Column

なぜ今日も共働き夫婦はケンカをするのか 孫亜文

仕事で夜遅くに帰ってくる父は、いつも当たり前のように夕飯後の皿洗いをする。土日は趣味に打ち込みつつ、掃除洗濯を進んで行う。母が働いていたときからそうである。
しかし、一歩家の外へ出ると、共働き夫婦のケンカの原因がまさにこの家事分担にあることを目の当たりにする。
仕事に追われるがゆえに家事を妻に丸投げしている既婚男性、家事・育児を一手に担うがゆえに思う存分仕事ができない既婚女性。
働く人々にとって、「仕事と家庭の両立」はとても難しいことのようにみえる。既婚男性は「仕事」、既婚女性は「家事・育児」が負担となり、それがストレスの一因となってしまう。

この両立の負担を少しでも軽くし、ストレスを軽減させるために、私たちはなにができるのだろうか。このコラムでは、ストレスを感じる原因を探ることでヒントを見つけたい。

「全国就業実態パネル調査」では、2015年の1年間に少しでも働いた人を対象に、仕事と家庭の両立ストレスの感じ方と原因を調査している。
ここでの仕事と家庭の両立ストレスとは、働く人々が日々の中で感じているストレスのうち、「両立」に焦点をあてたものを指す。たとえば、仕事が終わらず家族との予定をキャンセルしたときに感じるストレス、家庭の事情で仕事を早退したときに感じる後ろめたさからのストレスなどがそうである。

図は、20歳から64歳までの男女について、仕事と家庭の両立ストレスの大きさと両立ストレスを感じる原因項目の関係をプロットしたものである。□が男性の両立ストレスの大きさ、○が女性の両立ストレスの大きさ、▽が両立ストレスの原因となる仕事の項目、△が家庭の項目を表す。□と〇の大きさが大きいほど、両立ストレスは大きい。
ここでは、両立ストレスの大きさと原因項目の近さをみることで、両立の負担となっている原因が何であるかがわかる。たとえば、図の上の方では仕事よりも家庭の項目が多く、その項目は両立ストレス(ストレス小)よりも両立ストレス(ストレス大)に近い。これは、家庭の方が仕事よりも働く人々の両立ストレスを強めていることを意味する。

 

図.両立ストレスの大きさと原因項目の関係[1]

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では、男女別に両立ストレスの大きさと原因項目の近さをみていこう。
最初に気付くのは、仕事の項目(長時間労働や不規則労働、職場の人間関係、仕事内容や責任の重さ)と男性の両立ストレス(ストレス小、ストレス中)が近いことである[2]。これは、仕事が男性にとって両立の負担となっていることを表す。対して女性では、家事の項目(食事の支度、掃除や片付け)や育児(子どもの世話)と両立ストレスの大きさ(ストレス小、ストレス中)が近い[3]。これは、家事・育児が女性にとって両立の負担となっていることを表す。
図からは、仕事は男性、家事・育児は女性の両立を妨げる一因となっていることがわかる。

しかし、仕事や家事・育児以上に、働く人々にとって両立の負担となっている原因が存在する。それは「人間関係」である。

図をさらにみると、男性の両立ストレスは大きくなるにつれて配偶者との関係項目(配偶者・パートナーとの性格不一致、配偶者・パートナーの非協力・無理解)と近くなることがわかる[4]。女性も両立ストレスが大きいほど周囲との関係項目(近所・子どもを通じた人間関係、親・親戚との関係、配偶者・パートナーの非協力・無理解)に近い[5]。つまり、男女で内容に違いはあるものの、人間関係は仕事や家事・育児よりも、働く人々にとって両立の負担を重くしていることになる。

人間関係にはさまざまなものが含まれており、両立の負担を軽くさせる決め手がコレだと一概に断言できない。
もしかしたら、既婚男性は配偶者からの「仕事への無理解」や「家事・育児への要求」が両立の負担となっているのかもしれない。既婚女性は、家族や近所からの「働くことへの無理解」や「家事・育児プレッシャー」によって、両立を妨げられているのかもしれない。

既婚男性が仕事後に既婚女性のように家事・育児をすること、既婚女性が既婚男性のように家事・育児を夫に任せ遅くまで仕事をすること、これらがあたりまえとなる日はもう少し先になるだろう。
でも今、たとえば、家事・育児に追われている妻に毎日感謝の言葉を伝えたり、仕事で疲れた夫の話をゆっくり聞いたり、お互いにどんな一日を過ごしたのか、何を考え、何をしたのか、相手のことを知り、話すだけでも、私たちのストレスは少し軽くなるかもしれない。

共働きの夫婦が、帰りが遅いことや家事分担でケンカをしてしまうなら、まずはお互いの想いを伝え、ギャップを埋めるところから始めればよい。
もしかしたら、父と母も昔はそんな日々を過ごしていたのかもしれない。

 

[1] 分析対象者は、2015年1年間に少しでも仕事をした男女のうち、仕事と家庭の両立ストレスを感じたと回答した26,338人である。分析手法は、男女別の両立ストレスの大きさと原因項目のクロス集計表を用いたコレスポンデンス分析である。

[2] 図表1のカテゴリー①

[3] 図表1のカテゴリー②と④

[4] 図表1のカテゴリー③と⑤

[5] 図表1のカテゴリー④と⑤

 

孫亜文(リクルートワークス研究所 アシスタントリサーチャー)

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本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

2016年09月21日