世界の最新雇用トレンドSIAエグゼクティブフォーラム2018参加報告(1)

テクノロジーが変えるスタッフィング会社のビジネスモデル

近年、スタッフィング業界は複雑さを増し、単純労働者を一時的に派遣するという従来の形式から専門職者の派遣、そしてオンラインでの人材仲介へと領域を広げている。

2018年のSIAエグゼクティブフォーラムは、ギグエコノミー、スタッフィング業界でのブロックチェーン応用法、スタッフィング企業のデジタル変革やロボットが人材ポートフォリオの一部になる可能性など、テクノロジーがもたらす破壊的な変化について触れるセッションが目立った。

ギグエコノミー≠オンラインサービス

SIAの定義では、ギグエコノミーは一時的な就労のすべてを含み、いわゆる「非正規雇用」として、スタッフィング事業もギグエコノミーの一部に入る。同社の推測によると、世界のギグエコノミーの市場規模は3.5兆ドル。ほぼすべての業界でみられるが、特に石油・ガス、通信、小売業などが従来とは異なる働き方を採用している。市場の内訳では、大部分をインディペンデントコントラクターが占めている(図1、2兆390億ドル、58%)。一方、一般的にはギグエコノミーの大部分を占めると思われている、オンラインプラットフォームで労働者を得るヒューマンクラウドは470億ドル(1%)である。

会社の成功に不可欠な不変の規律

米国のスタッフィング会社の85%は収益が500万ドル以下で、1億ドル以上の収益を上げる会社は1%にあたる140社しかない。500万ドルの壁を超えた会社はどこが違うのか?SIA社長のバリー・エーシン氏は、良い「外部環境(経済)」と「不変の規律」、2つの組み合わせだと説く。前者は自身でコントロールできないが、後者はリーダーがコントロールできる。

「外部環境」でいえば、経済は上向いている。GDP成長率は上昇し、新しい雇用が生み出され、失業率が下降している。インフレの兆候も出ているうえ、スキル不足である。スタッフィング会社の事業成長を阻んでいる最大の要因は、スキル不足からくる採用難である。2015年以降、求人数が採用数を上回り続けている。この傾向は、高度なスキルに限らずあらゆるスキルで見られる。

不変の規律は5つある(図2)。

  • コミットメント…個人的な犠牲を払って事業に必要なリスクを冒すコミットメント
  • 方向性…計画的に物事を進め、自社を差別化する戦略を見つけ、的確な判断をする
  • 文化…偶発的に文化が構築されるのではなく、意図的に作る。リーダーが言葉ではなく行動で示す
  • 人材育成…次世代のリーダーを育てなければ、会社は大きな成長を遂げない
  • 実行…ベストプラクティスがあるのならば、チームがそれを確実に繰り返すようにすること。革新が起こればそれを再現すること

スタッフィング会社が成功するための6原則

「変化が著しい現代の社会でスタッフィング会社が今後成功するためには、不変の規律を踏まえた6原則がある」とエーシン氏は唱えた。

  1. 不変の規律
  2. 事業環境と法的環境による支え
  3. 顧客企業の課題予測
    スタッフィング業は顧客企業あってのビジネス。顧客よりも先に課題に気づき、解決する
  4. 明確なビジョンのある解決策
    従来の「人/時間モデル」は引き続き存在するだろうが、一括販売のソリューションが増えてくるだろう。また、トータルタレントアクイジション(またはマネジメント)も見られるようになる。そして、最も重要なのが「人とテクノロジー」だ。新しいツールを導入すればそれを使いこなすまで、サポートする人が必要になる
  5. テクノロジーを好きになる
    最近注目を浴びているAIはスタッフィング業界に大きな影響を及ぼし、ソーシング、スクリーニング、マッチング、最適な意思決定や採用後の成績予測といった領域をはるかに効率的にするだろう
  6. 「破壊しなければ破壊される」という考え方
    Accenture、IBM、Microsoft、Google、Ikeaなど、業界外の大手企業がこの業界に興味を示すことで、既存のスタッフィング会社に良いプレッシャーをかけている。例えば、Ikeaは昨年TaskRabbit(※1)を買収した。Ikeaで家具を購入した客は、家具を組み立ててくれる人をTaskRabbitで探せる。自社の商品に関連する労働サービスを提供するという、素晴らしいアイディアだ。新規参入者である「破壊者」は業界を異なる角度から見た。スタッフィング業界はどの角度から見るか?「支社とリクルーターの集まり」なのか、「人と仕事をつなげる存在」なのか?

