全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」仕事と生活を両立できる職業はあるのか 久米功一

より少ない労力でより多く稼ぎたい――。働いたことがある人のだれもが抱く願望だろう。しかし、そのような都合のいい仕事はなかなかないのが現実だ。人びとは、さまざまな制約の中で、仕事と生活の折り合いをつけながら暮らしている。

この「折り合い」とは、どんなものか。経済学に「補償賃金仮説」という考え方がある。不快感を伴う仕事に対しては、それを補償するように賃金が上乗せされるというものだ。これが成り立つならば、生活を犠牲にして働いている人ほど、より多くの収入を得ていなければならない。

では、その実態はどうなっているのか。ここでは、働き方を可視化したWorks Indexのうち、生計の自立とワークライフバランスの関係に着目したい[1]。「生計の自立」は、個人の労働所得(働いて得た収入)がどの程度自分の生活を成り立たせているか、「ワークライフバランス」は、適切な労働時間や休暇などがあり、無理なく働けているか、について0~100で得点化したインデックスである[2]

職種別の結果(下図)をみてみよう。縦軸に生計の自立、横軸にワークライフバランスをとった散布図であり、プロットされた数字は職種番号を表す[3]。はじめに、縦軸(生計の自立)をみると、スコアが高いのは、経営企画、開発職(ソフトウエア関連職)、会社・団体等管理職である。これらは、高度専門的で非定型な仕事であり、その収入が多いことも頷ける。しかし、同時に、横軸のスコアは平均値を下回っている。休みがとれない、忙しい職種であることも容易に想像がつく。

図.生計の自立とワークライフバランスとの関係(職種別)※クリックで拡大します図.生計の自立とワークライフバランスとの関係(職種別)

横軸(ワークライフバランス)はどうか。家政婦(夫)・ホームヘルパーなど、OA機器オペレーター、ウエイター・ウエイトレスのスコアが高い。これらの仕事は、業務範囲が明確で、勤務シフトに融通が利く仕事といえそうだ。その一方で、生計の自立スコアがかなり低い。働き方の自由度を確保しながら、いかに仕事の付加価値を上げていくかが課題といえよう。

図からは、仕事と生活のトレードオフの関係がみてとれた。これは、補償賃金仮説の示唆する通りだ。どの組み合わせが最適なのか。それは、個人の嗜好によるので、唯一の解は存在しない。ここで、留意すべきは、2つの斜めの点線が示すように、トレードオフの職種間のばらつきがあることだ。多くの職種で、仕事と生活のトレードオフを受け入れつつ、その両者をより高いレベルで実現する余地があることを示唆している。

[1] Works Indexの詳細については、リクルートワークス研究所(2016)『Works Index 2015 ―日本の働き方の定点観測―』を参照。
[2] 「生計の自立」は2項目(「自分の労働所得で自分の生活を成り立たせている」「自立者の平均所得からの乖離(が少ない)」)、「ワークライフバランス」は、4項目(「残業時間の長さ」「休暇の取得」「出産・育児や介護などによる離職」「勤務時間や場所の自由度」)から構成される。
[3] 図の数値および職種番号については、脚注1のレポート図表20を参照。

久米功一(リクルートワークス研究所 主任研究員/主任アナリスト)

本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。