世界の最新雇用トレンドギグエコノミー・コンファレンス2018参加報告

ギグエコノミーの潮流

コンファレンス会場

スタッフィング・インダストリー・アナリスト(Staffing Industry Analysts、以下SIA)が主催する第3回ギグエコノミー・コンファレンスが、2018年10月4日から2日にわたってテキサス州ダラスにて開催された。

コンファレンスの中心は、複数のテーマに沿ったパネルディスカッションで、それらに加えて、新規事業者がセールスポイントをアピールしてシャークと呼ばれる判定者と観客で勝者を決める「シャークタンク」をまねたコンペティションや、32項目の細かなテーマに分かれてのグループディスカッションなど、約800名の参加者が自分の関心に応じて柔軟に参加できるものになっていた。また、同時開催の展示場には31社がブースを設けていた。

ギグエコノミーにおけるコラボレーション

オープニングの基調講演では、SIA社長のバリー・エーシン氏がスピーチした。エーシン社長は、タレント調達方法といえば昔は新聞などへの「正社員募集」の求人広告掲載が主流だったのが、やがて派遣会社をはじめとするスタッフィング会社の利用が一般的になり、現在ではオンラインプラットフォームの出現によりヒューマンクラウドの活用が拡大しているという流れを紹介した。

SIAはギグエコノミーをコンティンジェント労働と同義ととらえ、ギグエコノミーには派遣労働者、個人事業主、直接雇用の臨時労働者、ヒューマンクラウド、SOWコンサルタント(※) が含まれると考える。

展示場の模様

また、ギグエコノミーの経済規模は8,600億ドルに達し、ギグエコノミーに従事する人の数は4,800万人に上り、全労働人口の31%を占めるという(SIA が見積もった2017年時点の数値)。

ギグエコノミーの中で最も多いのは、2,270万人を占める個人事業主で、次に多いのが1,350万人のヒューマンクラウドだ。ヒューマンクラウドとは、オンラインプラットフォームテクノロジーを利用して仕事を探すタレントの総称。具体的には特定のワーカーがプラットフォームと短期の労働関係を結ぶ形態のオンラインスタッフィング(Upworkなど)、不特定のワーカーがマイクロタスクやコンテンツに従事するクラウドソーシング(Amazon Mechanical Turkなど)、特定・不特定のワーカーとサービス要素が合体した形態のオンラインサービス(Uberなど)に分類される。ヒューマンクラウドの中には別にフルタイムの仕事を持ち、副業としてオンラインプラットフォームテクノロジーを利用した仕事をしている人も多いが、この数字は今後も伸びると考えられる。

ヒューマンクラウドを活用しようと、オンラインプラットフォームテクノロジーが従来のスタッフィング会社のような機能を取り入れる一方で、スタッフィング会社もオンラインプラットフォームテクノロジーに歩み寄り、両者の事業領域は近似してきている。

テーマ別パネルディスカッション

パネルディスカッションは1日目と2日目にそれぞれ3つのテーマが設けられ、各テーマに沿ってそれぞれ3回の同時セッションが行われた(合計18種類のセッション)。1日目のテーマは、「混乱するテクノロジー」「新しい労働形態」「法務・規則」、2日目のテーマは、「スタッフィングサプライヤー」「企業バイヤー」「ギグエコノミー・ヒューマンクラウド」だった。

筆者が参加した「新しい労働形態」「スタッフィングサプライヤー」「ギグエコノミー・ヒューマンクラウド」をテーマとする各セッションでは、リクルーティングにおける人工知能の利用が拡大していることを事実として挙げつつ、人間同士の対話やつながりがより一層重要になってくることを強調するパネルが多かった。

興味をひかれたのは初日の「法務・規則」のテーマに沿って行われた「法律を21世紀に対応させる:ギグエコノミーを成長させる政策アジェンダの構築」というセッションだ。

アメリカの現行法制がコンティンジェント労働に対応していないというのはよく聞く話だが、パネラーの1人である世界雇用連合(World Employment Confederation)のマネージング・ディレクターであるデニス・ペネル氏が、フランスの職業訓練個人口座やイギリスの労働者と個人事業主の中間に位置する「就労者」枠の例を挙げて、これらをアメリカにも創設してはどうかという提案をしていた。アメリカ人パネラーは、コンティンジェント労働への法制面の対応は民主党の反対が強く、現実には非常に厳しいと言っていたが、ギグエコノミーに従事する人(コンティンジェント労働者)が4,800万人もいるならば、民主党も重い腰を上げて法改正を含む対応策を考えていかなければならないはずだ。しかし、連邦労働省労働統計局が2018年の6月に発表した数値では、2017年のコンティンジェント労働者の総数は590万人であり、SIAが出している数値との間に大きな差がある。果たして、実態はどちらに近いのか。それが把握できない限り、コンティンジェント労働のための法改正は現実味を帯びないのではないだろうか。

ギグエコノミー版シャークタンク

ギグエコノミー版シャークタンクの模様

アメリカで人気のテレビ番組に、「シャークタンク」というものがある。シャークと称される数名程の判定者の前で、起業家が自社商品を売り込み、投資を募るのだ。うまくいくと起業家はシャークから多額の投資を受けることができ、その代わりに売上の数パーセントのリベートなどを支払う。このあたりの、起業家とシャークの駆け引きがおもしろい。昔、日本でやっていたテレビ番組の「マネーの虎」に似ている。

今回のコンファレンスでは、この「シャークタンク」をまねたコンペティションが行われた。5社の新規事業の代表がセールスポイントを5分間で発表し、どこが最も優れているかをシャークと観客で決めるというものだ。どの会社もオンラインプラットフォームテクノロジーのセールスポイントだったことに加え、わずか5分の発表で相違点を見極めるのは難しいと感じたが、観客は高学歴・高スキルの母親をタレントとして擁する The Mom Project を最も優れた事業に選び、シャークは2016年創業の人工知能リクルーター、AllyOを選んだ。

2日間のコンファレンスを終えて

今回のギグエコノミー・コンファレンスは、基調講演以外は複数同時開催のパネルディスカッションが中心だった。各セッションでは、スタッフィング会社やオンラインプラットフォームテクノロジーに所属する代表らが3名から4名壇上に上がっていたが、自社事業のアピールが多く、テーマに関する議論が深く進むことはほとんどなかった。セッションが45分という限られた時間で行われたせいもあっただろうが、普段聞けないような業界特有の事情や目新しい情報に多く触れられたなら、会場の満足度は一層上がったのではないだろうか。参加者数は800名と聞いたが、2日目のセッション参加者は初日の半数ほどだったように見えた。次回以降のコンファレンスでは、より一層充実した内容のセッションが準備されていることを期待したい。

Keiko Kayla Oka(客員研究員)

※ SOW とはStatement of Work の略で、明確な契約に基づいて短期のプロジェクトベースで専門サービスを提供するコンサルタントのこと。