Column

 

メンバーシップ型・ジョブ型の「次」の模索が始まっている

 

日本的雇用システムの「次」のカタチ

中村 人生100年時代では、60歳を超えて80歳まで就業するケースも出てきます。そうなると雇用システムは今のメンバーシップ型でいいのか、あるいはジョブ型がふさわしいのか。どういう方向に進化していくと考えていますか。

濱口 日本では今、メンバーシップ型に問題があるのでジョブ型の要素を取り入れようという議論をしています。ですが、今の私のすごく大まかな状況認識は、これまで欧米で100年間にわたり確立してきたジョブ型の労働社会そのものが第4次産業革命で崩れつつあるかもしれないということです。欧米では新しい技術革新の中で労働の世界がどう変化していくのかに大きな関心が集まっています。

そもそもメンバーシップ型もジョブ型も自然にできたものではありません。産業革命で中世的なメンバーシップ型社会が崩れて労働者がバラバラの個人として市場に投げ出された中で、その拠り所として労働者が普通に働いていける社会のルールとして組み立てられたのがジョブ型です。ジョブ型とメンバーシップ型はある意味でそのルールの作り方の違いなのです。

日本でもマイクロエレクトロニクス(ME)が工場やオフィスに入り始めた30~40年前は、日本的雇用システムの柔軟性こそがME時代に最も適合していると誇らしげに語られました。もちろん間違っていなかったわけですが、ここ20年の間にメンバーシップ型の悪い点が露呈し、うまく対応できないということでジョブ型が注目を集めているのです。

しかし今の欧米は違う。欧米ではこれまで事業活動をジョブという形に切り出し、そのジョブに人を当てはめることで長期的に回していくことが効率的とされた。ところがプラットフォーム・エコノミーに代表されるように情報通信技術が発達し、ジョブ型雇用でなくともスポット的に人を使えば物事が回るのではないかという声が急激に浮上している。私はそれを「ジョブからタスクへ」と呼んでいます。

 

技術のインパクトに対する危機感

中村 メンバーシップ型でもジョブ型でもない就業システムが新しい技術革新によって生まれつつあるということですね。いつ頃から議論が始まっているのですか。

濱口 実は欧米でこんな議論が高まったのはこの2~3年です。つまり欧米の労働社会を根底で支えてきたジョブが崩れて、都度のタスクベースで人の活動を調達すればいいのではないか。あるいはそれを束ねるのが人間のマネジメントだと言われていたものでさえもAIがやるみたいな議論が巻き起こっているのです。

それに対して働く側はこれまでジョブ・ディスクリプションに書いてあることをちゃんとやればよかったけど、ジョブがなくなったら自分たちはどうすればいいのかという危機意識がすごく強い。ジョブがなくなれば今後の立脚する根拠をどこに、何を作ればよいのかという議論も起きています。

本当に先が見えない中でものすごい危機感を持って右往左往している状況です。ところが日本でそれほど騒がれていないのが不思議でなりません。

中村 日本はメンバーシップ型でジョブ型ですらないので、タスクを切り出すというのはどういうことなのかわからないということかもしれません。

濱口 もちろん日本でもこの問題に対する議論がないわけでもありません。しかしその議論は何かポエム的な印象を拭えない。例えば、これからは個人がプロフェッショナルにならなきゃいけないとか、もっと個人が強くなれといった心構え論や道徳論に終始しています。欧米で世の中が変わると騒いでいるのに、日本では危機感を持つべき人たちに全然危機感が感じられません。

中村 メンバーシップ型やジョブ型といった、個人と組織を結びつけるマッチングの仕組みが崩れつつあるということですね。今のプラットフォーム・エコノミーでは、まさに新しいタイプのマッチングの仕組みを創造しなくてはいけない。その議論をするときに、どういう人たちのどういう働き方に影響が出るのか、具体的なターゲットをとらえて議論していく必要があります。でも日本はメンバーシップ型なので、そもそもジョブもはっきりしない中でなおさらタスクも見えていません。

濱口 ジョブがなくなっても仕事がなくなるわけではありません。つまり世の中のタスクの総量はそれほど変わらない。例えば今のタクシードライバーの場合、職業資格を持つ人がタクシー会社に雇われて普通に生活が設計できる程度の報酬をもらって一定の長期間働いているわけです。ところが運転して人を運ぶというタスク自体は変わらなくてもウーバー型になればタクシードライバーというジョブがなくなる。ジョブからタスクへの典型的なイメージがそれです。あるいは営業職もそうです。彼らは会社の外であちこち動き回っています。なぜ雇っているかというとそのほうが効率的だったわけですが、それがタスクベースになる可能性も否定できません。

