Column

 

もう1つ、メンバーシップ型組織への転職で重要なのは、転職先での人間関係の構築だ。ある人材会社のヘッドハンターは、日本企業のこの特徴を次のように説明する。

「外資系では、転職は機械の部品を替えるみたいなもので、歯車を替えて油を差してねじを締めたら、あとは回しておけば大丈夫です。でも、日本でそれをやると、ポロッと取れてしまうんですよ。接ぎ木みたいなもので、元木と接ぎ木がくっつくまでの期間は、どちらかが派手に動いたら、どんな名木にきれいな名木を接ぎ木しようとしても失敗します。外資はスキルだけですが、日本は人間関係的な接着が大事。それに3カ月、6カ月とかかります」

複数の調査研究で、受け入れ企業で上司らのサポートがある転職者のほうが、入社後の適応が進み、活躍することがわかっている。

 

期待をかけてくれた人


出所:リクルートワークス研究所(2016)「UIターン人材活躍のセオリー」

 

この結果は、当たり前だと思うかもしれない。しかし、現実には、「転職者=即戦力」だからと、受け入れ組織が本人に任せっぱなしにし、本人もすぐに戦力化しなければというプレッシャーから、周囲にサポートを求めにくくなり、さらには、これまでの経験をただちに発揮しようとして軋轢を生むことが、少なからず起きているのだ。

 

100年キャリア時代、年をとっても転職できる環境を

転職における「適応」問題は、ポテンシャルが重視される若手の採用よりも、豊富な経験を有している中高年の採用で、顕著に表れやすい。調査データでも、企業が中高年採用を敬遠する理由を見ると、1位の「給与が高いから」の後には、入社後の適応や活躍に対する懸念がずらっと並ぶ。

 

中高年社員を中途採用したくない理由


出所:人材サービス産業協議会(2013)「中高年ホワイトカラーの中途採用実態調査」

 

長寿化と高齢化が進展する今後、年をとってから、キャリアチェンジに挑む個人は増えていく。企業のほうも、不確実な事業環境を乗り越えるべく、新規事業に取り組んだり、新たな販売チャネルを開拓したり、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングを進めるうえで、既存社員にはないノウハウや経験を有した人材を必要としている。

しかし、日本の労働市場では、構造的に「適応」問題が起こりやすい。それを乗り越え、中高年が円滑に転職できる環境を整備していく必要がある。

かつて、転職は当たり前のことではなかった。だからこそ、「転職=即戦力」という、新卒採用との差別化が重要だった。そして、転職は当たり前になった。転職が普及する過程で、欧米のジョブ型の仕組みに倣い、労働市場の需給調整機能を整備し、個人の専門性を評価し、求人(ジョブ)と結びつけるやり方も普及してきた。

ここからさらに、労働市場を発展させるには、メンバーシップ型の日本の労働市場ならではの打ち手が必要になる。転職後のアンラーニングの促進は、典型的なその1つだ。ほかにも、副業・兼業を通じて次第に新たな仕事に移っていくやり方や、グループ企業内や取引先への転職を増やしていくことも考えられる。
「転職=即戦力」。これを、幻想ではなく、現実のものにしていくために。100年キャリア時代、労働政策においては、個人・企業双方に対して、円滑な転職を支える施策の拡充が求められている。

 

※濱口桂一郎(2013)『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』などに詳しい。

 

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労働政策センター

中村天江(文責)
大嶋寧子
古屋星斗

次回 「企業の人材投資と転職増は両立するか」 12/21公開

 

 

2017年12月18日