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採用成功率の高いソーシングチームを新設~ディズニー、レッドハット~

採用成功率の高いソーシングチームを新設
~ディズニー、レッドハット~

新たにソーシング機能を立ち上げるとしたら。そんな会社のために、レッドハットとウォルト・ディズニー・カンパニー(以下ディズニー)の例が参考になるかもしれない。両社とも、ソーシングチームを投入することで効率的に採用ができるようになった。企業によっては、ソーシングは元々リクルーターの業務の一部だが、求人への応募をさばくことに精いっぱいで、適する人材を能動的に発掘する時間を割けない場合もある。そこで、ソーシング業務を切り分けて別部門を立ち上げたレッドハットの道のりはわかりやすく興味深かった。ディズニーは、以前からリサーチアソシエイトという肩書きでソーシングをしていたが、全社レベルでの最適化への取り組みとして再編成し、効果が見えやすくなったようだ。

レッドハット
会社の急成長で疲弊する採用チームに、候補者への近道を提供

レッドハットは、35カ国でエンタープライズITソリューションをオープンソースで提供する大手企業。求人案件はエンジニア、営業、サービス職で見つけにくいスキルを必要とする。そのうえ、競合はグーグル、ツイッターなどリソースが豊富な多国籍大企業。近年同社はグローバル規模で急成長しており、各部署からの採用要請が大量に発生していた。現在の従業員数は1万1000名。

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グローバルタレントアクイジション(Global Talent Acquisition、人材獲得、以下TA)チームの業務量が多く、リクルーターの負荷を軽くするために試験運用としてリサーチチームを構築することになった。ここで言うリサーチとは、人材サーチのこと。市場の状況を他社の求人情報や競合他社の組織図、大学の発行物などから把握し(市場サーチ)、SNSや大学のデータベース、コンファレンス出席者リストなどで適した候補者を特定して(候補者サーチ)、TAチームへ引き継ぐ(図表1)。リサーチメンバーを世界各地域に置くと管理が難しいため、全4名を1カ所(プラハ)に集中させた。

TAチームに提供することにしたサービス

  • 候補者の供給ルート構築
  • 候補者の連絡先取得・確認(リンクトインへのメッセージは無視されがち。ほかの連絡先はないか?)
  • リサーチ(特定の候補者、コミュニティ、大学に関する深い調査)
  • 採用要請の管理(応募者振るい落としのサポート)
  • (イベント後など)候補者情報の一括アップロード

1年間の試験運用の結果

  • リサーチチームはTAチームからの依頼をチケット制で受け付けたことで、業務量を透明化し、優先順位を付けてバランスよく配分できた
  • 新規採用したリサーチャーの業務開始前に採用研修と商品研修を実施したことで、会社の商品や社内事情に精通した非常に効果的なチームとなり、アウトソースした外部業者からの候補者リストと比較しても、より的確なものになった
  • 依頼の大多数は供給ルートの構築(68%)で、採用要請管理(14%)、連絡先の取得・確認(8%)と続いた
  • 今回提供しなかったサービスで最も需要が高いのは、「多様な人材の発掘」だった。求人への応募者のみでは多様性をコントロールできないためだろう

また、業界で強いブランド力を持つ会社なので、従業員リファラルを通した応募が多く、その多くが求人要件を満たさない。それでも、TAチームは応募者を丁重に扱わなければならないため、疲弊していた。リサーチチームがこの業務を引き継ぎ、応募者体験を犠牲にせずに効率的に振るい落としていくことができたという。今後はチケット制で依頼に応えるよりも、供給ルートをリサーチチームが所有し、先回りして動きたいそうだ。

ディズニー
特定の求人や職務ではなく、人材に焦点を当てたタレントコミュニティを形成

ディズニーのクリスティ・ウォウロ氏(エンタープライズTA&人材ソーシングディレクター)は、全社レベルでの最適化プロジェクトが始まった2012年から現在までの過程を振り返りながら、成功要因や財政モデル、学んだ教訓などを共有した。

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2012年、TA部門では新卒採用、採用マーケティング、TAアナリティクス、ソーシング、技術者採用、そのほかの特定の職種のリクルーティングといった領域を含めた研究拠点の計画を立案し始めた。翌年、ソーシング研究拠点を創設し、ソースコン講演者でもあるマーク・トートリチ氏(Transform Talent Acquisition創設者)による専門研修を受け、試験と調整を繰り返した。組織計画の見直し、役割の再編成を経て新しい「タレントコミュニティ(※1)」の方針とモデルを作成・展開し、人材市場に関する見識とエグゼクティブサーチに関する専門知識を築き上げた。

リクルーティングチームに提供したサービス

  • ソーシング研修
  • 競合他社の情報
  • タレントコミュニティ&パイプライン(※2
  • 採用要請サポート

上記のサービスを、6週間を1つの期間とし、ソーサー1人につき7件の採用要請を担当することを目標とした。海外を含め、グループ会社全体のソーシングを引き受けている。立ち上げ時は5人、現在はパートタイム勤務を含めてソーサーが35人いる。レッドハットと同様にチームを1カ所に集約しており、ニーズの増加や減少に対応しやすくしている。

成功要因の1つは、会社全体の方針と一体化する文化をソーシング部門内で形成したことだという。リクルーターと違って、ソーサーは採用マネジャーの決断に影響を与えないため、評価は採用決定数で測らず、面接へ進んだ人数やオファーを出した人数(辞退の数も含む)といったもので測っている。

レッドハットとディズニーの違い

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レッドハットとディズニーの決定的な違いは、レッドハットでは人材に直接接触せず(したがって職務名はリサーチャー)、ディズニーでは人材にコンタクトを取って候補者に変える(したがって職務名はソーサー)ところである。ゴールデン氏はリサーチャーとソーサー(リクルーター)の違いを簡潔な表で説明していた(右図)。

ただ、2社で生じた同じ課題が、「ソーサーはリクルーターにサービスを提供する立場」という概念から、上下関係ができがちで、時にはリクルーターの雑用を押し付けられることもあったということだった。両社ともに、ソーシングチームは高度なスキルを提供する特権サービスであり、リクルーターと対等な関係だと根気強く啓発する必要があったという。

リサーチャー、ソーサー、リクルーターの定義は業界内で未だ議論が続いており、明確な境界線はない。だが、個々の会社レベルでは役割が分かれている。引き続き、ソーサーの進化を追っていきたい。

(※1)タレントコミュニティとは、特定の会社に勤務し、ディズニーが求める経歴を持つ個人、あるいは特定の職種・業種のソートリーダーから成るグループ。市場トレンドや報酬、地理、このタレントコミュニティの意欲を引き出す要因となるものなどについて、貴重な見識を提供する。会社や事業に長期的な変化をもたらす、一流の人材と関係を構築できるようになる。
(※2)パイプラインとは、タレントコミュニティの中でもディズニーでの仕事に適している可能性があり、新しい求人に興味があり、転職できる状態の人材。生産的なタレントコミュニティには、すぐに採用できるパイプラインがある。