Column

ジョシュ・バーシン氏が唱える、
第四次産業革命で飛躍するHRテクノロジー

「第四次産業革命のさなか、従業員の生産性もエンゲージメントも高まっていない。これからHRテクノロジーで破壊的な変化が起こるとすれば、チームでの生産性向上を促進する、チームマネジメントの領域だろう。」ジョシュ・バーシン氏(Bersin by Deloitte創設者兼社長)は、人的資源に関する深い知見により、HR業界の注目を集める人物だ。同氏がHR領域を俯瞰的に見て分析し、今後のHRテクノロジートレンドを予測した。

 

生産性を上げるには、仕事の進め方に沿ったHRテクノロジーと組織構造が必要

モバイル機器の普及で働く時間にも場所にも制約が無くなり、労働者は家でも夜中でもモバイルで働いている。イマドキの言葉で言えばFOMO状態だ(Fear Of Missing Out、自分だけが情報を知らずに取り残されるのではないかという恐怖心)。この会議に出席すべきか、このメールに返信すべきか、この電話会議は……とどれに優先的に時間を割くべきかに頭を使うのは、生産的でない。

データによると、米国の労働者は20年前の方が現在よりも1週間長い休暇を取っていた。また、過去8年間、エンゲージメントのレベルは横ばいか下がっている。HRテクノロジーは飛躍的に進化したが、仕事の進め方を考慮して設計されていないからだ。

あわせて、会社の階層型組織も実際の業務遂行を反映していない。MITと共に実施した調査でも、CEOの82%は「適切な組織構造になっていない」と認識しており、70~75%が「適材適所ができていない」と感じていた。総じて、仕事は小さなチームで進めていく。オランダのIMG銀行は組織図を排除し、現に機能しているチーム別(squads)に組織を編成し直した。また、良い仕事をするためにはチームが同じ空間にいなければならない。IBMやアップルは、リモートワークから従業員をオフィスへ戻している。

2018年からは、チーム単位で生産性を高めるソフトウェアが成長する

上記を踏まえて、バーシン氏は最新レポート「HR Technology Disruptions for 2018」を参照しながら、これまでのHRテクノロジー市場と今後のトレンド予測10項目を紹介した。ここでは、その中から数項目を取り上げる。

まず、HRソフトウェア市場は図表1のように進化してきた。15年前まで中核的だったHRソフトウェアは、業務をオートメーション化する「System of Record(社内の基幹系システム)」だった。それが「System of Engagement(ユーザーと企業をつなぐシステム)」へ移行し、労働者の採用前から退職までを総合的に管理するソフトウェアができた。しかし、最近は人材の流動性が増し、プロセスを総合的に管理するシステムはもう必要ない。今必要なのは、「System of Productivity」。つまり、生産性を高めるシステムだと同氏は考える。チームの構築と協働をファシリテートし、目標を共有し、優先事項とそうでないものを見分ける手助けをするものだ。

 

従業員に社会参加を促すリーダーシップが求められている

マネジメントのスタイルも変化している。図表2は、バーシン氏がさまざまな企業を訪問しながらアップデートを重ねているもの。これからは、最下列にあるように社会参加の時代になるという。従業員を保護し、権限を委譲し、個人の成長をサポートするリーダーシップが求められている。

マネジメントスタイルの変化にともない、フィードバックやパフォーマンスマネジメント、オンライン継続教育、バーチャルチーム管理といった領域のアプリケーションが出現した。最近では、SlackやFacebook Workplaceといったツールの誕生で、従業員同士のコミュニケーションの取り方が完全に変わった。この新しい労働環境を支え、日常的に使用しているメールなどのツールと統合できるHRテクノロジーが必要だ。

 

人事考課を止めて、定期的にフィードバックを与え合うと業績が上がる

バーシン氏はパフォーマンスマネジメントの領域でも、チーム単位での管理を強調していた。チームメンバーが互いに目標を共有し、フィードバックを与え、進捗を確認し、HRが組織内の人脈を分析するもので、年度末に実施する人事考課とは全く異なる。同氏が訪問して話をした企業でも、同氏が所属するデロイトでも、継続的にパフォーマンスを管理することで、エンゲージメントや功績、定着率に好影響をもたらす結果になったという。

従業員にとって、定期的にフィードバックを与え合うのはコツをつかむまでに時間がかかるが、良いフィードバックをメンバーに与えるチームは業績も高いという結果が出ており、フィードバック管理に投資することは会社の業績を上げることにつながる。まだこの領域でHRが必要とするものを満たすツールは出ておらず、ベンダーが取り組んでいる最中。テクノロジーの需要を変えるうえで、市場でも革命的な変化になるとバーシン氏は述べた。

 

福利管理アプリ、学習ツール、人脈のアナリティクスにも注目

当セッションではそのほかにも、会社にとっては単なる保険料節約が目的だった従業員の健康維持(Wellness)から生産性を高めるための福利(Wellbeing、健康で幸福な状態)へと重点がシフトし、福利関連のアプリを導入した会社では生産性、エンゲージメント、健康状態がすべて向上した話や、HRアナリティクスの中でも組織内の人間関係を分析するONA(Organizational Network Analysis)の浮上など、新たにHRの主流になった分野に言及していた。

今後のトレンドを予測するレポートや講演は多々あるが、バーシン氏はそれらをすべて踏まえたうえでさらに大局的に捉えている感があり、説得力があった。また、同氏が衝撃を受けた採用領域のテクノロジーもいくつか紹介され、興味深かった。そのテクノロジーも含めた、HRテックワールドで見た注目のHRテクノロジーを次の回で紹介する。

2018年02月21日