Column

 

世界のリクルーター220万人が挑む、
人材獲得競争とデジタル化の波

ERE Mediaによる2018年春のリクルーティングコンファレンスは、幕開けの基調講演2つが聴衆の感情に訴えてスタンディングオベーションを起こすという、ビジネスイベントとしては珍しいものとなった。

最初の基調講演は、ジャニース・ブライアント・ハウロイド氏が、黒人女性であるがゆえに人種隔離政策撤廃後も頭脳の高さを隠さなければならず苦悩しながらも、ビジネスウーマンとして成功した刺激的なセッション。続いて、#metoo運動の発端となった本を出版したジャーナリスト、グレッチェン・カールソン氏による、職場における内部告発の問題点を指摘した講演である。

採用領域にとどまらず、HRとして米国全体の社会問題を考える午前となったが、全体的に見ると、セッションの多くは「採用部署と効果的に連携する方法」や「候補者との向き合い方」といった、リクルーターには定番の課題を取り上げていた。ここでは、これまではなかった新しいセッションを3つ紹介する。

世界にリクルーターは220万人

2016年、タレントアクイジション(TA)領域の第一人者たちがATAP(Association of Talent Acquisition Professionals、※1)と称する職能団体を設立した。今年のリクルーティングコンファレンスでは、ATAPの理事トム・ダロウ氏が初めて登壇し、リクルーターの現況について調査結果を報告した。

まず、世界にはリクルーティングに関する肩書で働く人が220万人いることが判明した。これは、TAプロフェッショナルは大抵リンクトインの公開プロフィールを持っていると仮定したうえでのものである。ただし、HRジェネラリストで採用も担当しているかもしれない人や、中国在住のTAプロフェッショナルは含まれないといった調査上の限界はある。

国別で見ると、米国に84万4,000人、インドに27万5,000人、英国に24万人いる。企業別では、Haysが最多の6,900人、次いでIBMの6,075人、ケリーサービスの4,800人となった。

また、ATAP会員を対象に実施した初調査(※2)では、「過去1年間でTAチームが拡大した」と回答したプロフェッショナルが50%おり、「TAは有望な職業・キャリアとして薦める」と考えていた人は75%に上ったことから、企業は人材獲得競争に本気で挑んでいることがうかがえる。

加えて、同調査では、人材採用において革新的な取り組みを募集した。セッションで触れたなかで特に目立ったのは、長く失業状態にある人を対象とした採用プログラムだった。Brown Brothers HarrimanでグローバルTA長を務めるローラ・シャーバン氏は、2年以上失業している人を募集し、選考通過者には10週間のインターンシップを与え、オリエンテーションやメンター、コーチングを提供したところ、インターン生の大多数がフルタイム社員に登用された。結果、同社は求人を埋められただけでなく雇用主ブランディングも向上し、採用マネジャーは履歴書に空白がある人材の採用に前向きになったという。「在職中の人材の方が優秀だ」という固定観念を取り除き、人手不足解決策の一つになりうる例である。

今後、ATAPは毎年講演してTAプロフェッショナルの現況や経年変化を報告していくとのこと。

マシーンは人間よりも人間味のある体験を候補者に提供できるのか

観客に挙手を募るプレゼンターたち

「Bull Session」は観客参加型のセッションで、TAプロフェッショナルの間で賛否が分かれるテーマについて登壇者が自身の意見を5分間主張し、観客がそれに同意するかナンセンス(Bull)だと思うかを共に考えるもの。

テーマの一つは、上記にも通じる「消極的候補者の方が積極的候補者より優秀とは限らない」。有能な人材ならば自ら求職しなくても仕事が見つかるため、積極的に求職している人はそれほど有能ではないはず。という先入観を持つTAプロフェッショナルは多い。そのため、他社で働く人材を発掘するソーシングに力を入れるのだが、現在求職しているかどうかでその人の能力や価値が上下するわけはなく、優秀な人材が自社の求人に立候補することもあるだろう。その人たちの価値に気付けば、ATSやソーシングにそれほど費用をかけずに済む、という論理だった。

もう一つのテーマは、「機械は人間のリクルーターよりも人間味のある体験を候補者に提供できる」という旬なものだった。例えば、人間のリクルーターであれば同時に複数の候補者と話すことはできないが、機械ならば同時に多数の候補者を審査して、過去の採用実績をもとに適した人材を特定できる。また、プロセスが自動化されていれば、候補者は自分が選考のどの段階にいるのかをリクルーターに問い合わせずとも随時確認できる。つまり、プレゼンターは、機械を適切に利用することで人間のリクルーターよりも快適な体験を候補者に提供できる、と主張した。

HRこそブロックチェーンの活用を

ケヴィン・ウィーラー氏

続々と登場するHRテクノロジーのなかで、特にHRでの応用に相応しいと言われているのが仮想通貨で知られるブロックチェーン技術である。ケヴィン・ウィーラー氏(Future of Talent Institute創設者兼会長)はブロックチェーンの仕組みを分かりやすく整理し、HRはこの技術を活用すべきと唱えた。

メリットには次がある。
● 従業員や採用候補者のスキル・資格を正確に把握できる
● 従業員データの改ざんや勝手な変更を防げる
● 労働者が転職する際、前雇用主から新雇用主への従業員データを安全に移動できる
● 個人が自身のデータ(学歴、職歴、財務記録など)を100%管理できる。アクセス権限も公開権限も、自分しか持たない
● データが分散化しており、誰にも「所有」されていないため、特定のサーバーがハッキングされてもデータが改ざんされない
● 給与支払いを安全に行える。仮想通貨であれば、世界のどこへでも送金が容易

ただし、データを追加できても削除ができないため、不都合な場面もある。例えば、不起訴になった履歴など、レジュメに記載する必要のない情報を消せないことで、候補者にとって不利益になる可能性がある。

ブロックチェーンはまだ早期開発段階であり、今後改善されていくことを前提に、ウィーラー氏は「ブロックチェーンの主な利用者はリクルーターとHRになる」と予測した。現在はさまざまなテクノロジーベンダーがブロックチェーンを用いたツールを乱立している状況だが、少なくとも従来のテクノロジーよりも格段にセキュリティが高いため、ブロックチェーンが無くなることはないだろう、と別の採用専門家は話していた。今後はブロックチェーンがテクノロジーのインフラになる可能性は十分にあるようだ。

後編では、ユニリーバが複数の最新テクノロジーを利用して新卒採用の手法を根本的に変えた事例を取り上げる。

※1 個人会員は575名超、法人会員はEY、Amazon、Cieloなど。スポンサーはCornerstone、greenhouse、TextRecruitをはじめとする10社。
※2 調査期間は2018年1~2月、回答者数は516名。

 

グローバルセンター
石川ルチア

2018年11月06日