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EYの仕事の未来を変えるチャットボット「ゴールディ」が秘める可能性

HRテックワールドは欧州発のHRテクノロジーイベントで、2011年からアムステルダム、ロンドン、パリなどで開催されている。このイベントは、HRテクノロジー業者やHR業界のソートリーダーたちが、従業員に権限を与えて業務の効率化を可能にする最新の革新的なツールや戦略をお披露目する場であり、出席者はそれによって“仕事の未来”を垣間見るとともにネットワーキングができるとして評判が高い。年を追うごとに出席者数が増加し、2017年には開催地に米国を追加、さらに名称を「Unleash」と変更してブランド強化を図っている。

12のステージに振り分けられた150超のセッションは、アリアナ・ハフィントンのような著名人を招いた基調講演から小部屋で15分という短時間のものまで、規模も所要時間も異なった。セッション内容は、ブロックチェーンや自律テクノロジー、ピープルアナリティクスといった話題の最先端技術を紹介するなど、HRでもこれらに対する理解と枠組み作りが急務だとされている。

 

EYではボットを導入して入社者が早期戦力化

特にチャットボット(以下ボット)は使い方や価値がわかりやすいせいか、企業での導入が始まりHRテクノロジーの未来を担う可能性があるとして注目されている。会計事務所のアーンスト・アンド・ヤング(Ernst and Young、以下EY)では、まず入社者に付けるバディボットを試験的に導入し、その後全社レベルでアシスタントボットを取り入れた。従業員からの質問、たとえば社内の連絡先や社内手続きなどについて回答する。EYでは、世界にいる従業員約25万人のワークフローをHRテクノロジーで改善しようと努めている。同社のグローバルHRシステム商品サポート運営リーダー、スティーブ・ギル氏とグローバルHRシステム部長、アントニー・シールズ氏が、SAPとIBMと協働で開発したこれら2つのAIを紹介した。

バディボットに質問を入力するギル氏(左)とシールズ氏

新入社員には、人間のバディの補完としてボットのバディも付く。IBMワトソンの認識ソリューションをベースにしており、オンボーディング(入社プロセス)を助ける。講演者の2人は、ステージ上でバディボットのデモを披露した。

たとえば、キーボードで「まず何から始めればいい?」と入力すると、バディボットはそれに直接的な回答をするだけでなく、EY会長のウェルカムメッセージ動画を再生するといった、豊富なコンテンツを提供する。ほかにも、たとえばPCに問題がある場合に社内の誰に連絡すべきか、担当者の顔写真、連絡先、デスクの場所などをバディボットから教えてもらえる。バディボットを取り入れることで入社初日から珍しい体験を提供でき、さらにコストと時間の節約となる。入社者はより早くオンボーディングを終えて顧客の業務に取り掛かれるようになり、効果が高かったそうだ。


ボットが社内でのHRブランド向上に一役買う

バディボットは米国内で試験的に運用したものだが、その成功を受けてグローバル規模でバーチャルアシスタントを導入した。SAPサクセスファクターのパフォーマンスモジュールを採用し、ゴールディと名付けた。ゴールディは、導入後28日で従業員からの質問約64万3000件に答えた。1日当たり約2万件の計算になり、わずか7日間で採算が合ったという。従業員自身が回答に直接辿り着き、日々の業務をスムーズに遂行できるようになり、AIを活用することで仕事の進め方が変わった。

これらのボットは従業員の利用率とエンゲージメントが非常に高いそうだ。このAI開発に協力したシェアードセンターの職員たちも、シンプルな質問をAIに任せ、自分は付加価値の高い業務に集中できるという利点に気づき、またボットを利用することが楽しいとも気づいた。社内外からデモを要望する声が相次いでおり、HRのブランドが向上したとギル氏とシールズ氏は実感している。「従業員や消費者は、ツールを提供されればそれを使う。HRはAIをどう利用するかを議論し続けるのではなく、行動に移すべき」と両氏は自信を見せた。

企業ではソフトウェアやデータのクラウド移行が進んでいるが、ボットがあればクラウドも必要ないのではないかという意見が出てきている。両氏は、それは消費者やユーザーが決めることであり、ボットはクラウドと共存していく、ユーザーにとっての選択肢の1つだと考えている。

EYでは今後、AR(拡張現実)とAIを組み合わせ、ARのバディが入社初日にEYのオフィスを案内する内容を構想している。また、オンボーディング、成果管理など領域別ではなく、人材に関するすべてに対応できる、単一窓口になれるボットを作ることが次の課題だという。


ボットはセキュリティリスクか、セキュリティ強化か

ボットは安全なのだろうか?現時点では、セキュリティを懸念する声がある。ボットがウィルスをまき散らすとか、ボットをハッキングして誰かになりすますケースが出る可能性は十分にある。誰かがボットをハッキングすれば、他の従業員の休暇を勝手に申請したり、ハッカー自身の給与を上げてしまえるかもしれない。

別のセッションで、ボットはセキュリティリスクか強化になり得るかが議論された。シールズ氏を含む有識者のパネリスト4名は、それは次第に解決される課題だと考える。10年前はオンラインショッピングへの抵抗が大きかったが、今はセキュリティ手順が構築され、広く受け入れられているのと同じだということだ。重要なのは、ボットを訓練する人と訓練に利用するデータである。専門家が適切なデータで訓練すれば、むしろセキュリティ強化に役立つかもしれないと述べた人もいた。今後、企業でのボット導入例は飛躍的に増加していくだろう。HR領域だけでも、さまざまな側面で活用できる可能性を秘めている。

 

2018年02月15日