つまり放っておくとごく一部の本当のプロフェッショナルの人と、あとはデジタル日雇い労働者になってしまうわけです。

中村 先ほどのポエムの話ではありませんが、テクノロジーの進化で大事なのは、テクノロジーで何を叶えたいのかという夢を描くこと以上に、実現性、つまりどういうプロセスで誰がどのようにその夢をカタチにするのかです。新たな雇用システムを考える場合も技術の進化を見極めた議論が必要だということですね。

濱口 ジョブ型やメンバーシップ型にしても多くの人が普通に働ける中流社会の基盤でもあったのです。ジョブ・ディスクリプションをきちんとやっていればとか、上司の命令に従ってやっていればよいというのがノーマルパーソンのルールでした。それが崩れると欧米では騒いでいますが、正直言って10年後、20年後にどうなっているのか誰にもわかりませんし、私もわからない。しかし、少なくとも大変だ、大変だと騒いでいる事実がある以上、もし本当にそうなったらどうするのかという議論をしないとまずいのではないかという思いが結構あります。

 

「中流」を支える新たなシステムは多層的

中村 ジョブ型、メンバーシップ型という20世紀に最適化されてきた雇用システムが、タスク型の登場によって部分浸食的に変化を起こしているのは間違いありません。そういうときに20年後、30年後も今よりも希望が持てる状態にするにはどこから手をつけていけばよいと思いますか。

濱口 それは難しいですね。例えば極端な例としてはAIの時代はBI(ベーシックインカム)が必要だねという議論があります。ジョブがタスクでバラバラにされてしまう事態になると、それに安定性を与えるのは国しかないでしょうという話になり、おそらくBI論になる。いかにももっともらしい議論ですが、安易なBI論は要するに「一君万民モデル」であり、社会としてこれほど不健全なものはないだろうと思います。なぜなら社会というのは何段階も経てまとまっていくもので、ある段階でおかしなところがあればそこを修正すればよいのです。そうではなくて一人の絶対的な権力を持つ皇帝がおかしくなれば弊害も大きくなります。

中村 中央集権的な仕組みがBIということですね。

濱口 実は超中央集権です。中央集権は地方分権の対義語で使われますが、事業活動では業界があり、企業があり、個々の職場があるように複数の段階で構成されていますが、それが実は大きなセーフティネットになっているのです。もちろん最後のセーフティネットとして生活保護があるのですが、他の段階を全部なくして全部BIで統一しようというのは、いわば皇帝モデルに近い。

中村 皇帝モデルは一部の人はハッピーになれるかもしれませんが、多くの日本人がハッピーになれる仕組みとは限りませんね。

濱口 タスク型社会になると、ごく一部の本当にプロフェッショナルとして活躍できる個人はいるでしょう。しかし、20世紀にジョブ型やメンバーシップ型のおかげで中流になった人たちはいわゆるデジタル日雇いになってしまう。その人たちを救済するためにBIを導入するというのは決して健全な社会とは言えません。だから意識的に何かを作っていく必要があります。

それが一体何なのか。少なくともメンバーシップ型がだめだからジョブ型に移行しようという話ではありません。ジョブが崩れつつある中で、それに代わる中間レベルの社会の安定装置をどのようにして作っていくのかを真面目に考えなければいけないと思います。労働者の利益や利害をどのようにして代表し、束ねていくのか。労働者がどんどん希薄化し、自営業化していくとすれば、これまでのメンバーシップ型の一部局にすぎない労働組合が中間装置の役割を果たせないかもしれません。そうであれば団体交渉と団体協約権を持つ中小企業協同組合的なものを創造していくのか、いずれにしても真剣に議論していくべきだと思います。

中村 労働市場の中間装置、レイバー・マーケット・インターメディエイションには、官民の需給マッチングや企業の人事部もあてはまります。中間装置それぞれの機能について議論を深めていくべき時期に来ているということですね。

 


濱口 桂一郎(はまぐち けいいちろう)
労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
1958年大阪府生まれ。1983年労働省入省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員等を経て、2008年より現機構所属、2017年より現職。専門は労働法政策。『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』『EUの労働法政策』など著書多数。メンバーシップ型・ジョブ型の提唱者としても知られる。

 

これからの労働政策

「メンバーシップ型/ジョブ型」の提唱者である濱口氏から、日本的雇用システムの進化形と考えられてきたジョブ型が崩れつつあるという現状認識が提示されるとは、インタビュー前には予想していませんでした。このことが意味するのは、技術のインパクトはそれほどに大きく、「働く」を取り巻く環境は激変期にあるということです。
「働く」の変化をとらえ、未来に備えるには、まずは現状を把握するための調査・研究が必要です。そのうえで、現実味のある就業システムの再構築に向けて、物事を過度に単純化しすぎず、個別の仕組みについて議論を深めていくことが肝要だと理解しました。

労働政策センター長 中村天江

執筆/溝上 憲文  撮影/刑部 友康

 

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