Column

Web会議室「Zoom」は、組織の枠を超えて、オープンでフラットなコミュニケーションを生み出し、結果としてイノベーションを促進する可能性がある。それはまさに革命的な変化だと語る田原真人氏。田原氏は、物理ネット予備校「フィズヨビ」の代表であり、「反転授業の研究」や「Zoom革命」のコミュニティを主宰し、先日『Zoomオンライン革命!」を上梓した。その田原氏にインタビューを敢行。この数年の取り組みについて伺った。

聞き手:リクルートワークス研究所 副所長 中尾隆一郎

 

「正解を学ぶ」から「自分たちで考える」―これが『反転授業』

中尾隆一郎(以下、中尾):
まずは、田原さんと「反転授業」の出合いについてお聞かせください。

田原真人氏(以下、田原):
今までの教育は、教室で「知識取得」をし、自宅などで宿題をすることで「知識定着」をしていました。しかし、重要なのは「知識定着」であり、さらに「自ら考える力」を伸ばすことです。そう考えると、より重要な「知識定着」に教師が関与した方が良いですよね。ですので、今までのやり方を反転させ、自宅では、デジタル教材などを活用して「知識取得」をし、教室ではこの知識を用いて問題を解き、教師や友人が課題解決の支援をする、というのが反転授業の考え方です。これにより、学習意欲の向上と知識の定着が促進する効果が期待できます。

物理ネット予備校「フィズヨビ」代表の田原真人氏物理ネット予備校「フィズヨビ」代表の田原真人氏

また、今までの教育は、どちらかといえば画一的に同じ人間を育てる、正解にあてはめていくことが求められてきました。いわば大量生産の教育ですね。そこから外れていくのは落伍者とされ、無意識のうちに違いを許容できない人格が形成されてしまいがちでした。この“違い”に対して心が反応すると、“どちらが正しいのか”という思考が働き、一方を排除しようという動きに結び付いてしまいます。加えて、世の中が複雑になっていく中で、同じような人が集まるのではなく、違う人が集まって議論することの重要性も感じていました。

しかし、実は私自身、かつては旧パラダイムの最先端ともいえる予備校の講師をしていたのです。その後、2005年にはオンライン予備校をスタートさせ、ビジネスとして軌道に乗りだしていました。そのころにMOOCsなど無料で利用できる教育コンテンツが生まれてき始めました。予備校業界にとっては一大事です。われわれのビジネスがなくなるかもしれないという危機感です。同時に、実験的に行っていた「反転授業」の可能性に賭けてみたいというのがありましたね。

中尾:海外から黒船襲来。その際に原点に戻られたわけですね。しかし、当時まだ日本では「反転授業」はメジャーではなかったですよね。

田原:その通りです。当時、「反転授業」に取り組んでいた人は、ほとんどいませんでした。興味を持ち始めた人が、各校に1人くらいの割合でいたと思いますが、彼らにしても学生時代には、一斉授業を受けて教師を志したわけです。「反転授業」の経験もない。しかも、「反転授業」を学ぼうにも日本語の本はありませんでした。海外の本を読んで学ぶのは骨が折れます。そこで海外の本から学ぶ読書会をしようとFacebookで呼びかけ、「反転授業の研究」というグループを作りました。それを発展させて勉強会をしたところ110人の人が集まりました。みな、言葉は知っているけれど、やったことがない。そこでまず、私たちから集合知による学びを実践していこうということになり、オンラインでの勉強会を繰り返していくうちに、あっという間に広がり、1000人、2000人になり、現在は4500人を超えるコミュニティになっています。
当然ですが、このコミュニティでは、従来の一方向の学びではなく、「反転授業」を実践しています。結果、コミュニティから「反転授業」の実践者が次々に生まれていっています。

中尾:「反転授業」ができる人は増えた。しかし、無料教育コンテンツの脅威はなくなっていませんよね?

