Column

企業規模間の賃金格差、古くて新しい課題

 

同一労働同一賃金でも解決しない賃金格差

日本的雇用慣行は、主に男性・正社員・大企業で観察されるものであり、女性や正社員以外の労働者、中小企業ではあまり観察されない※1。性別、雇用形態、企業規模によって、働き方に違いがあるように、賃金についても性別、雇用形態、企業規模によって差があることが知られている。

性別による賃金格差は、男女雇用機会均等法に続き、2015年に女性活躍推進法が制定されたこともあり近年縮小傾向にある。雇用形態による賃金格差も、同一労働同一賃金の推進によって、是正される見込みだ。

だが、古くから「二重市場論」として知られる、企業規模による賃金格差は、今なお緩和の目途が立っていない

日本における企業規模による賃金格差は、従業員数1000人以上の企業(以下、「大企業」と呼称)を100とした場合、100~999人の企業(以下、「中企業」と呼称)では81.5、99人以下の企業(以下、「小企業」と呼称)で72.6となっている※2。相当程度の賃金格差が存在することがわかる。

また、国際的にみてもその賃金格差は大きい部類に入る。大企業を100とすると、中企業・小企業の賃金は以下の表のとおりである。(図表1)

図表1 企業規模別賃金格差の国際比較


出所:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2017」(大企業を100とした水準)

本コラムでは、我が国において、なぜ企業規模別の賃金格差が大きいのか、その差が100年キャリア時代の「働く」に対して障害となってしまう点はないか、検討したい。

 

賃金の企業規模格差はどこで生まれているのか?

企業規模間の賃金格差について、一段掘り下げて実態を確認したい。

年齢層での傾向はあるか。結論から言えば、若いうちは規模間による差が小さいが、年齢層が上がっていくほど差が大きくなり、50代でピークとなっている。具体的には、25~29歳の階層において大企業を100とした場合、中企業は87.8、小企業は80.0である。一方で、50~54歳の階層では、中企業は77.1、小企業は64.4となる。(図表2)

図表2 年齢階層別の現金給与額


出所:厚生労働省「労働統計要覧」(男女計、2015年、きまって支給する現金給与額)

若年層の給与水準について、特に初任給について詳細に見ると、最終学歴を問わず、この時点では大きな差は存在していないことがわかる。(図表3)

図表3 新規学卒者の初任給


出所:厚生労働省「労働統計要覧」

こうした差について、これまでの賃上げ率に大きな違いがあるのだろうか。実は賃上げ率については40年前から大きな差はなく、差が維持されたまま、固定化されたものとして続いてきていることがわかる。(図表4)

図表4 賃上げ率の推移


出所:厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」

基本給とは別に、賞与額についても押さえておきたい。賞与は大企業を100とすると、中企業で61.7、小企業で36.2となっており、基本給以上の大きな差が生じている。

 

情報通信業、製造業などで差が大きい

最後に業種別の差を示す。

図表5 業種ごとの月額給与差


出所:厚生労働省「就労条件総合調査平成28年版」
(常用労働者、毎月きまって支給する給与、なお、この場合の小企業は30~99人の従業員規模の企業を指す)

図表6 業種ごとの給与差


出所:厚生労働省「就労条件総合調査平成28年版」
(常用労働者、毎月きまって支給する給与、なお、この場合の小企業は30~99人の従業員規模の企業を指す)

サービス業を中心に、規模の差が逆転している業種が存在する一方で、運輸業・郵便業のようにほとんど差がない業種、情報通信業、製造業、建設業、医療・福祉のように大きな差が存在する業種が存在している。この理由については、規模が大きいほど非正規比率が上がる傾向のある業種では逆転現象が起こりやすいほか、業種ごとのビジネスの構造(製造業の系列化や、建設業、情報通信業における多重下請け構造では、業種のなかでの垂直的な取引が中心となるなど)の影響も受けているものと考えられる。

以上、賃金の企業規模間格差の構造についてまとめると、①新卒の際には差はないが、年齢が上がっていくにつれて差が拡大しており、そのピークは50代前半、②賃上げの水準には過去40年大きな差はなく、規模間格差は持続されている、③賞与では基本給以上の大差が出ている、④業種で大きな違いが存在する、と整理することができる。

