Column

世界中のプロフェッショナルが、それぞれの専門領域について熱く語るトークイベント「TED Conference」。その講演内容は「TED Talks」としてインターネット上で動画が無料配信されており、欠かさずチェックしているという人も多いだろう。実は日本において、このTEDの医療版ともいえる「MEDプレゼン」を9年前から開催している団体がある。それが、「“参加する医療”で社会を良くする」ことを目的としたチーム医療フォーラムだ。そこで今回は、医療法人財団 松圓会 東葛クリニック病院 副院長であり、一般社団法人 チーム医療フォーラム 代表理事を務める秋山和宏氏にインタビューを敢行。チーム医療フォーラムを設立した経緯や、具体的な活動などを伺った。

聞き手:リクルートワークス研究所 副所長 中尾隆一郎

 

“参加する医療”で社会を良くする

中尾隆一郎(以下、中尾):まずはチーム医療フォーラムの概要についてお聞かせください。

秋山和宏氏チーム医療フォーラム 代表理事の秋山和宏氏

秋山和宏氏(以下、秋山):医療界では十数年前から、高度化・効率化のために専門分化した知識や人材を再統合し、さまざまな医療専門職が互いに連携しながら治療にあたる「チーム医療」が注目されています。こうした背景から、「“参加する医療”で社会を良くする」ことを目的として、2008年12月1日に設立したのが一般社団法人のチーム医療フォーラムです。医療を通じてより良い社会が築けるよう、将来の医療を担うリーダーとなる人材の育成に取り組んでいます。私たちの組織で、現在実施している主な取り組みとしては、季刊誌「ツ・ナ・ガ・ル」の発刊、医療人の志と思いをプレゼンテーションというスタイルでダイレクトに聴衆へ送り届けるイベント「MEDプレゼン」、草の根勉強会支援、チーム医療フォーラム公式メールマガジンの配信などが挙げられます。草の根勉強会支援の一環として、高齢者の低栄養問題を解決するWAVES Japanの活動支援も行っています。


学会でもなく、個人でもなく“学ぶ場”をサポートしたいという思い

中尾:チーム医療フォーラムを設立されたきっかけはどのようなものだったのですか?

秋山:私の出身地は“義”の心を大切にする会津で、中学生の頃から「世の中はもっと良くなるべき」と強く思っていました。こうした思いを形にするべく、2003年9月に活動開始したのが、チーム医療フォーラムの前身となる任意団体「チーム医療人フォーラム」です。
任意団体だった当時は、主に講演会などを通じて合計2000人以上へ啓蒙活動を行いました。しかし、ここである疑問が浮かんだんです。たとえば、一定数の参加者が集まればイベントとしては成功ですが、ひとつの病院から1名が参加した場合、果たしてイベントで学んだ取り組みをそれぞれの病院に戻ってから実践できるのか、ということです。個人の力には限界があるため、特に大規模な病院では難しいでしょう。これでは、せっかく得た講義内容も意味がありません。

一方で、チーム医療を推進する取り組みとしては学会レベルだけでなく、草の根的な勉強会をしている方々も数多くいらっしゃいます。そこで、こうした“学べる場”をサポートする法人を作ろうと思ったのが、チーム医療フォーラムを設立したきっかけでした。


参加した人が変わる「MEDプレゼン」

中尾:そうした学べる場をサポートする取り組みのひとつとして生まれたのが、「MEDプレゼン」なんですね。

秋山:そうですね。「MEDプレゼン」は、2009年から2011年にかけて開催していた「チーム医療推進全国会議」を前身としており、2012年に名称を変えてから今年で9回目を迎えました。自薦枠プレゼンターが登壇する午前の「自薦枠セッション」と、メインプレゼンターが登壇する午後の「メインセッション」で構成されており、合計約20名によるプレゼンテーションが行われます。
特徴的なのは、自薦枠プレゼンターおよび聴衆を医療関係者に限定せず、一般の方でも参加できることですね。医療関係者にとっての常識が、一般の方には新しい知識として受け容れられることは多いですし、逆に患者やビジネス的な発想から医療関係者に新たな刺激をもたらすことも多々あるわけです。そしてもうひとつ、各プレゼンテーションの様子はイベント開催後にインターネット上で見られるようになりますが、会場でしか体験できない“リアルな記憶”も非常に重要だと考え、こうしたイベントを開催しています。実際に参加者からは、昔のイベントと比べて「MEDプレゼンは参加した人が変わる」といった評価もいただいています。


