Column

Vol.2 エンタープライズ&パーソネル(Entreprise & Personnel)

ローレンス・ド・レ=ヴァニエール氏
人事・マネジメントプロジェクトディレクター、運営委員会メンバー

Entreprise & Personnel(直訳で「企業と従業員」)は1969年設立の、人事マネジメントと組織改革を専門とする非営利団体。110以上の企業が加盟している。研究機関と提携し、情報収集、法人や組織へのアドバイス、刊行物の出版、講演会や作業グループの主催などを行うほか、今後10年間の展望を立てる市場ウォッチなどを行っている。同団体で人事・マネジメントプロジェクトの責任者として組織改革に関する様々なプロジェクトを率いているローレンス・ド・レ=ヴァニエール氏に、フランスのテレワークの状況や2017年のトレンドについて伺った。

現在、Entreprise & Personnel には110以上の法人企業、組織(特に人事関連)が加盟しており、メンバーにはエールフランス、アクサ、カルフール、ダノン、コカ・コーラ、オレンジ、ルノー、トタル、ヴェオリア、ソシエテ・ジェネラルなどの大企業が名を連ねている。


「十分なテスト期間」を経てテレワークを導入するべき

フランスで、テレワークの分野において総合的に進んでいるメンバー企業はオレンジ(通信)、EDF(電力)、ソシエテ・ジェネラル(金融)、アクサ(保険)、タレス(防衛)など。これらの企業で共通していることは、数年以上のテスト期間を経た後に企業合意が締結されており、テスト期間中に浮かび上がった複数の問題に対して具体的な措置・対策が取られている点だと思います。

また、テレワークを単なる技術側面の改革や利便上の措置と捉えるに留まらず、新しい就労形態を通した組織全体の改革の一環として、さらには、企業パフォーマンスの向上に向けた戦略の一部として捉えているという点でしょうか。

私は「企業パフォーマンス」を追求する際に最も重要なのは、3つの柱、つまり、「財務面」「経済面」「労務面」の間のバランスであると思うのです。


テレワークは企業成長の不可欠な要素になる

CEBR(Centre for Economics and Business Research)は2014年、世論調査機関オピニウムを通じて、「テレワークのもたらす経済効果に関する調査」を実施しました。この調査では、テレワークを望むフランス人頭脳労働者のうち92%は、「週2日のテレワークを希望している」という結果が出ています。

また、“テレワークを通じて、フランス経済には年間98億ユーロの経費節減が可能になる”と試算されています。これはフランスのGDPの0.5%に当たる金額です。

他方、社員側から見ると、週2日テレワークをした場合、年間で交通費17億ユーロ、2億4700万時間の節約が達成されるのです。

調査対象であるフルタイム社員の93%はテレワークができる状況にあります。彼らは、テレワークのメリットについて、「生産性が向上する(36%)」「信頼されていると感じる(28%)」「仕事の処理量が増加する(13%)」と回答しています。

また、テレワークは、パートタイム社員にもメリットが大きい。パートタイム社員はアンケートの中で、柔軟な労働システムが存在しなかったことで、育児や介護のために「フルタイムからパートタイム労働に移行(10%)」「転職(10%)」「離職(24%)」を余儀なくされたと回答しています。

パートタイム社員の65%(93万人以上)がテレワークをすれば、勤務時間の増加につながってGDPの0.2%の成長に貢献できます。テレワークを認めない企業では今後、有能な社員が流出する、あるいは有能な社員を獲得しづらくなることも予想されています。


テレワーク浸透に影響を与えた歴史的事柄

技術的な面を見ると、1980~90年代にパーソナルコンピューターが普及、また2005年以降に本格的にインターネットが広まり、2010年以降は第四世代の技術が登場、通信技術のモビリティが普及してテレワークが飛躍的に伸びています。

政治・社会的な面では、2件の報告書の存在がとても大きい。1つ目は、後に経済大臣を務めたティエリー・ブルトン氏が率いる作業グループによる1994年の報告書です。これは、フランスで初めてテレワークを一つの新しい労働組織形態として位置づけたことが話題となりました。2つ目は2009年CAS(Centre d’Analyse Strategique。仏首相府下の戦略的分析センターで、現フランス・ストラテジー)による調査報告書です。当時、テレワークは各組織が非公式に導入しているにすぎなかったのですが、この報告書はこうした状況の改善に向けて、テレワークに関する具体的な法的枠組みの必要性を訴えました。これがその後、2012年の労働法典の改定へとつながりました。

