Column

ナタナエル・マチュー氏
CEO・共同設立者

LBMGは2010年に3名の若きパリジャンが立ち上げた、テレワークなど“柔軟な働き方”に関するアドバイスを専門とするコンサルティング会社。テレワーク導入などを含めた働き方改革を希望する企業や自治体のニーズを分析し、導入にかかるコストと効果を診断し最良な方法をアドバイスすることが主な業務。同社の新鮮なアプローチは、メディアで取り上げられない日はないほどひっぱりダコとなった。

彼らは、オピニオンリーダーとして、テレワーク推進の全国行脚“テレワーク・ツールドフランス(自転車の世界大会であるツールドフランスにかけて)”を主催するなど、活動の幅を広げている。働き方の将来を担うLBMGのCEOであるマチュー氏に話を伺った。


デジタル世代の“ノマドCEO”!

私はナント(パリから西へTGVで1時間半)に住んでいますが、会社はパリにあるので、月曜と金曜はナントでテレワークをして、それ以外の日はパリで仕事をしています。「移動は大変じゃないですか」とよく聞かれますが、人生は「旅」です。常に新しい場所へ移動することで可能性が広がっていくと思っています。

幸いなことに、現代はパソコンと携帯電話さえあれば、仕事はどこでもできます。「ノマドCEO」の私は、今まで何千カ所という異なる場所で仕事をしてきました。中にはワークスペースと呼ぶにはふさわしくない場所もありました。電気系統のトラブルで数時間も止まってしまったTGV車内のスーツケース置き場でスーツケースに挟まれて仕事をしたこともあります。オフィスに行かなければ仕事ができないという環境だったら、移動はストレスになります。


デジタル世代は従来型オフィスでは働きたくない

とある不動産デベロッパーが、2015年に有名なビジネススクールの最終学年に当たる学生たちにアンケートした結果、96%の学生が「いわゆる“従来型のオフィス”では働きたくない」と答え、さらに、その大半が「働く場所や働き方を選択できないような会社には就職したくない」と答えたそうです。

デジタル世代は同時にノマド世代でもありますが、彼らはそもそも「仕事は固定デスクで」「年功序列」「ピラミッド型の労働組織」などといった考え方自体を持っていないのかもしれません。パリのオフィス街のラ・デファンス地区にあるような超高層ビル内にオフィスを構え、何分もエレベーターに乗らないとオフィスに到着しないような、そんな企業に勤めることが一種のステータスであった時代もありますが、デジタル世代はそんなことに優越感を感じるような世代ではありません。

より柔軟でよりフラットな労働環境で、やりたいことを自由にやれること。優越感やステータスよりも「自分らしく生きる」ことが最も大切なことなのです。アドバイスを依頼されたコンサルティングのEY社では、フレキシブルワークが可能な会社であるということを大々的にアピールしたリクルートキャンペーンを行っていました。優秀な若い人材を確保したい企業にとって、彼らが望むような“柔軟な労働環境”を提供できなければ、それは死活問題となってしまうでしょう。


仕事も、生活も、全く新しいビジョンで

LBMGのビジョンは「デジタル時代」の考え方に寄り添ったものです。私たちはそうした考え方が、働き方の今後はもちろんのこと、人が生活し、仕事をする都市のあり方にも影響を及ぼすと見込んでいます。

仕事の形については、これまでに比べてより「機動性」が高くなり、「分散型」で、様々な「コラボレーティブな形態」が発展するでしょう。流動的な仕事が多くなり、仕事とプライベートの境目が曖昧になっていきます。

個人個人にとっては、「よりよい生活」「自己実現」「ライフバランス」がより大事になっていきます。一方で、マネジャーの側も考えを改める必要がでてくるでしょう。同じオフィスで目の前で働いている部下を管理するという従来の方法から、部下への信頼や、目標達成度といった基準を優先させる必要がでてきます。


“柔軟な働き方”が都市のあり方も変える

従来の都市は、皆が集まり仕事をする場所として、輸送手段など巨大インフラに支えられてきました。しかし、「デジタル時代」の都市は、オープンデータやスマートグリッドといったテクノロジーが作り上げていきます。また、デジタルツールの新たな利用法が発展するほか、シェアリングエコノミーに基づいた新しい消費形態が進むことで、都市のあり方だけでなく、より小さな町や村のあり方も大きく変わっていくでしょう。

ノマドワーカーに適した、自宅でもオフィスでもない「第3の場所」も、こうした流れの中にあります。これらはパリなどで実践されているカーシェアリングサービスや自転車シェアリングサービス(パリでは「Autolib」と「Velib」)と同様に、都市のエコモビリティの新しい形の一つであり、従来のインフラ依存型の都市づくりを脱する流れの一つでもあります。