「MEDプレゼン」には“社会を良くする装置”としての役割も

中尾:現場の生の情報を医療関係者だけではなく、一般の方々にまで伝えるのは、オープンイノベーションと通じる考え方ですね。

秋山:医療は基本的にオープンな世界ですから、こうした取り組みも受け容れられやすいように感じます。私自身、あくまでも“競合”ではなく互いに“補完”することが、将来的な医療の発展につながると考えていますので、より多くの方々に参加していただきたいですね。
将来的な観点では、「MEDプレゼン」自体も“社会を良くする装置”としての役割を目指しています。最初は聴衆として参加した方がプレゼンターになり、さらにオーガナイザーとして各地で「MEDプレゼン」を開催する、といった流れによって、補完の幅を拡大していくわけです。実際にこうした仕組みを通じて、東京だけでなく宮城・秋田・群馬でも「MEDプレゼン」が開催されました。

中尾:「MEDプレゼン」をきっかけに生まれた協働の例はありますか?

秋山:たとえば、TOKIMEKU JAPANの代表取締役社長をされている塩崎良子さんの例が挙げられます。塩崎さんはもともと数多くのアパレルショップを経営していましたが、2014年に若年性乳がんを発症し、闘病のため一度は経営者としての道を断念されました。しかし、主治医の提案でがん患者をモデルにした「サバイバーズFASHION SHOW」を開催。患者の立場から、改めてファッションの持つ重要性と可能性に気付き、2016年にTOKIMEKU JAPANを設立したんです。現在では、ファッショナブルなオリジナルケア用品ブランド「KISS MY LIFE ~live my own life~」や、がん患者へ贈るおしゃれなお見舞いギフトボックス「TSUNAGU-BOX」などを提供されており、そうした経緯や思いをプレゼンテーションしていただきました。そのプレゼンに共感された大手病院のトップが、この店を自分の病院でもオープンさせました。治療に取り組んでいる患者さんをファッションで元気にする試みが、始まっています。


「GDM(国民総筋肉量)」増加に向けてコミュニティ全体で健康維持を

チーム医療フォーラム秋山氏(左)と、リクルートワークス研究所 中尾(右)

中尾:直接オープンイノベーションとは関係ありませんが、個人的に興味を持っている、チーム医療フォーラムの取り組みがあります。それは「人生ラスト10年問題」です。詳細をお聞かせください。

秋山:医療の発展により、人々の平均寿命は格段に延びました。もちろん、要因としては食生活の安定などもありますが、日本では平均寿命が戦後と比べて男女ともに30歳以上も延びているんです。しかし、人々が長寿になった一方で、寝たきりなど自立した生活ができない期間が増えてしまっているのもまた事実といえます。WHO(世界保健機関)では2000年に、平均寿命から自立した生活ができない期間を差し引いた「健康寿命」という概念を発表しました。日本においては、この健康寿命と平均寿命の差が約10年、つまり医療や介護が必要な期間が約10年にもわたることから、「人生ラスト10年問題」として喫緊の課題となっているんです。男性の人生ラスト10年を見た場合、ピンピンと元気に過ごしてコロリと往生する「ピンピンコロリ」が約10%、徐々に老化していくケースが約70%、そして寝たきり状態になる方が約20%を占める、という研究結果もあります。


有効な防止策は筋肉量を落とさないこと

中尾:自立した生活ができない期間を減らすには、どのような対策が有効なんでしょうか?

