全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」雇用期間が不明な人々 玄田有史

「自分の雇用契約の期間を知っていますか」
そんな質問をされて、あなたは答えられるだろうか。
「私は1年契約のパートです」「定年まで期間の定めはありません」など、多くは正確に答えられる。労働基準法では、労働契約の締結に際し、雇用契約期間を含む労働条件の明示が義務付けられている。契約の際に渡されたはずの労働条件通知書を見れば、契約期間は書いてある。

しかし実際には自分の雇用契約期間が「わからない」という人は少なくない。2012年に総務省統計局が実施した「就業構造基本調査」によれば、雇用契約期間 が不明の人々は、実に445万人に達している。その数は雇用者全体の8%に相当し、正社員以外に限れば、16%が契約期間を「わからない」という。

雇用契約期間が不明の人々は、どんな状況にあるのか。リクルートワークス研究所が2016年に実施した「全国就業実態パネル調査」から、正規以外の雇用者(在学中を除く)のうち、雇用期間が不明の人々(以下、期間不明)の働く実情を調べてみた。

図1 時間あたり賃金(円)
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図1には、調査から求めた時間当たり賃金を雇用期間別に示した。無期雇用、有期雇用(1年以上)、有期雇用(1年未満)の間で、賃金に大きな違いはない。それに対し、期間不明は、平均値と中央値のいずれも、有期や無期に比べて、賃金は低くなっている。

全国就業実態パネル調査からは、上司や先輩からの指導や新しい知識や技術の習得機会の有無といった能力開発の状況もわかる。調べてみると、期間不明な人たちほど、能力開発のチャンスも限られていた。仕事や職場の人間関係の満足度なども期間不明は低い。期間不明の人々は、正規雇用以外のなかでも、抜きん出て厳 しい状況にある。

期間不明になりやすいのは、どんな人たちなのだろう。分析からは、女性、若者、未婚などが、不明のことは多かった。大学への進学経験者は期間不明になりにくい反面、中学3年時の成績が芳しくなかったという人ほど、期間不明になりやすい(図2)。

図2 中学3年時の成績と雇用期間(学卒正規以外雇用者)
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一方で、雇う側にも特徴が見られる。従業員の少ない小規模企業や、コンビニや美容業などの参入が活発な業種ほど、期間不明は、特に発生しているようだ。

法律上問題があり、働く困難にもさらされやすい期間不明は、どうすれば減らしていけるのか。全国就業実態パネル調査からは、解決に向けたヒントも見られる。 まずは、労働者の利益を代表して交渉する組織があったり、交渉の手段が確保されている職場ほど、期間不明は生じにくいようだ(図3)。人材紹介会社や派遣会社、ハローワークなど、雇用契約に専門的な知識を持つ仲介者を通じて就職した場合も、期間不明は起こりにくくなっている。

図3 労働者の利益を代表してくれる組織がある・手段が確保されている
(学卒正規以外雇用者)
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現在、正規雇用以外の労働者の待遇改善が急がれている。そのためにまず社会全体で取り組むべきは、契約ルールを徹底普及し、期間不明の人々を減らしていくことなのだ。

玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。