Column

カリン・ソーニュ氏
不動産活用課課長
アントワーヌ・マルタン氏
コワークスペース・プログラム担当

SNCFは世界120カ国で事業を展開し、年商314億ユーロ、従業員数24万人というフランス屈指の企業である。2009年よりテレワークを導入し、2014年2月時点で850人の職員がテレワークを行っている。

SNCFでは、現在、スペース活用とテレワーク促進を目的に、自社が保有する土地と建物をリニューアルし、テレワークを拡大するというフランス全体の働き方改革へとつながる大きなプロジェクトを推進している。

プロジェクトは一般の人々の利用も視野に入れ、「駅」を社会のヒューマンネットワークの基点と位置づけるという壮大な構想である。今回はプロジェクトの中枢メンバーであるソーニュ氏とマルタン氏にプロジェクトの進行状況を伺った。


駅に併設される駅長宿舎をテレワークスペースに

SNCFでは、従業員が自宅に近い場所でテレワークできるように、2012年より、パリ首都圏における駅の空きスペースを改修して、管理職にテレワークスペースを提供する試みが行われています。

「この取り組みのきっかけは、パリ市内にあった本社社屋が郊外へ移転し、通勤時間が長くなった職員からテレワークの要望が相次いだ事が挙げられます」(マルタン氏)また、「パリ市内で勤務する管理職の中には、家賃の安い場所を求めてシャルトル、コンピエーニュなど首都圏の遠郊に住む者も少なくなく、通勤時間が往復4時間に及ぶこともあり早急な対処が必要でした」(ソーニュ氏)。

パリ首都圏の駅舎の多くは19世紀末もしくは20世紀初頭に建設されたもので、当時、駅長は駅に併設の宿舎に住んでいましたが、現在はその習慣もなくなり、宿舎は空き家になっていました。当時、テレワークをする従業員が予想に反して少なく、テレワークを促進させるための起爆剤として25万ユーロを投資し、駅長宿舎(60〜250平米)をテレワークスペースへと改修しました。ユニークなコンセプトが話題になり、社内のテレワーク促進に貢献しました。

駅舎のテレワークスペースを利用する管理職は、その駅で何らかのインシデント(事故につながりかねない事象)が発生した際、駅業務員の手助けが義務づけられています。こうしたSNCF独自の取り組みには、「普段は直接やり取りすることがなかったオフィス勤務の管理職と駅員の親睦に役立つという新たな発見がありました」(ソーニュ氏)。

パリ首都圏内には計380の駅があり、このうち100駅でテレワークスペースの整備が進められています。はじめに、イブリーヌ県でランブイエ駅(地図A構内に7カ所のスペースを整備)、プレジールレクレ駅(地図B:同2カ所)、ラベリエール駅(地図C:同2カ所)の3駅の構内にテレワークスペースが整備され、利用予約のためのオンラインシステムも設置されました。

「プロジェクトが始まった2012年の1日の利用者数は15人程度でしたが、今後は200人程度にまで増やすことを目標としています」(ソーニュ氏)

首都圏以外でも、ブルターニュ地方の中心都市レンヌで勤務する職員向けに、ルドン(地図D )、サンブリュー(地図E )、ランバル(地図F )といった駅にテレワークスペースを設置する同様の試みが開始されています。


国の底上げ効果を狙うSNCFのプロジェクト

テレワークを通じて得られた最大の成果は「作業効率の改善です」とマルタン氏は答える。テレワーク導入のきっかけとなった本社社屋の郊外移転の際には、「効率、協働、フレクシビリティ」をスローガンに社内スペースの大幅見直しが行われ、社内でのコワークスペースやリラックスルームの設置などが実現しました。また、Eメールに代わるチャットやファイル共有化による社内通信システムも同時に導入されました。

SNCFでは、2006年以降、従業員にとって快適な労働環境を確保するために多くの努力がなされています。「組織改革に従業員の声をより反映させるための仕組みづくりにも精力的に取り組んでおり、テレワークはそうした試みの一つでもあります」とマルタン氏は説明します。

加えて、ソーニュ氏は「SNCFはフランスを代表する企業なので、SNCFの取り組みはメディアで取り上げられることも多く、社会全体に大きな影響力があるのです」。

「駅長宿舎プロジェクト」をきっかけに、SNCFの関連会社でも次々にプロジェクトが誕生しました。傘下企業のVoyage-SNCF(乗車券販売サイト)では、仕事環境の改善に向けたプログラム「I feel good」の一環で、2013年2月にテレワークに関する企業内合意が結ばれ、希望者を対象に1週間に1日のテレワークデーが導入されました。