秋山:人生ラスト10年問題においては、歩けなくなる、嚥下障害によって食べられなくなる、認知できなくなる、という順番で、自立した生活が送れない状況へと移行していくケースが目立ちます。これらを防ぐのに役立つのが、筋肉量を落とさないことです。
加齢や疾患による筋肉量の減少は「サルコペニア(sarco:筋肉、penia:減少)」と呼ばれていますが、筋肉量が落ちなければ健康的に歩ける期間が長くなりますし、嚥下機能も舌や顎などの筋肉に影響を受けます。また、アルツハイマーの原因はアミロイドβというタンパク質の蓄積が原因のひとつといわれており、こちらも運動による改善効果が見られているんです。
さらに、人間は感染症にかかったり怪我を負うと、点滴のエネルギーではなく筋肉を燃焼させて闘うことも明らかになっています。手術なども身体にとっては外傷のひとつなので、筋肉量が少ないと手術自体は成功しても体力がもたず、結果的にリスクが高まってしまうわけです。そこで最近は、術前の診断で体力を算出するような取り組みも増えています。

 

筋肉量で国民の健康レベルを表す「GDM(国民総筋肉量)」に注目

中尾:特に高齢者の場合、体力がなくて手術を行えない、ということがあるのですね。

秋山:そうなんです。こうした点からぜひお勧めしたいのが、筋肉量によって国民の健康レベルを表す「GDM(Gross Domestic Muscle:国民総筋肉量)」の増加に向けた活動です。国の豊かさを示す経済指標のひとつに「GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)」がありますが、極論ですが、1社が驚異的な利益を上げれば、GDPの底上げが可能になります。一方で、GDMの基盤となる筋肉量は、屈強な若者でも1.5倍から2倍程度までしか増えません。そこで高齢者を含めて、国民全体で筋肉量を増やす取り組みが必要になります。具体的には、しっかりと栄養を摂取し、メディカルウォーキングなどで筋肉量を増やすことですね。国民全員がこうした「貯筋生活」をすることで、若者が高齢者を支援するような社会になれば、人生ラスト10年問題の緩和にもつながります。

中尾:それでは最後に、秋山さんにとって「健康」とはどのようなものかお聞かせください。

秋山:WHOでは健康を「心身ともに満たされた状態」と定義していますが、私は「誰かの役に立っている状態」が真の健康だと思っています。人生の中でより長い間、誰かの役に立っている状態を維持するには、互いに支えあうコミュニティが必要不可欠です。若者はもちろん、まだまだ元気な前期高齢者が、介護を要する後期高齢者に対してサービスを提供する、といったことも考えられるでしょう。
遠慮しがちな日本人の気質として「他人の世話になりたくない」という方も多くいらっしゃいますが、少し見方を変えてみてください。その方がこれまで元気でいられたのは、コミュニティの中でサービスを受けてくれていた先輩たちのおかげでもあるんです。後期高齢者となっても、後輩たちの健康に貢献できると考え、気持ち良くサービスを受け容れることが、コミュニティ全体の健康維持に役立つんですね。

中尾:ありがとうございました。

 

【今回の事例からの学び】
本当のオープンイノベーションを実現するためには、3つの壁を越える必要があります。
それは、(1)社内の壁、(2)ネットワークの量の壁、(3)ネットワークの質の壁です。
今回の事例は、「MEDプレゼン」という場がオープンイノベーションを促進する場になっているということです。事例にあるように、ご自身の病気をきっかけに考えたアイデアをプレゼンすることで、多様な専門家ネットワークという質の壁(3)を越えています。
また、GDMの話は、個人的に興味があります。GDPは経済を測定するのに有効な物差しのひとつです。またブータンの幸せを測定するGNH(国民総幸福量)もユニークな考え方です。では、健康の先行指標のひとつであるGDMを測定し、世界がそれを競い合う世の中なんてどうでしょう。指標を高めるため、各国の若者が高齢者の筋肉量を維持できるように、一緒に散歩している世の中。競っているのに何だか微笑ましいですね。

 

リクルートワークス研究所 中尾隆一郎

 


秋山 和宏

プロフィール
秋山 和宏(あきやま・かずひろ)

福島県会津若松市生まれ。防衛医科大学校、多摩大学大学院経営情報学研究科卒業。東京女子医大消化器病センター外科、至誠会第二病院外科、東葛クリニック病院外科勤務を経て現職。医学博士、MBA(経営学修士)。専門分野は消化器外科、チーム医療、医療経営、臨床栄養、褥瘡(じょくそう)。主な著書として「医療システムのモジュール化―アーキテクチャの発想による地域医療再生」(白桃書房、2008年発行)がある。
「週間 社会医療人 なるべく!」(http://tunagaru.org/)を好評配信中。

 

 

2017年11月17日