田原:一方的に教える無料の教育コンテンツだけでは、人は学び続けられず、修了率が1割を切っているという実態も分かってきました。コンテンツだけでは学びは生まれないのです。実際に自分自身でオンライン講座をスタートしてみたところ、最初は約4割の方が途中で脱落してしまいました。次に授業設計のプロとカリキュラムを再構成した結果……今度はなんと約7割が脱落してしまったんです。たとえばリアル世界のワークショップなら、終了後に気の合う仲間たちで食事をしながら、相互に応援し合えるといった楽しみもありますが、オンラインの場合はこうしたつながりが少なくなります。そこで、授業とはまったく関係のない雑談ルームを設置したところ、なんとその回は脱落者がゼロになったのです。お互いがフラットな関係で学んでいくにあたり、こうした一見無駄に見える交流も必要なんだと気づかされました。

 

リアルミーティングの代替ではないオンラインミーティングの優位性

中尾:オンラインで行うのは、リアルミーティングの代替と感じられている方も多いと思うのですが、何か優位性はあるのでしょうか?

田原:私自身、2013年に、8週間にわたって開催されたフィールズ大学のオンライン講座を受講し、ワールドカフェとオンライン講座の運営ノウハウを学びました。この体験をベースとして、オンライン上で「反転授業」の実践を試みたんですが、その時に発見したのが、オンラインはリアル世界と比べて「多様性の確保が圧倒的に容易」だという点です。また、「オンラインならではの人間関係の深まり方がある」ようにも感じました。その理由としては、全員の顔が画面に同じ大きさで表示されるため、「対等な関係としてイメージできる」こと、「自分の顔が表示されていることで内省的になりやすい」ことなどが挙げられます。しかめっつらをしている自分の顔を見たら、改善しようと思いますよね(笑)。逆にリアル世界の方が優れているのは、同調的なつながりが発生しやすい点ですね。

 

ノウハウの成熟とWeb会議室「Zoom」との出合い

中尾:現在はオンライン講座にWeb会議室「Zoom」を採用し、「Zoom革命」を主宰されるほど使いこまれていますが、実際の利便性はいかがでしょうか?

Web会議室「Zoom」を利用する田原氏Web会議室「Zoom」を利用する田原氏

田原:Web会議室「Zoom」と出合ったのは、オンライン講座のノウハウが固まりつつあった2015年でした。試しに使ってみたところ、操作が簡単なことに加えてビデオや音声の品質もクリア、さらには最大100人の参加があっても接続が安定しているなど、オンライン講座として理想的な機能がすべてそろっていたんです。当時はツールの独自開発まで考えていたくらいなので、まさに渡りに船でしたね。バージョンアップでブレークアウトセッション機能(参加者が小会議室に分かれる機能)が追加されてからは、さらに利便性がアップしました。各種機能の使い方に関するノウハウはすでに持っていたので、ここからは実践あるのみでした。

 

ピラミッド型組織からアメーバ型組織への移行で学びが拡大

中尾:オープンイノベーションと密接な関係がある「自己組織化」についてもお聞かせください。

田原:私は大学時代に生命現象の自己組織化について研究していたのですが、細胞性粘菌アメーバは餌となるバクテリアがあるうちは奪い合いを行うのに対し、食べつくして飢餓状態になるとお互いにシグナルを出し合って集合し、ナメクジ状の多細胞集合体を形成します。こうした生物の営みの中に、オンラインコミュニティにおける自己組織化のプロセスと同じ性質が練り込まれていると感じました。

たとえば、学習者中心のワークショップを開催し、最初に「自由に動いてください」と指示すると、自由の許容範囲を探りながら動き始めます。そして私が場の状況に応じて動きをリフレーミングするうちに、アクティブとノンアクティブの人で形成された縞模様が見えてくるんです。日本の管理者、教育者は、「同じ」を大事にしますので、こうした違いの発生を恐れている傾向が強いのですが、あえて起こすことに意味があります。この縞模様が発生した状況でお互いについて尋ねると、徐々に疲れてきたアクティブな人と、エネルギーが蓄積されたノンアクティブな人の循環が始まり、コミュニティが活性化するというわけです。

既存の概念や役割をあてはめようとすると、どうしてもそこに該当しない人がこぼれてしまいます。自己組織化のプロセスが回るためには、ひたすら真実を明かしていくことが重要です。参加者の役割を外して自分自身を出してもらい、管理者側でも本音を出していく。これにより、自己組織化が一気に促進します。上からの抑える力が働き続けるピラミッド型の組織ではなく、フラットで柔軟性のあるアメーバ型組織が、学びの拡大につながっていくわけです。