“テレワークデー”には、ミーティングが比較的少ないという理由から木曜日が選択され、2013年時には総従業員450人中70人がテレワークを導入しました。

また、「I feel good」プログラムでは、マネジャーは「朝早い、または夜遅いミーティングを開く」「夜間にメールを送る」といった行為をしないことも合意内容に盛り込まれました。


「Work & Station」駅に併設されたミクロ・コワークスペース

SNCFの駅の多くは街の中心に位置しています。以前から、この立地条件を生かして本来の駅としての機能以外の方法で駅を有効活用することが検討されていましたが、「駅長宿舎プロジェクト」の好評が追い風となり、コワークスペースのサービスを職員のみならず一般へも拡大する「Work & Station」プロジェクトがスタートしました。2016年の7月からサービスが開始されました。

「Work & Station」プロジェクトで開発を担当するのはSNCFの子会社であるSNCF Gares & Connexions。パリ近郊の駅構内にミクロ・コワークスペース(最小で2平米、最大で50平米)を設置します。完全無料、登録の必要もなく、誰でも利用できる開放されたスペースで、今後はパリ近郊の21の駅で利用可能になる予定です。また、インテリアなど細部にも工夫が見られます。

「テーブル、椅子、ソファなどのオフィス家具はキットになっていて、スペースの広さによって一式の内容を変化させます。駅内にスペースが確保され次第、コストを最小限におさえつつ、スピーディな展開が可能になるのです。2017年中に70〜100カ所の設置が目標です」(マルタン氏)

当初のアイデアとしては、パリ市内へ通勤する利用者が通勤時間をずらして出勤できれば通勤ラッシュの軽減に繋がり、また、インシデント時の待ち時間の有効利用にもなるというものでした。

予想外だったのは、通勤する人々だけでなく、住民が買い物ついでにふらりと立ち寄ったり、近所の高校の生徒達が昼食のサンドイッチを食べながら勉強するのに利用するなど、“地域の交流の場”になっているという点です。

「コワークスペースの需要を再確認したことは勿論ですが、当初の思惑にはなかった、駅が“人と人が交流できる空間”になりえるということです。単なる交通機関の結節点ではなく、社会革新とコラボレーティブな発展を創造する場所になるべきだと理解しました」(ソーニュ氏)


地域に密着したコワークスペースの開発

「第三の場所」プロジェクトは、このような背景から発案されました。同プロジェクトは、利用者が1日平均2万人を超える首都圏近郊の駅で、駐車場の上などの約1000平米のスペースに100席のコワークスペースを整備するというものです。ラウンジ、会議室、独立したデスクなどが設置され、本格的なコラボレートオフィスとなる予定です。

「第三の場所」はコワークスペースだけでなく、ファブラボ的なスペースの実現が予定されています。例えば、市民に開かれたアトリエでは、職人による講習会が開催されるなど、ものづくりを通した市民ネットワークの形成も期待されています。協働で街の活性化につなげられるような、雇用創出などの社会的使命を持った地元の企業やスタートアップをターゲットに、このプロジェクトへの参加を呼びかけています。また、オペレーションは地域の需要を把握する地元の業者に依託されました。

このほかに、駅構内の2階をコワークスペースに改装するプロジェクトもあるそうです。スペースは最大250平米で、「Work & Station」と「第三の場所」の中間に当たる規模となり、オフィスと会議室を備えます。パリ市内では西端にある16区のブーランビリエ駅とポルトドマイヨ駅の2駅、近郊では、パリから15分程のクリシールバロワ駅や30分程のドランシー駅、1時間半程のフォンテーヌブロー駅など、パリへの通勤客が多い駅が対象になります。2017年はこれら以外にも10カ所のスペースがオープンする予定だそうです。

「テレワークスペースの需要は今後も大きく伸びることが予想されます。SNCFはこれに意欲的に応えていくつもりです」(マルタン氏)

 

「駅長宿舎」「I feel good」「Work & Station」「第三の場所」「駅構内2階の改装」本コラムでは5つのプロジェクトを紹介した。SNCFのような巨大な交通インフラ企業が積極的にテレワークを推進することで、SNCFの従業員、パリ近郊の労働者はもとより、今後はフランス全体の働き方を大きく変化させていくだろう。また、地域のコミュニティの新たな形まで生み出していくなど、人と人とをつなぐ「駅」の可能性や波及効果は大きく、ドミノ倒しの1つ目のピースのようにも見える。今後どのような変化を遂げていくのか、楽しみな改革である。

2018年02月15日