Column

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組織人事の果たすべき役割についてはさまざまな定義や考え方があろうが、会社の競争力強化につなげることを前提に、私はそれを「会社のユニークネス発揮に向けて、組織・個人双方の視点でのユニークネスの発揮を最大化すべく、仕組みをつくり、それをワークさせること」だと考える。本稿では、その役割について、日本における組織人事が直面している課題とその解決の方向性を念頭に置きながら、私見を述べてみたい。

個人が「自分自身のブランドをどう確立するか」
まず、従来の日本企業が重視してきたのは、「組織視点でのユニークネス発揮(一体感やそのもとになる理念の浸透等)」「組織から個人を見たときのサポート(個に配慮した異動・福利厚生等)」であり、これらは一部変容しつつあるものの、依然として日本企業の特長・強みであろう。

一方で、「個人が発揮するユニークネスをどう最大化していくか」という視点は欠けていたのではないだろうか。言い換えれば、主語は個人であり、「自分という商品をどう売り込んでいくか」である。これは労働市場流動化への対応(乱暴に言えば、会社にしがみつかなくてすむようにエンプロイアビリティを高めるといった文脈)のみを念頭に置いているのではない。日本の労働力人口6500万人にまでスコープを広げなくても、数千人・数百人の自社の社員の中において、彼らが「自分自身のブランドをどう確立するか」という、誰もが、どんなときでも直面する命題である。

個人のユニークネス軽視を払拭することは、歴史・風土に挑むこと
ではなぜ、「個人によるユニークネスの発揮」が軽視されてきたのであろうか。この組織人事セッションに参加するまでは、主に戦後の「製造業主導の成長(決められたことを決められたとおりに)」「終身雇用(個性よりも全員が大事)」あたりにその源流があるのではと考えていた。この仮説は、「そういった前提が変わっていけば、自然と個人のユニークネス重視の方向に変化していく」という結論につながる。

ところが、「組織人事の世界観ゼミ」で学ぶ中で、「個人の資格よりも場を重視する中で生じるタテ社会」(『タテ社会の人間関係』中根千枝、講談社)や「仲間内での安心社会」(『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』山岸俊男、集英社インターナショナル)といった考え方を踏まえれば、もっと根源的な、日本社会の歴史・構造に根ざした特徴であり、そう簡単に変えられるものではないと認識を改めるに至った。となると、「変化に任せれば改善していく」ものでもないし、小手先の対応ですませるべきものでもない。大げさに言えば、「歴史・風土に挑んでいく」くらいの気概で臨まなければならないことになる。その際、我々はどのような視点を持つべきか、我々組織人事の誰もが直面している2つの課題、「経営人材の輩出」や「働き方改革」を例にとって、考えてみたい。

人事異動による成長機会と時間をコントロールする働き方がハイパフォーマーを生む
「個人によるユニークネス発揮」軽視は、「経営人材の輩出」と「働き方改革」に以下のような影響を与えてきたのではないか。
経営人材の輩出
従来組織の中で行われてきたのは、人事異動を通して会社が成長機会を提供する中で、結果としてユニークネスを発揮し続け、それを集積した一部の「個人」が「強烈に会社に貢献するハイパフォーマーとなる仕組み」ではないだろうか。これは、個人の意思に基づくものではないばかりか、組織が意図した計画的なプロセスでもない、偶発的なものであった。
働き方改革
同じく従来は、無限定の時間をフルに使って、求められる成果に何とか応えていこうとする働き方ではなかったか。そこには「有限な自分の時間をコントールする」意識がまったく欠如していた。

組織人事に身を置く私からすると、この2つの事象はある意味でつながっているのではないか、と感じている。つまり、一方で、「ハイパフォーマーには、長時間労働から脱却した人が少なからず存在すること、もしくは、少なくとも自らが時間をコントロールしていること」という実態があることを確信している。つまり、2つの観点は、異なるものではある。しかし、「経験の中で、意図せずに体得していった」もしくは、ストレッチ機会の中に「体得するエッセンスが詰まっていた」ことによって双方が止揚するような成長が実現しているということだ。

経営人材の輩出と働き方改革をいかに両立させるか
これらを踏まえた、我々の進むべき方向性は、この2つの観点を意識的にどう両立させていくか、にあるのではないだろうか。つまり、

経営人材の輩出
キャリア形成の面では、一人ひとりのキャリアプランに軸足を置き、会社をあげて支援していくという基本的な考え方のもと、意図的に「ハイパフォーマー」をつくっていくスタンス
働き方改革
全体としての働き方改革を進め、個人が時間をコントロールする意識を高めるとともに、個人視点ではストレッチ機会には意図的に負荷をかけていき、そこでハイパフォーマーへの道筋を開いていくスタンス
というプロセスを意識的に誘発させていき、そこから学んでいく中で、2つの課題に対してさらに一歩進んだ解決のアプローチが見えてくるのではないかということである。

最後に、上述の「相関に着目する視点」に加え、組織人事として留意すべき視点をもう一つ与えてくれたのが、同じくこのゼミで学んだ「集団に軸足を置く安心社会から、より開かれた信頼社会への移行が求められているが、信頼社会が日本にまったくなかったわけではなく、昔から商人魂を通して存在していた」という指摘である(『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』山岸俊男、集英社インターナショナル)。ゼロサムではないし、何かを捨て去るわけでもない。安心社会のバックグラウンドと同時に信頼社会の可能性をあわせ持つ我々は、安心社会の強みをベースに、信頼型社会のDNA(商人魂)をどう発揮していくか、つまり、「強みを活かしつつ、ユニークネスを上乗せしていく視点」が、今後さらに求められてくるのでは、と考えている。

 


プロフィール
森原 征司
Suntory Beverage & Food Asia Pte.Ltd. HR Director
東京大学経済学部卒業後、サントリー(現サントリーホールディングス)に入社。営業部門、マーケティング部門を経て、人事部門へ。ホールディングスで、採用(ビジネス系の採用統括等)・制度企画(65歳定年制導入等)などの国内人事を担当したのち、2015年よりグローバル人事。2017年4月より現職となり、シンガポールで事業人事を担当。

2017年05月15日