 

企業規模によって賃金水準が異なる理由

こういった規模間の賃金格差が生じてしまっている理由については諸説ある。

1つには、日本的雇用システムの背景にあった取引関係などの商慣行がある。製造業から情報通信業まで、多くの業種で見られる系列会社体系や元請け・下請けの取引関係において、大企業と中小企業のビジネス上の立ち位置が固定化していることが賃金の格差の状態に一定の影響を与えていると考えられる。政府においても賃上げ要請と同時に、大企業より低い中小企業の賃上げ率向上を支えるべく、経団連に対して下請け取引の改善を要請している※3

また、長期的に大企業のほうが教育訓練費の高い傾向を示しているが、このために従業員の生産性が上がりそれにより増加した収益を賃金増として還元できているという主張もある。確かに教育訓練費は大企業が月1人あたり1519円なのに比して小企業では424円と著しい違いがある※4。教育訓練機会の多さが従業員のスキル、ひいては企業の付加価値を増し、それが賃金に反映されているという主張だが、同じ経験や学歴を有する従業員でも企業規模によって賃金差があるという指摘もあり、そのようなシンプルなストーリーだけでは説明しきれないだろう。

こうした議論は日本社会における規模間格差に存在する課題の一面を指摘しているが、構造的な問題にも起因しており、個人の問題だけに規模間の賃金格差の責を問うことは限界があるといえよう。では、100年キャリア時代に企業規模間の賃金格差の問題はどう考え、どう対応するべきなのだろうか。

 

賃金の企業規模間格差が100年キャリア時代の落とし穴に

問題の第1は、転職の阻害要因になる点である。12月コラム「賃金ダウンありきの転職」を乗り越えるでも触れているように、転職に際しては転職時点での年齢が上がるほど賃金が下がるリスクが大きい。賃金が下がる大きなリスクのひとつとして大企業から中小企業への移動などが考えられる。こうした賃金低下の可能性は、企業の規模問わず個人の能力を組織に還元しようとした場合にでも、賃金低下のリスクを取れるものにしか「転職」ができないという状況を生み出しかねない。また、転職の際の選択肢を狭めることからも、100年キャリア時代に、同様の能力の人間でも企業の規模が異なれば賃金が異なる、という現在の状況は大きな障害になる可能性がある。

第2に、可処分所得に格差が生まれることにより、個々人の行う学習投資量に差が生まれてしまう点である。図表7にあるように、所得水準の低い階層になればなるほど、自己啓発活動を行っている比率が低い傾向がある。加えて、規模の小さな企業は能力開発費用も低水準であり、相乗的なマイナス要素となっている可能性がある。属する企業の規模のみによりキャリアづくりに差が生まれるという、個人にとって、そして社会にとっての損失を生んでしまう。

図表7 自己啓発活動実施率


出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」(就業者対象、主な仕事からの年収を横軸、自己啓発活動の実施率を縦軸としている)

 

規模間賃金格差を乗り越えるために

こうした課題を包含する規模間の賃金格差の問題だが、数十年前から指摘されている問題でありその根は深い。

規模間の賃金格差は、100年キャリアの時代においては、上述のように転職の際の阻害要因や、学習機会を奪う要因となる危険性がある。純粋な賃金水準の問題に加えて、特に小規模な企業に在籍する個人の学習機会喪失は大きな課題である。構造的な取引関係適正化の取り組みとともに、小規模な企業に在籍する個人が学びの機会を知るための情報を得やすくし、また、金銭的な支援を行っていくなど、規模間の賃金格差を乗り越えるための支援について、今後検討を深める必要があるだろう。

 

※1:仁田道夫、久本憲夫編2008『日本的雇用システム』ナカニシヤ出版などに詳しい
※2:厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」
※3:経済産業省「下請企業との取引の改善を、経済団体に強く要請」http://www.meti.go.jp/main/60sec/2016/20160926001.html 2017年12月21日閲覧
※4:厚生労働省「平成28年就労条件総合調査」(常用労働者、小企業は30~99人)

 

 

ご意見・ご感想はこちらから

労働政策センター

中村天江
大嶋寧子
古屋星斗(文責)

次回 「さらなる「賃上げ」に向けた3つの推進政策」 1/23公開

 

2018年01月19日