図3はオンラインプラットフォームのサービスをSIAがまとめたものである。エーシン氏は「従来のスタッフィング会社とオンラインマーケットプレイスが互いに合流し、ハイブリッドなサービスを提供するようになる」と予想する。図4にあるように、買収や新サービスの提供によって既にそれが発生している。

HRが熱視線を注ぐブロックチェーンの可能性

HRでも大きな注目を浴びているテクノロジーの1つがブロックチェーン。SIAは、「ブロックチェーンは分散型取引台帳テクノロジーで、管理機関が仲介せずにユーザー同士が情報の真正を証明したり、所有権を定めたり、資産を譲渡したり、契約を締結できる技術」と説明する(※2)。情報の変更や削除がほぼ不可能なため、信頼性が高いとされている。

人材サービス業界でブロックチェーンを活用する方法は、3つの分野に区別できる。

  • 証明
    CVには誤った情報や誇大な表現が含まれている場合がある。ブロックチェーン上で、CVに記載してある経歴が真実だという大学や前雇用主からの認証があれば、企業は採用選考の際に候補者の経歴を信用できる。また、スタッフィング会社は、候補者の能力査定テストの結果をブロックチェーンに載せることで、記録の信憑性を証明できる。一人の候補者について、スタッフィング会社が各々情報を登録する必要が無くなり、無駄が解消される。
  • 給与計算
    Etch」という新しいサービスがある。人々の給与を秒刻みで計算する。労働者はEtchのクレジットカードを持ち、その口座に給与が振り込まれる。カードは全てのATMで使用可能で、仲介者が存在しないため手数料が発生しない。
  • 人材獲得
    SIAでは8つのサービスを把握している。全部に共通しているのは、サービス料金をチャージしないということだ。例えば、「Ethlance」はフリーランサーにオンライン上で業務委託をするためのマーケットプレイスで、完全にブロックチェーン上に構築されている。フリーランサーにも雇用主にも無料のサービス。求人情報検索、申し込み、フィードバックの書き込みなどフリーランサーが期待する基本的なサービスはすべて備えている。難点は、報酬が仮想通貨のEtherコインで支払われることである。また、アカウント作成やプロフィール編集にはEtherコインを支払わなければならない。

これらの会社は革命的なビジネスモデルではあるが、多くは成功しないとエーシン氏は読む。デマンドに迅速に対応できない大多数の新規ビジネスが、失敗して消えて行く期間が続くと予測される。

2030年の予測

SIAは12年後のスタッフィング業界をあらゆる角度から予測した。そのうち主なポイントは次のとおりである。

  • 米国のスタッフィング市場がこのまま6.5%の成長を続ければ、2030年には3,000億ドル市場に成長する
  • 2018年に3大グローバルスタッフィング会社と呼ばれた会社は、買収や合併により、2030年には3大グローバルスタッフィング会社ではなくなっている
  • スタッフィングとオンラインスタッフィングは区別しにくくなっている
  • トータルタレントマネジメントは主流になり、大規模な組織が組み込んでいく
  • スキル不足が悪化するが、スタッフィング会社の多くは請求額を増額できない。しかし新テクノロジーを駆使して効率化とコスト削減を果たす

※1 TaskRabbitは、引っ越し作業やテレビの設置、掃除など家庭で発生する雑用を片付けてくれる地域の便利屋をオンラインで探すためのプラットフォーム
※2 定義と概念についての詳細は、経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)」を参照のこと。

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