Column

日本的雇用システムとの違い

日本的雇用システムにおけるキャリアトランジションとは、人生の節目で行われるものだった。しかし、100年キャリアの時代には、キャリアトランジションがもっと身近なものとなる。人生のさまざまな局面でキャリアトランジションがあることが当たり前で、潜在的なキャリアトランジションが、ある時期、仕事を変えたり、働き方を変えたりと、具体的な行動として顕在化するというのが、これからのキャリア形成である。

よって、「100年キャリア時代の就業システム」が、日本的雇用システムと最も違うのは、誰もが、いくつになっても、キャリアトランジションを通じ、新たな挑戦を始められる仕組みであるという点だ。

「100年キャリア時代の就業システム」では、個人が、「キャリア自律」としてキャリア形成の主導権をもつ必要性を示し、キャリア形成に大きな影響を与える家族や友人、人脈などの「人的ネットワーク」を重視する。これは、会社が人事権をもち、人間関係も会社の仕事関係に閉じている、日本的雇用システムとは対照的だ。

組織についても、同質性の高い正社員をマス管理し、職務への期待が曖昧な日本的雇用から、イノベーションを生み出すために、特定領域で高い専門性をもつ「プロフェッショナルの活用」を機動的に行い、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)経営」により、多様な能力や志向をもつ人材を積極的に活かすものとしている。

さらに就業システムでは、個人のキャリアと組織のイノベーションをつなぐものとして、「就職・転職」と「独立・起業」といった、キャリアトランジションの環境整備にハイライトをあてている。長く働き続けるには、年をとってからも転職や再就業ができることが必須であるうえ、近年では高齢者の独立・起業が増加している。内部労働市場が高度に発達している日本的雇用システムではメインストリームにはなかった、転職や独立・起業に着目している点が特徴的である。

また、就業システムでは、日本的雇用では企業内で行われてきた人材投資と賃金の分配を、「能力」と「賃金」という形で明示した。企業内人材育成と企業内労使関係は、日本的雇用の優れた点であるが、人々が所属企業の外でも就業機会を探すようになると、今のままではそれらは十分に機能しなくなる。100年キャリア時代には、能力開発や労使交渉は、ある部分は個人が自分で、ある部分は社会の仕組みとして、再整備していくことが不可欠となる。

 

100年キャリアを支える労働政策

「100年キャリア時代の就業システム」をつくり出すには、社会・企業・個人それぞれのレイヤーで、さまざまな取り組みが求められる。われわれ労働政策センターでは、就業システムの構築に向けて、5つの視角から労働政策にアプローチしていこうと考えている。

5つの視角とは、「労働法制」「予算・施策」「税・社会保障」「教育」「技術」である。労働政策の中核は、法律や政省令等の制定や改正である。個別の政策を推進するためには、企業に対する助成金や個人へのキャリア支援プログラムの拡充が有効だ。税制や年金制度などの社会保障は、就労と密接に関連している。自律的なキャリア形成とスキルの習得が求められる今後、教育の重要性はますます高くなる。テクノロジーはこのような取り組みを加速する。

労働政策の視界図

 

「労働法制」「予算・施策」「税・社会保障」「教育」「技術」はいずれも、これまでは固定的性別役割分業と日本的雇用慣行をベースに整備されてきた。近年、見直しが進められているが、まだまだ十分とはいいがたい。「100年キャリア時代の就業システム」という観点からこれらを総点検することで、新たな方向性が浮かび上がってくるだろう。

『労働政策から考える「働く」のこれから』では、100年キャリア時代の就業システムとこれからの労働政策のあり方について、労働政策センターの研究員が持ち回りでコラムを執筆する。まずは、就業システムの8つのカテゴリーとして位置付けた、「キャリア自律」「人的ネットワーク」「独立・起業」「就職・転職」「D&I経営」「プロフェッショナルの活用」「賃金」「能力」についてまとめていく予定である。

「100年キャリア時代の就業システム」は、日本的雇用システムに代わる、次の時代の就業システムを議論し、検討するためにつくったものだ。労働政策センターでは、今後の皆さんとの対話を通じ、われわれ自身の視界をクリアにし、現実味のある政策提言に結びつける努めていく。これからの就業システムと労働政策のあり方について、ご意見や感想を寄せていただければ、大変にありがたく思う。

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第1回テーマ「100年キャリア時代、転職を未来への「機会」にするために」 12/14掲載 

労働政策センター長
中村 天江

 

 

2017年12月11日