このほか、テレワークの浸透に影響を与えた出来事として、高等教育を受ける国民が増加したこと、作業のデジタル化が容易なサービス産業への就労が増えたこと(現在全労働人口の76%が第三次産業に従事する)、また、1998年の週35時間制導入がワーキングシェアに関する意識を高めたことがあります。

昨今では2008年の金融危機、2009年のインフルエンザ蔓延、2016年の大気汚染による自宅待機勧告なども挙げられるでしょう。


「週3日以上のテレワーク」は仕事の効率や生産性を下げる

私がテレワーク導入を検討するメンバー企業にアドバイスする際、特に重要視している点は、集団の弱体化を避けるため、テレワーカーが孤立しないようにするという点です。遠隔でありながらも、マネジャーや同僚たちとの社会的絆・人間関係の構築を会社側がどれだけ支援できるかが成功の秘訣だと思います。

技術的にどんなに便利なアプリケーションがあっても、そういったツールだけに頼らず、例えば、週1回は必ずチーム全員が顔を合わせる機会を作ることはとても大事です。

このため、従業員に毎日のテレワークを許可しているメンバー企業はほとんどなく、大半が週2回(メンバー企業全体の3分の2)もしくは週1回(同3分の1)です。これに関してはCASの報告書“Le developpement du teletravail dans la societe numerique de demain”内でも、テレワークが週3日以上になると、仕事の効率や生産性が下がるというデータが掲載されています。

毎日テレワークをしていた従業員の例では、オフィスに出勤しないことについてほかの同僚たちに対し引け目を感じて、必要以上に朝早くから夜遅くまで過重労働を続けた結果、燃え尽き症候群を引き起こしてしまったという事例も報告されています。

 

力量が問われるマネジャーの管理能力

テレワーク導入が失敗に終わったケースで、その阻害要因として最も指摘が多かったのが、テレワーカーを直接管理するマネジャーの理解と管理能力の欠如です。マネジャーらは、目の前にいない社員たちと円滑な関係を築くコミュニケーション能力と、「観察」ではなく「成果」による評価体制をマネジメントスキルとして身につける必要があるのです。

また、世の中には便利なコミュニケーションツールはいくらでも存在しますが、それらに頼って、コミュニケーションが“機械化”し過ぎてしまうことを避けるため、各状況に沿ったツールの導入が推奨されます。

セキュリティ管理が不十分であったためにパソコンの紛失や盗難によって情報流出が引き起こされたケースもあり、セキュリティ対策も万全に行う必要があります。


フレキシブルワークの未来

今後、テレワークやコワークといったフレキシブルな新しい就労方式はどんどん発展していき、作業の自動化とデジタル化も進み、遠隔でできる作業量はますます多くなるでしょう。

フレキシブルワークの発展と社会との関係性の未来について2つのシナリオを挙げることができます。1つは、人々が素晴らしいワーク・ライフ・バランスを得て、高齢化社会にも対応できるという楽観的なシナリオです。
もう1つは、行き過ぎたテレワークが弊害を招き、個人も集団も状況の急激な変化に十分に対応できず、危機的状況が生まれるという悲観的なシナリオです。

人間的な面が重視されなければ、後者のような状況は必ずやってきます。人としての感情をどこまで大切にできるか、人間としての尊厳をどこまで汲み取れるか、ヒューマン・マネジメントの時代の到来とも言えるでしょう。

 


ローレンス・ド・レ=ヴァニエール氏 プロフィール

通信企業のオレンジ(旧フランス・テレコム)で主にマーケティングや人事関連の責任者として約20年の豊富なキャリアを持ち、2011年からEntreprise & Personnelで人事・マネジメントプロジェクトのディレクター。2014年より同運営委員会のメンバーに就任、2017年度に理事職への就任を予定。
専門は、フレキシブルワーク全般で、著書は『つながらない権利』(就業時間以外インターネットの接続を切る権利を扱った)、『差別と戦う、つながらない権利(就業時間以外インターネットの接続を切る権利)、2022年の未来の職業』(2015年6月)、『テレワーク、リクルートと生涯教育』(2014年4月)など。

2018年01月18日