また、「第3の場所」にはコワークスペース、Wi-Fiカフェ、ファブラボなど様々な形態がありますが、これはSNSなど仮想コミュニティが発展してプロフェッショナルな世界とプライベートな世界が混じり合う現代社会の延長線上にあるといえるでしょう。こうした場所は、仕事をする場であるだけではなく、様々な分野の人たちが色々なレベルで交流し合う、生活の場所でもあるのです。


「Corpoworking(コーポワーキング)」という発想

私たちが発想した「Corpoworking」という構想は、仕事場が人と人とのつながりを構築する場であるという考えに沿ったもので、会議室など閉鎖されたスペースではなくもっと開放された自由な環境で仕事ができるスペースです。テレワークを導入する企業に提案しており、メディアでも「Corpoworking」という言葉が使われるようになってきました。

一部の業種を除いて、仕事は基本的にテレワークが可能です。ワークスペースの役割は、皆が常に集まって仕事をする「事務所」よりも、「ハブ」的なものになります。相互に働きかけあい、情報を得て、特別なリソースにアクセスできる、といった動きに満ちたスペースです。

こうしたスペースの延長線上に、テレワークの場所としての自宅や、コワークスペースが位置することになります。現在、フリーアドレスを試験導入中のある有名企業では、10年後にはオフィス自体をなくして、社長を含めた全員がテレワークで仕事をしようと計画しているほどです。もちろんチームがコラボレートできるようなコワークスペースは確保されるでしょうが。

このように、フランスのオフィス景観はこの2~3年のうちに大きく変わるでしょう。


アシスタント職もテレワークが可能、業種で差別されないテレワーク

アクセンチュアでは、「テレワークはマネジャーやコンサルタントだけに限られた特権ではなく、全ての職務で機会均等を原則として導入されるべきだ」という考え方を採用しています。例えば、テレワークが不可能であると言われていたアシスタント業務についても、特別なシステムを構築すればテレワークが可能になります。

テレワーク導入が失敗に終わるパターンの一つに、テレワークで事務所を不在にするマネジャーたちに代わって、アシスタントたちに事務所業務が任されてしまうケースというのがあります。それこそ本来ならマネジャーの仕事であるような業務でさえも代理で肩代わりしなければならなくなるケースです。

ある従業員の負担を軽くするためにテレワークを導入したのに、あるもう一方の従業員の負担が重くなってしまうのでは不平等で、長期的に会社の組織全体の問題に発展してしまいます。これはテレワーク導入時に最大の注意を払わなくてはならないポイントの一つです。


コワークスペースの斡旋サイト「Neo-Nomade」

日々増えるコワークスペースの需要に応えるため、私たちは5年前に「Neo-Nomade(https://www.neo-nomade.com)」というコワークスペース斡旋サイトをローンチしました。同プラットフォームを通じて、フランス全土にある600以上のスペースから、必要な場所・ニーズに合ったスペースが簡単に検索・予約できます。

このプラットフォームは個人も企業もメンバーになれます。企業とはパートナーシップを組みます。企業側は使用料を負担し、従業員はクレジット方式で残金などを管理し、その日のニーズに合ったスペースを選択します。

現在フランスではコワークスペースが大盛況ですが、先日もアメリカの大手WeWorkがパリ・ラファイエット通りに1万2000平方メートルもの新スペースを確保してコワークスペース市場に参入したというニュースが駆け巡りました。

コワーキングスペースの利用は企業にとってコスト節減になるだろうかと質問を受けますが、賃貸契約を結んで通常にオフィスを確保した場合、従業員1人当たりの年間費用は1万2300ユーロ程度。一方、コワーキングスペースの場合、1人の利用は月額で500~800ユーロが相場です。もちろん、快適性の違いなどはあるかもしれませんが、オフィスにいることが少ないノマド型の管理職だと、コワーキングスペースを利用することは、コスト面でも説得力のある選択になります。Neo-Nomadeは先日100万ユーロの資金調達に成功したばかりで、今後も事業を拡大していく予定です。


理想的な未来の会社像とは?

そもそも、数人しかいない経営陣が、組織全体を管理しようということ自体が非現実的なことだと考えます。緊張状態が発生し、どこかにしわ寄せがいくのは明白なことです。

「解放された企業(entreprise liberee)」という発想があります。イザック・ゲッツという心理学者で組織行動学の専門家のセオリーですが、これは、よりヒューマンサイズな組織、上下関係が一切ないフラットな組織、誰もが平等な権限を持つ、従来のピラミッド型の組織構造ではない組織を想定したもので、上からの指示に従うのではなく、プロジェクトを発案して自由に行動することができるような組織、働き方を自らチョイスできる環境をイメージしています。これは理想的な未来の会社像の一つのあり方と言えるでしょう。

 

2018年02月08日