者の62%、就業者の53%が「人間らしさが失われる」と半数以上に対して、ソーサーは24%であった。

ソーサーは、自身はテクノロジーを利用しながら、人間らしいきめ細かな対応をしていると自負しているのかもしれない。それを裏付けるのが「AIや自動化によって、仕事を失う不安があるか」(経営者への質問は「AIや自動化によって、多くの人が仕事を失うと思うか」)に対する回答である。経営者の64%が「懸念している」、また就業者の44%が「不安がある」と回答しているのに対し、「不安がある」と回答したソーサーは9%のみであった。

講演ではこの2問への回答に対する考察はなかったが、ロバーツ氏のコメントや、Randstadのグレン・キャシー氏による「世界レベルのソーサーになるには」といったセッションから、ソーサーがテクノロジーを脅威とみなしていない理由を推測できる。ロバーツ氏の見解では、テクノロジーはより人間味のある採用活動にしてくれる。例えば、テクノロジーを利用すれば、大量の応募があっても短時間ですべてを審査できる。しかし、職務記述書の作成を完全自動化にすると質が著しく低下するうえ、求職者がボットに伝えることに抵抗がある内容もあるので、人間の介在も必要だという。

さらにロバーツ氏は、人間とテクノロジーの関係を飛行機の“オートパイロット”にたとえた。離陸と着陸は操縦士が行うが、飛行中は機械に任せ、トラブルが起きた場合にのみ操縦士が対応する。同氏は、人間が表と裏側に立ち、その間でテクノロジーを利用するオートパイロット形式が最適と考える。実際、人材サービス業界でこれに相応する新しい職業“Talent Qualifier”が現れた。機械が多数の候補者を求人とマッチングし、ボットが一次審査を行う。その結果は完璧ではないため、人間(Talent Qualifier)が機械による選考を通過した候補者が適任かどうかを審査する。ソーサーとリクルーターの間に位置する、コーディネーターよりも進歩した仕事であるという。

重要なのはテクノロジーではなく向上心と批判的思考力

ランスタッド グレン・キャシー氏

「偉大なソーサー」の一人、グレン・キャシー氏は検索クエリ作成のプロだが、「世界クラスのソーサーになるには、テクノロジーでもデータソースでもなく、批判的思考力と向上心が欠かせない」と熱弁した。

30年前、キャシー氏は電話帳とローロデックス(回転式名刺ホルダー)でソーシングをしていたが、現在は最新テクノロジーツールを駆使している。つまり、最新鋭のテクノロジーを使おうが使うまいが、データベースを複数使うか1つのみであろうが、日々向上に努めて自問自答を繰り返すことが最も重要なのである。「結果ではなく、そこまでのプロセスを重視すべき」「どのソーサーも、アクセスできるデータは同じ。競合が見つけられない人材を、創意工夫すれば必ず発見できる」という。そして、「自分が転職を考えていないときに、どのような連絡を受ければ返信するかをよく考えたうえで接触すべき」と語った。

ロバーツ氏やキャシー氏のように進化を続ける「偉大なソーサー」がいることで、ソーサーの多くがこの仕事は機械に置き換えられるものではない、と自信を持っているのだろうか。今回の投票結果は偶発的なものなのか、検証が必要である。

離職率という経営課題にも取り組むことで、ソーサーの価値は高まる

ソーサーが発掘し、自社に応募するよう説得した人材を、最終的に採用するか判断するのは採用部署のマネジャーである。その人材が定着せずに離職しても、ソーサーの多くは「自分の力が及ぶ範囲ではなく、自分の問題ではない」と考える。ロバーツ氏は「従業員の離職率の高さは会社全体の問題であり、経営陣が取り組んでいる問題に対して自分は関係ないという態度は、昇進の機会を放棄しているようなものだ」と話した。「自分も情報やデータを提供し、事業課題解決の一助になれるかもしれない、という姿勢を見せるべきだ」という。

ソーサーたちは仕事に誇りを持ち、楽しんでいる印象があるが、採用の決定権がないため成果を数字で表しにくい。ソーサーのスキルやコミットメントに気づいている経営者や従業員は少ない。採用側と候補者側の間に立つソーサーが両者の意識と行動のズレ解消に努め、採用活動がより効果的になれば、社内でもソーサーの価値がより高まるのではないだろうか。

 

※1 タレントコミュニティとは、会社と何らかの形でつながっている潜在的候補者の集合体。最終選考まで残ったが採用に至らなかった「銀メダリスト」、会社のメールマガジン購読者、会社のSNSの閲覧者、掲示板のディスカッションフォーラム参加者などを含む。
※2 The 2018 Talent Board North American Candidate Experience (CandE) Benchmark Research Report

2019年04月26日