中尾:こうした取り組みを、すでに実践されているそうですね。

田原:2017年の7月から8月にかけて、「自己組織化コミュニティの作り方」という講座を開講し、8週間のワークショップを実施してみました。約100人の受講者に混じって私自身も対話に参加してみたのですが、大きな収穫は集合知から学ぶ可能性の大きさを体感できたこと、そして信頼関係がオンラインでも築けたことですね。参加者が主催するスピンアウト企画が毎回立ち上がり、新たなコミュニティとして現在でも継続しているほか、結婚を前提として付き合い始めたカップルが誕生するなど、予想外の出来事も起こりました。

従来の取り組みでは“自分の力でできること”に思考が限定しがちでしたが、たとえば100人いれば“みんなの力でできること”まで思考の範囲が一気に広がります。これまでとはレベルがまったく異なる集合知が生まれるわけです。“互いにつながり合う個”が、拡大した創造性を持ち寄る集合知には無限の可能性があり、共同創造の世界の入口に到達したように感じています。

 

「オンライン黒船襲撃」で新しい未来を創造

中尾:最後に、田原さんにとってオープンイノベーションとはどのようなものでしょうか?

田原:オープンイノベーションは、揺らぎとリフレーミングの学びだと考えます。旧来の教育では、揺らぎを可能な限り排除してきましたが、揺らぎを残しつつリフレーミングで集合知へ導くことが、もっとも大切ではないでしょうか。
オープンイノベーションといえば、面白い試みがあります。2016年11月に、リアル会場とオンライン会場で同時にグループ対話を行う「世界と繋がりながら語り合うハイブリッド・ワークショップ」を開催しました。教育現場や企業などにオンラインへの参加を促すのではなく、リアルな対話の場にオンラインから大人数で押しかける「オンライン黒船襲撃」が生まれました。リアルな会議室のスクリーンにオンラインで会議参加する人たちを投影して、一体となってワークショップを行ったのです。組織の枠を超えてつながることに保守的な考えを持っている人もいますが、こうした体験を通じて新たなつながりが生まれ、お互いのメンタルモデルに変容を起こしながら拡大していくわけです。今後もこのオンライン黒船襲撃をさまざまな場所で展開し、新しい未来を創り出していきたいですね。

中尾:ありがとうございました。

 

【今回の事例からの学び】
本当のオープンイノベーションを実現するためには、3つの壁を越える必要があります。
それは、(1)社内の壁、(2)ネットワークの量の壁、(3)ネットワークの質の壁です。
オープンイノベーションの取り組みは、まず社外に情報を投げかけることから始まり、その情報に適切な量・質のリアクションをしてくれるネットワークが必要です。
また、いつの時代もテクノロジーがイノベーションをけん引しています。今回の「Zoom」は私自身もよく利用しているのですが、とても便利で、これらの壁を越えるのを支援してくれるテクノロジーです。「会議室」というコンセプトなので、オンライン上の会議室の場所を参加者に送付すれば、初めての人でも簡単にセットアップができてオンライン会議がスタートさせられます。機能が多様なのですが、簡単に使えます。また無料で使える機能が充実しているのも嬉しいです。
社内の枠を超えて、物理的な場所の枠を超えて、コミュニケーションがとりやすくなります。
田原さん自身、教育者からスタートして、現在はビジネス向けのイノベーション支援まで活動フィールドを広げられています。本当のオープンイノベーションを実践するには、業界を超えた3つめの壁を越える必要があります。田原さんのような方が1人でも多く出てくると良いですね。

リクルートワークス研究所 中尾隆一郎

 


プロフィール
田原 真人(たはら・まさと田原 真人(たはら・まさと)
早稲田大学大学院(物理)で、複雑系の物理、自己組織化などを研究。博士課程中退後、予備校講師になり、『微積で楽しく高校物理が分かる本』など、物理関連の書籍を9冊執筆。2013年に「反転授業の研究」を立ち上げる。その後、「Zoom」を使ったオンラインワークショップの分野を開拓する。国際ファシリテーターズ協会日本支部理事。2017年に出版した『Zoomオンライン革命!』には、学び、組織、働き方のパラダイムシフトのヒントとなる事例を掲載。

2017年12月01日